820話 らしくない終わり方
隊長が盗人クズを擁護するクズに言った。
「彼の犯罪は明らかです。街に着いたら衛兵に引き渡します。余罪が出てくるかもしれません」
隊長が盗人クズを無罪にしないとハッキリ言うと盗人クズは喚き散らしたが、もう一人のクズはあっさりしたものだった。
「そうか。じゃあ、しゃーないな」
と平然とした顔で言ったのだ。
「お、おい!俺を見捨てんなよ!」
もう一人のクズが笑いながら言った。
「街までは無事なんだ。それで十分だろ」
「……」
盗人クズは彼の言葉にぶつぶつ文句を言っていたが、何故か納得したようだ。
「もういいだろ。俺は戻るぜ。そろそろ出発だろ」
彼は相変わらず自分の立場を理解していないようだった。
勝手に客車へ戻ろうとするのを護衛達が止める。
「勝手な行動をするな!」
「ざけんな!俺は客だぞ!」
「お前には共犯容疑がかけられるって言ってんだろうが!何度も言わせんな!」
「お前も何度も言わせんな!俺は無関係だって言ってんだろうが!」
当然、クズの言うことが通ることはなかった。
ただ、共犯である証拠がないため、そのクズは武器を取り上げた上で護衛達の馬車に乗せ監視されることになった。
盗人クズのほうは護衛が乗る馬車の側面に縛り付けて運ばれることになった。
もはや人間扱いされていなかったが、それに関して文句を言う者はいなかった。(本人は除く)
「お前ら勝手なことしすぎだぞ」
客車へ向かうヴィヴィ達の前にやってきてそう言ったのは護衛の一人だった。
乗客であるヴィヴィ達が盗人クズの尋問に参加していたのが気に入らなかったようである。
「お前達は探索者か?それとも冒険者か?どちらでもないのか?」
「ぐふ、探索者だ。なったばかりだがな」
「つまりFか」
その護衛は見下した目を向け偉そうな態度でヴィヴィ達の行動を注意する。
「探索者になれて浮かれてんだろうがよ、あんま調子に乗って勝手に動くなよ。護衛の俺達に任せておけばいいんだ」
ヴィヴィは鼻で笑って反論する。
「ぐふ、そういう事は私達客の荷物をきちんと守れてから言え」
「て、てめえ!」
その護衛が声を荒げてヴィヴィを睨みつける。
その声を聞きつけ、まだ馬車に乗っていなかった護衛達が何事かと集まってきた。
「大体、お前達本当に探索者か!?カードを見せてみろ!」
その問いに答えたのはヴィヴィではなかった。
「その必要はありません。私が確認しました」
商隊の隊長だった。
「た、隊長!?」
「話は私にも聞こえていました。お客様の言うことは最もです」
隊長も乗客の荷物を守れなかったことを反省していたが、自分達の失態を乗客の前でしたくなかったので後で護衛達を集めて注意をするつもりであった。
だが、その話が出てしまった以上、後回しには出来ないと判断した。
「今回の荷物の見張り当番は誰ですか?この場にいますか?」
隊長が厳しい目を集まっていた護衛達に向ける。
護衛達の視線がある人物に集まる。
それはヴィヴィに文句を言って来た護衛であった。
思わぬブーメランを食らい、彼はうっ、と唸る。
「お、俺ですけど、でもクズが騒ぎが起こしたから……」
「それは言い訳になりません。そういう時こそしっかり見張っているべきでしょう」
「そ、それは……」
「すまない隊長。俺がきちんと叱っておく」
そう言ったのは騒ぎを聞きつけ、馬車から降りて戻ってきた護衛のリーダーだ。
彼はそのままヴィヴィに顔を向けると頭を下げた。
「礼が遅くなってすまない。今回は助かった。ありがとう」
「リ、リーダー!?」
自分のせいでリーダーが頭を下げることになってその護衛が慌てる。
「ぐふ」
「だが、こいつの言うことも一理ある。今後、何かあれば行動を起こす前にまず俺達に報告してくれ」
「ぐふ、余裕があればな」
「て、てめえ……」
「お前は黙ってろ!」
「す、すみませんリーダー……」
リーダーが再びヴィヴィに顔を向ける。
「自分を優先で守るのは当然だ。だが、この商隊を守る俺達護衛も信頼してくれ」
「ぐふ」
ヴィヴィは小さく頷いた。
ヴィヴィ達の態度をよく思っていないのはヴィヴィに文句を言った護衛だけではなかった。
それをリーダーが宥めた。
実はリーダーだけは隊長から彼らがリサヴィであることを知らされていた。
それを皆に黙っていたのはそれで彼らの仕事が変わるわけではないからだ。
サラの中でクズ達の行動に対する疑念が込み上げていた。
悩んだ顔をするサラにヴィヴィが気づく。
「ぐふ、不満そうな顔だな。暴れられなかったからか」
「ああっ」
アリスが相槌を打つ。
「そんなわけないでしょう!」
サラは一呼吸置いて感じていたことを口にする。
「あれで終わりだと思いますか?」
「それってどういう意味ですかっ?」
「一人が騒ぎを起こして皆の注意を引き、その間にもう一人が盗みを働く。辻褄は合います。しかし、」
「ぐふ、盗みを働いたクズはもう一人を巻き添いにしなかったな」
「ああっ、確かにっ変ですねっ」
クズ達は「幸福は独り占め、しかし、不幸はみんなで分かち合おう!」の精神で行動している。
共犯者であるはずのクズに盗人クズは見捨てられた。
その時点で全てを暴露してもう一人も巻き添いにする。
本当に無関係であっても巻き添いにする。
それがクズである!
クズという生き物である!
にも拘らず、盗人クズは巻き添いにしなかったのだ。
例えるなら、コーラを飲んでもゲップが出なかったようなものだ。
それほどあり得ないことであった。
「ぐふ、それにあの青い煙だな」
「ええ。あれは本当に皆の注意を引くためだったのでしょうか?まるで何者かに居場所を知らせる、いえ、それだけではなく他にも情報が含まれているようにも見えました」
「それってっ……」
「ぐふ、この先、クズ達の襲撃に遭うかもしれないな」
「ええ」
その会話はリオに聞こえているはずだが参加することはなかった。




