813話 カリスの置き土産
翌朝。
リオ達の宿屋にギルド職員が休ダンジョン調査依頼の完了処理の手続きにやって来た。
リオ達は処理を終えてから遺跡探索者ギルドへ向かった。
遺跡探索者ギルドの前にはクズ冒険者らしき者達がいた。
飽きずに入会試験の見直しを要求していた。
ただ、先日と比べるとその数は圧倒的に少ない。
やはり街全体のクズが減っているのだろう。
それはともかく、クズ達に絡まれる前にさっさと中に入ると受付カウンターに向かう。
サラが受付嬢に先日、「話がある」と声をかけられたことを話すとすぐにギルド職員がやって来た。
恐らく前回サラ達に声をかけて来た者と同一人物と思われるがあまり自信はない。
サラ達は彼に応接室へ案内された。
席に着くとギルド職員はすぐに本題に入った。
「皆さんは冒険者のパーティ、リサヴィで間違いございませんね?」
「はい、そうです」
彼はほっとした表情をした。
「皆さんでしたら冒険者優遇制度がご利用出来ますが?」
「あれっ?それは中止になったのではっ?」
「今までの方式は、です。私どもは独自の情報網を持っておりまして冒険者の情報を集めています。優れた者達とそうでない者達の情報を」
彼は言葉を濁したがそうでない者達とはクズ冒険者の事であろう。
「皆さんでしたら問題なくCランクから始めることができますよ。もっと上をご希望であればそれも恐らく可能でしょう」
「必要ない」
「そ、そうですか」
リオがあっさり断ったことに少し驚いた様子を見せたがそれ以上、優遇制度の話をすることはなかった。
リオがランクアップに積極的でないことも調査済みだったのだろう。
「私達への話はそのことですか?」
「あ、いえ。本題はこれからです」
「なんでしょう?」
「皆さんは既に冒険者として名を上げております。にも拘らず探索者になったということはカルハン国内での活動を考えているのでしょうか?」
「そのつもりです」
「そうですか」
ギルド職員がサラとアリスに顔を向ける。
「ジュアス教団の神官であるお二人はカルハン国内での活動ではいろいろやり難いことがあるかもしれませんが、それは大丈夫ですか?」
先のカルハンとジュアス教団との戦いでカルハン国内の神殿及び教会は閉鎖され、ジュアス教の布教も禁止されている。
ジュアス教団に対する風当たりは強いので彼はそのことを心配しているのだ。
「はい。わかっての上です」
「大丈夫ですっ」
ギルド職員は二人の答えに一つ頷いて更に問いかける。
「これは参考までで強制するものではないのですが、何か目的があるようでしたら教えていただけませんか?」
「そうですね」
丁度遺跡探索者ギルドに調べてもらう予定だったのでサラがそのことを話す。
「実は私達はカルハンで探し物をするつもりなのです」
「それは何でしょうか?」
「私達は以前、カルハンに来た事がありまして、その時サンドクリーナーに遭遇したのです」
「……」
「そのサンドクリーナーに大切なものを飲み込まれてしまいましてどうにか取り戻したいと考えているのです」
「……なるほど」
サラはギルド職員の表情が微かに変化したのを見逃さなかった。
何か知っていると思いつつもそのことを口にすることなく続ける。
「抽象的な言い方で申し訳ないのですが特別なサンドクリーナーを見かけた事はありませんか?」
「……少々お待ちください」
そう言ってギルド職員が席を立った。
少ししてギルド職員は何かの資料を抱えて戻って来た。
「サラさんのご質問にお答えする前に確認したいことがございます。どうやら私どもの話にも関係しそうですので」
「なんでしょうか?」
「以前に冒険者のパーティ、ウィンドと行動を共にされていましたね?」
サラはその質問が想定外だった。
少し驚きつつも頷く。
ギルド職員がリオに顔を向ける。
「リオさんは元ウィンドの副リーダーでしたカリスさんをご存知ですね?」
「知らない」
リオは即答した。
「え?」
ギルド職員はまさか知らないと言われるとは思わなかったのでポカン、とした顔する。
サラが慌ててフォローする。
「リオ、あなたは忘れてるだけで一緒に冒険したこともありましたよ」
「そうなんだ」
「『そうなんだ』ではありません」
そのやりとりを見てギルド職員は、リオは頭が弱いのか、と思った。
それに気づいたアリスがリオを擁護する。
「リオさんはっ、どうでもいい人の名前は覚えないんですっ」
そう言ったアリスの顔はなんか誇らしげだった。
「アリエッタの言う通りだ」
「リオさーんっ!わたしはっアリスですっ!」
言ったそばから名前を間違えられてアリスがリオをポカポカ叩く。
しかし、その顔はなんか嬉しそうだった。
「ああ、知ってた」
ギルド職員はその様子を呆然とした表情で見ていた。
サラはこのままリオに話をさせては話が進まないと思った。
「私達もカリスのことは知っていますから先を続けてください」
「そ、そうですか」
「ぐふ。それでバカリスがどうかしたのか?」
「あ、はい。では続けさせていただきますね」
ギルド職員はヴィヴィがカリスのことを“バカリス”と呼んだ事に突っ込む事なく話を続ける。
「実は彼が以前にですね、カルハンの砂漠でサイファ・ヘイダインが作ったらしいラビリンスを見つけたという情報を持ち込んだことがありまして」
「「「「!!」」」」
彼の話によるとベルフィ達と発見したサイファのラビリンスのことをカリスは遺跡探索者ギルドに報告していたらしい。
その話を冒険者ギルドではなく遺跡探索者ギルドに持ち込んだのは冒険者ギルドに不審感を抱いていたからだ。
すべて自分の行いのせいであるが本人は全くそう思っていなかった。
カリスはラビリンスの在処を遺跡探索者ギルドに売る代わりにそこで発見した財宝の一部をもらう契約を結ぼうとしていた。
財宝を自分一人のものにするためにそのことをベルフィを始め誰にも話していなかったのだ。
ウィンドを追放された逆恨みもあった。
しかし、カリスの情報は余りにも適当すぎた。
「ラビリンスは砂漠のど真ん中の森にあったぞ。洞窟が入口だ。ガールズハンターがいたが全部俺一人で倒したぜ!そうそう、サンドクリーナーやサンドウォルーもいたな。これも全部俺がやっつけてやったけどな!」
などと自慢話をするばかりで肝心のラビリンスの場所についての情報が全くなく、場所の特定に至らなかったということだった。




