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817話 盗人クズ

 商隊は定刻通り出発した。

 しばらくしてクズ達が目覚めた。

 自分達が縛られた上に床に転がされているのを知ると顔を真っ赤に怒りを露わにしてリオに罵声を浴びせるがリオがスッと目を細めるとビビって口を閉じた。

 しかし、すぐさま口を開く。

 クズは沈黙が苦手なのだ。

 先ほどの勢いはなかったが、縄を解くように要求してくる。

 確かに彼らもチケット買って乗った客である。

 サラが縄を解く条件を口にする。


「二度とみんなに迷惑をかけないというのであれば解きましょう」

「「ざけんな!!」」

「ではそのままでいなさい」

「「ちょ、ちょ待てよ!」」


 もちろん、サラは待たない。

 サラだけでなく、乗客全員が彼らの存在を無視する。

 クズ達が一般客を脅して紐を解かせようとしたがその度にヴィヴィ、アリス、そしてサラまでもが蹴りを入れて阻止する。

 神に仕える者ならば悪行を働いた者には説教をして行いを改めさせるべきではないのか?

 と、思うかもしれない。

 もちろん、サラは最初そう考えた。

 しかし、今のサラは戦士の格好をし神官であることを隠しているのだ。

 これからカルハンに向かうというのにクズのために自分の正体を明かしたくなかった。

 それに思い出してほしい。

 相手はクズである。

 クズは人の言うことを聞かない。

 自分の言うことを、身勝手な要求を通そうとしかしないのだ。

 更に本当かはわからないが彼らは冒険者を名乗っている。

 これ以上、他の乗客の冒険者に対する印象を悪くしたくなかった。

 そんなわけでサラも仕方なく力ずくで彼らを大人しくさせることにしたのだ。

 ちなみにアリスはサラのように葛藤することなど一切なく、早々にヴィヴィと共に蹴りを入れて黙らせていた。

 流石のクズ達も何度も(痛みを伴って)阻止されてようやく学んだようで渋々サラの要求を飲んだ。

 

「あなた達クズは頭が悪いので再度忠告します。今度迷惑をかけたら今度こそ縛られたまま目的地までいくか途中で降ろされることになるでしょう」

「「ざけん……」」


 クズ達は脊髄反射の如く怒鳴り返そうとしたがリオが目に入りその口は途中で止まった。

 紐を解かれ、どかっと乱暴に席についた後、残虐な笑みを浮かべ「後で覚えておけよ」「ぜってい後悔させてやっぞ」と意味ありげな言葉を吐いた。

 負け惜しみ、と言えばそれまでだが、サラにはそれだけではないような気がした。

 


 商隊が街道脇にあるキャンプスペースに昼食をとるために止まった。

 昼食を終え、もう少し休憩したら出発というときだった。

 

「なんだあれは!?」


 乗客の一人がそう叫び指差す方向を見ると森の中から青色の煙が上がっていた。

 商隊専属の護衛達が調査に森の中へと入っていく。

 

「皆さんはその場でじっとしていてくださいね」

 

 隊長が乗客へそう指示を出す。

 しばらくして護衛達が誰かを捕らえて森から出て来た。


「ざけんな!」


 その叫びからわかるようにその者は乗客にいたクズの一人だった。

 護衛に両腕を押さえられて連行される彼は他にも何か喚いていたがよく聞き取れない。


「あのクズっ、何やってるんですかねっ」


 アリスが呆れた顔で呟く。


「……ぐふ、陽動か」

「えっ?」


 ヴィヴィがそう呟いた直後、上空から悲鳴が聞こえた。

 空に目を向けると上空二十メートルほどの高さに馬車の屋根に設置された荷物置き場に載せていたはずのリムーバルバインダーが浮かんでいた。

 それに誰かがしがみついている。

 乗客にいたもう一人のクズだった。


「何やったんですかっ?」


 アリスの問いにヴィヴィはつまらなそうに答えた。


「ぐふ、盗みだ」



 ヴィヴィの元へ隊長がやってきた。

 彼だけではなく乗客達も集まってきた。


「あのっ、何があったのでしょうか?」

「ぐふ、盗人を捕らえたのだ」


 ヴィヴィの言葉に隊長が驚いた表情をする。


「盗人ですか!?」

「ぐふ、あのクズが私のリムーバルバインダーを強引に開けようとしたのでな。そのまま飛ばした」


 隊長が上空を見上げると情けない顔をしながらクズが「助けろーーー!!」と喚いていた。

 彼が本当に冒険者であってもあの高さから落ちたらただでは済まない。


「つまり、未遂ということですか?」

「ぐふ、私のはな」

「え?それはどういう意味です?」


 ヴィヴィは隊長に返事する代わりにリムーバルバインダーを揺らした。

 リムーバルバインダーにしがみついていたクズも一緒に揺れて悲鳴を上げる。

 と、クズのポケットからポロリと何かが落ちてきた。

 それをサラが片手を伸ばしてキャッチする。

 落ちてきたものはペンダントだった。

 それを見て集まっていた乗客の一人が驚いた声を上げる。


「え!?まさか、あたしのペンダント!?」

「うわっ!ちげえ!それは……うお!?」


 クズが慌てて言い訳しようとするが、リムーバルバインダーが更に激しく揺れてそれどころではなくなる。


「間違いないですか?」


 サラの問いにじっくりペンダントを調べていた乗客が大きく頷く。


「間違いありません!ここにあたしのイニシャルが彫ってあります!」


 皆の厳しい目がリムーバルバインダーにしがみつくクズに注がれる。


「ちげえんだ!そ、それはこの棺桶の中で見つけたんだ!」


 クズはリムーバルバインダーにしがみつきながら必死に無実を主張するのだった。


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