819話 自分の立場を理解できない
隊長は更なる疑問を口にする。
「では次にですが……」
もう盗人クズが嘘をついているのは明らかなのに何故まだ続けるのか?
それは隊長の顔を見れば明らかだ。
彼はどうやらSだったようで追い詰めることに快感を覚えているようだった。
そのことに皆薄々勘づいていたが止める者はいなかった。
彼のSが移ったのか、盗人クズが必死になって下手な言い訳をするのを聞くのが楽しくなってきたのか。
家族への土産話にでもしようというのかもしれない。
「あなたの荷物がリムーバルバインダーの中にあると言いましたね?」
「お、おう!そうだ!」
その言葉を聞き、盗人クズは何故か隊長が自分の味方だと思った。
もちろん、そんなことはない。
「あなたの荷物は荷物置き場に置いていなかったはずです」
「うっ……」
盗人クズは隊長が自分の味方ではないとわかり憎しみを込めた目を向けながら反論する。
「後から置いたんだ!」
「それが本当でしたら追加料金が発生します」
「ざけんな!」
「ふざけているのはあなたです」
「ざけんな!」
「それはもういいです」
ヴィヴィが盗人クズに問う。
「ぐふ、そもそもだ。開けられなかったのにどうやって入れたのだ?」
格下と思い込んでいるヴィヴィの指摘に盗人クズは腹を立て、即座に言い返す。
「うるせえ!棺桶持ちが!ガタガタ言わねえで開けてみろ!俺のもんが入ってるからよ!間違いねえ!俺が保証する!」
そう言ったクズの顔はなんか誇らしげだった。
「ぐふ、ではそれが何か言ってみろクズ」
「誰がクズだ!誰が!?」
「ぐふ、ああ、済まなかったな。言葉が足りなかった。盗人クズ」
「ざけんな!」
「ぐふ、いいからさっさと言え盗人クズ」
盗人クズは咄嗟に叫ぶ。
「プ、プリミティブだ!」
更に続く。
「金だ!金もだ!いや、宝石かもしれねえ!」
自分の持ち物のはずなのに曖昧な発言をする盗人クズ。
「ではお客様、念の為、中を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
隊長はヴィヴィを疑っているわけではない。
あくまでも形だけだ。
追い詰めるのが楽しいのだ。
「ぐふ、構わないが人数は制限させてもらう」
「もちろんです。確認するのは私だけです」
「ちょ待てよ!俺もだ!」
そう言ったのは盗人クズだ。
「俺は関係者だからな!」
そう言った盗人クズはなんか偉らそうな顔をしながらゴロゴロ転がり近づいてきた。
「……はい。問題ありません」
隊長の言葉に抗議する者がいた。
盗人クズである。
「ざけんな!俺にも見せろ!」
言うまでもなく彼にリムーバルバインダーの中身を見せることはなかった。
護衛が転がって近づいて来た彼を蹴って引き離していたのだ。
「必要ありません。あなたが口にした物はありませんでした。窃盗の犯人は間違いなくあなたです。あなたしかあり得ません。もうこれ以上、確認する必要はないでしょう」
「ちょ、ちょ待てよ!さっき言ったものは勘違いだったかもしれねえ!何が入ってたんだ!?なあ、教えてくれよ!おい!おいって!!」
隊長は盗人クズの喚き声を無視し、護衛の一人に別の場所で尋問しているもう一人のクズを連れてくるよう指示する。
すぐにもう一人のクズが護衛に連れられてやってきた。
そのクズは森で何かを燃やしていたことを否定していた。
その煙の調査に自分がいち早く向かっただけで別に犯人がいると言い張っていた。
当然、彼は盗人クズと共犯であることも否定した。
それだけではなく、
「そもそも俺はそいつの友達でも何でもねえ。駅で会っただけだ」
と言い切ったのである。
「な……お、おい……」
何か言いかけた盗人クズだったがもう一人のクズが睨みつけると沈黙した。
もちろん、彼の言葉を誰も信じてはいない。
「ぐふ、ではとりあえずこの盗人クズだけでも処刑するか」
「ちょ、ちょ待てよ!おい!助けてくれよ!」
盗人クズがすがるような目をもう一人のクズに向ける。
もう一人のクズは「やれやれ」みたいな顔をした後で偉そうに話し出す。
「まあ、そう言ってやるなって。確かにそいつはちょっとお茶目な事をしたかもしんねえ」
「何がお茶目だ!?」「そんな言葉で済ませられるもんじゃないだろ!?」という非難の声を彼はスルー。
「結局よ、荷物は全て戻ったんだろ?つまり、何もなかったと言っても過言じゃねえ」
「だ、だな!」
盗人クズが即同意する。
他の者達からは、「そんなわけあるか!」と反論があちこちから飛ぶがその声も彼には届かなかったようだ。
「というわけでよ、ここは俺に免じて許してやってくれねえか?よしっ決まったな!」
そう言ったクズに護衛の一人が即答した。
「馬鹿かお前は」
クズは顔を真っ赤にしてその言葉を発した者を怒鳴りつける。
「ざけんな!誰が馬鹿だ!?誰が!?」
その護衛は呆れた顔をしながら言った。
「お前には共犯の容疑がかけられてるんだぞ。それも限りなく黒だ。そんなお前の言うことなど聞くわけないだろうが」
「ざけんな!俺は無関係だって言ってんだろうが!」
「誰が信じるか」
「安心しろ。俺の言うことは本当だ。俺が保証する!」
そう言ってクッズポーズをとった。
もちろん、誰も彼の言うことを信じることはなかった。




