816話 クズ臭を放つ乗客
シャイニングクリーナーが直近で出現した場所だが、徒歩で向かうには厳しい場所であった。
リオ達はまずはカルハンに入ってからその場所へ向かう手段を考えることにした。
「乗合馬車で近くの街まで行きましょう」
「ああ」
護衛依頼を受けて向かうという手もあるように見えるがその選択肢はなかった。
実力不足ということはもちろんない。
冒険者ギルドの依頼はリオが受けないだろうし、遺跡探索者ギルドの依頼はランク未達でリオ達では受けられないのだ。
相手と直接交渉をする手もあるがリオ達は金に困っていないし護衛をしたいわけでもない。
駅に到着するとなんかクズ臭がした。
見ればあちこちでクッズポーズをする冒険者らしき者達がいた。
「ぐふ、こんなところにもいたか」
「ですねっ」
恐らく探索者になるためにバイエルへやって来たものの、不合格となった者達だろう。
バイエルを去るにしてもここまでの旅費を少しでも回収しようとでも思ったのだろう。
直接交渉に来たのは冒険者ギルドに護衛依頼がなかったのではなく、これまでの依頼実績から不適格( クズ)と判断されて拒否されたのだろう。
あるいは依頼失敗した時のことを考えて避けたか。
「行きましょう。絡まれると面倒です」
サラ達はカルハンに向かうものでもっとも早く出発する商隊に属する乗合馬車のチケットを購入した。
出発まで時間があまりないのでそのまま乗合馬車に直行する。
幸い、クズに絡まれることはなかった。
が、車内に入った途端、クズ臭がぷうん、とした。
そちらに目をやると腕を組んでキメ顔を向けるクズらしき者が二人いた。
クズ臭を放つ彼らは席を立つとリオの両隣に座るサラとアリスの前に立ち、馴れ馴れしく話しかけて来た。
「よ!」
「よろしくな!」
彼らはサラ達の前でクッズポーズを決めるが、それだけでは不十分だと感じたらしく下半身の一部をもっこりさせて更なるアピールをする。
しかし、どうしたことでしょう!?
サラ達の好感度は何故か上昇するどころか地の底へと落ちたのでした!
彼らは冒険者らしく、身振り手振りを交えながらこれまでの冒頭談を誇らし気に語り出す。
ところどころで「誇り高き冒険者」や「Cラーーーンク!」と冒険者アピールするものの冒険者カードを見せびらかすことはなかった。
彼らは話しかけている相手がリサヴィのサラとアリスだとは気づいていないようだ。
サラ達はもちろん無視するが彼らに気にした様子はなかった。
自慢話にひと区切りがつくと彼らはリオとヴィヴィに目を向けた。
ちなみにヴィヴィのリムーバルバインダーは邪魔になるので馬車の上にある荷台に載せて車内にはない。
彼らの目はサラとアリスに向けるいやらしい目つきとは打って変わり、見下した目で命令してきた。
「おいお前ら!聞こえてただろ!俺らは誇り高きCラーーーンク!冒険者だぞ!お前らより上なんだ!わかったらさっさと席を空けろ!」
「俺らが座ってやっからよ!」
サラ達に絡んでいる間、仲間であるはずのリオ達が助けに入ることなく黙っていたことで彼らはリオ達のことをビビって何も言えないチキン野郎だと判断したようだ。
実際にはリオ達だけでなくサラ達も黙って(無視して)いたのだが。
リオとヴィヴィだが先のサラ達と同様に無視する。
彼らはそれがビビっているのではなく無視したのだとわかり激怒する。
顔を真っ赤にして怒鳴りつける。
「聞こえてんだろうが!無視すんじゃねえ!!」
「棺桶持ち!てめえにも言ってんだぞ!!」
彼らは本物の魔装士と偽魔装士の区別がつかず、ヴィヴィのことは最初から見下していた。
汚い唾を飛ばし喚き続ける彼らをリオ達が無視し続けると彼らはついに実力行使に出た。
「てめえらに椅子はもったいねえ!床にでも転がってやがれ!!」
そう叫びながら彼らの一人がリオに殴りかかったのだ。
だが、その拳がリオに届くことはなかった。
リオは座ったままあっさりとかわし、カウンターで腹を蹴った。
「ぐへっ!?」
リオは面倒臭そうな顔をしながら立ち上がると腹を抱えて蹲るその者の頭を蹴り飛ばした。
その者、いや、もうクズでいいだろう、そのクズはあほ面晒して気絶した。
「て、てめえ……ぐへっ!?」
もう一人もリオの蹴りを食らいあっさりと気絶した。
いうまでもなくあほ面を晒して、である。
「何事ですか!?」
外にもクズ達がKOされる音が聞こえていたようで商隊の隊長が慌ててドアを開けて入ってきた。
あほ面晒して気絶している乗客二人が紐でぐるぐる巻きにされている姿を見て唖然とする。
縛っているサラとアリスは手が離せないのでヴィヴィが取得したばかりの探索者カードを隊長に見せながら平然とした顔で状況を説明する。
と言ってもその顔は仮面で見えないが。
「ぐふ、このクズ達が暴れたので大人しくさせた」
クズ達を縛り終えたサラとアリスも探索者カードを隊長に見せる。
ちなみにリオはクズ達をボコった張本人にも拘わらず我関せずの態度をとっていた。
隊長が他の乗客を見るとヴィヴィの言う通りというように皆頷いた。
彼らはリオ達が乗る前にクズ達に絡まれて迷惑していたのだ。
隊長は探索者を信用していたことと、あほ面晒したクズ達が乗る前から態度が悪く要注意人物と見ていたのでヴィヴィの言葉を信じた。
とはいえ、ボコった上に縛るのはやり過ぎではないかとも思い、紐を解くように指示しかけて思い留まった。
隊長は気づいたのだ。
この者達は探索者であると同時に冒険者、あの有名なパーティのリサヴィであると。
クズのことはクズの専門家に任せた方がいいと判断したのである。
「わかりました。ではまもなく出発しますので席についてお待ちください」
「はい」




