814話 シャイニングクリーナー
サラはギルド職員の話が自分達がカルハンに向かう目的、つまりカリスが無くしたサイファのナンバーズに関係しそうな気がしたので慎重に言葉を選びながら尋ねる。
「それでその話を信じたのですか?」
「はい。あ、いえ、最近まで信じていませんでした。彼には“ほら吹き”の二つ名があることも知っていましたので」
「ぐふ、最近まで、といったな。つまり、何かが起きたのだな?」
「その通りです」
「それは何ですか?」
「実は光を放つサンドクリーナーを見たという報告がいくつも上がって来たのです」
「光を放つサンドクリーナーですかっ。そんなタイプは聞いた事ないですねっ」
そう言ってアリスは首を傾げたがサラ達は一つ心当たりがあった。
ナンバーズの刺さったサンドクリーナーを咥えて姿を消したサンドクリーナーだ。
サラは嫌な予感が当たりそうだと思いながらも表情には出さずに先を促す。
「それで?」
「幸い、そのサンドクリーナー、私どもは“シャイニングクリーナー”と呼称していますが、苦手な音が他のものと同じでしたので追い払うことが出来まして被害は報告されていませんでした。ただ、そのまま放置するのも危険ですので探索者に討伐依頼を出したのです。その結果、その光がシャイニングクリーナー自身ではなく、体から生えている剣が光っていることがわかったのです」
そう言ってギルド職員がリオを見た。
「ん?」
リオが首を傾げる。
「ここでカリスさんの話に戻るのですが、彼はそのラビリンスでナンバーズの剣を発見したそうなんです」
「「「!!」」」
「……」
リオ以外が「余計なことを!」と頭の中でカリスをボコる。
その間もギルド職員は話を続ける。
「それで、その……リオさんがナンバーズを見せて欲しいとあまりにせがむので仕方なく貸したら、手にした途端、サンドクリーナーに突撃していってですね、ナンバーズをサンドクリーナーに突き刺したものの、うっかり手放してしまいそのサンドクリーナーを逃してしまったと聞いてるのですが……その、本当でしょうか?」
「「「「……」」」」
しばし、沈黙後、サラが深呼吸してから口を開いた。
「その馬鹿はリオではなく、バカリスです」
サラに続いて皆が口を開く。
「ぐふ、バカリスだな」
「ですねっ!そのときっ、わたしはいませんでしたけどっ、リオさんがそんなヘマをするわけありませんっ!そんなことするのはあのバカリスだけですっ」
「そうで……」
「そうなんだ」
「……え?」
「リオ、あなたはちょっと黙ってて下さい」
「……」
ギルド職員は困った。
リオの言葉を聞くまではカリスが嘘をついていたのだと思っていたのだが、当のリオが曖昧な返事をするので皆がリオを庇っているのかもしれない、と少しだけだが思えてきたのだ。
「ぐふ、やっと理解できた。私達を呼んだ訳がな」
「はい。肝心のカリスさんとはその後、冒険者ギルドで賞金首になったとの情報が入りましたので彼との接触はしないということになったのです」
接触しようにも既にヴィヴィによって殺されているので永久に出来ないが、その事を話すことはない。
ギルド職員はサラ達の言葉からカリスの話していたラビリンス、そしてナンバーズが実在することを確信する。
「やはりラビリンスとナンバーズは存在するのですね?」
「はい」
サラはシャイニングクリーナーから生えているという剣がカリスが無くしたナンバーズの剣であると確信する。
下手に誤魔化して後でバレて信用を失う方がまずいと判断して素直に認めた。
「それではラビリンスの場所を教えて頂けますでしょうか?もちろん、報酬はお渡し致します」
「それについては私達の一存では決められません。その時、私達はウィンドに従って行動していたのです。彼らの了承を得る必要があります」
ウィンドはサイファのラビリンス近くへ転送するラビリンスキューブを持っている。
再度向かって残りの財宝を回収している、あるいは回収する予定を立てているかも知れない。
とは言っても実際に行くなら彼らのことなのでサラ達に一声かけて来るだろうとは思う。
(あ、でも今だに私の質問に答えてくれないのよね……)
「わかりました。ではお手数ですがウィンドの皆さんに話をして頂けませんか?」
ギルド職員のその言葉がサラの思考を中断させた。
「流石にヴェイン所属の冒険者に私ども遺跡探索者ギルドが接触すると要らぬ誤解を生みかねませんので」
(ギルド本部所属の冒険者を引き抜きに来たと思われるのはまずいということね)
「わかりました。私から話してみます」
「よろしくお願いします」
「はい」
アリスがカリスの行動に疑問を持った。
「バカリスですけどっ、遺跡探索者ギルドに持ち込まなくてもっ自分で取りに行けば独り占め出来たんじゃないですかねっ?場所をうまく説明出来なくてもっ近くまで行けば思い出すかも知れないのにっ」
「ぐふ、あのバカが場所を覚えているものか。だから情報提供して報酬を貰おうと考えたのだろう」
「そうですね。信用を失って一緒に行動してくれる仲間もいなかったでしょうし」
「ああっ確かにっ」
ヴィヴィがギルド職員に尋ねる。
「ぐふ、奴のことだ。その情報だけで報酬を寄越せとか言ったのではないか?」
「はい、その通りです。しかし、確証が得られませんのでお断りしました」




