810話 モーグ その8
サラ達の話相手が代わった。
『至急冒険者を集めて向かわせたいと思いますがそれまで最下層で待機していただくことは可能でしょうか?』
サラはその声に聞き覚えがあった。
この依頼をしたギルド上級職員であった。
『ご存知と思いますが冒険者選びに時間が必要なのです』
サラの頭にギルドにいた冒険者達が皆強烈なクズ臭を放つクズだった光景が浮かんだ。
「わかりました。ただ、長くて二日といったところです」
ギルド上級職員はその期限を携帯食料が切れるからだと思ったが、本当のところはサラはリオをそれ以上、ここに留めるのが難しいと思ったからだった。
サラとの連絡を終えて、緊急のギルド会議を開いた。
ダンジョンからモーグが出てくる可能性があるため、ギルド所属の偵察隊を街の警備から本来の仕事に戻して先行させることにした。
ギルド本部にモーグの出現を報告すると同時に遺跡探索者ギルド目当てのクズ冒険者が大量に押しかけてきた影響でまともな冒険者が寄り付かずバイエル支部だけで対応は困難であることを説明し、各地から冒険者を派遣してもらうことになった。
ただ、到着には時間がかかるし、それを待っていてはリサヴィが去ってしまう。
そんなわけでバイエル支部で最低でもリサヴィの交代要員を用意する必要があった。
ギルド職員達がギルド内を見渡すが目に入る者はいずれもクズ臭をぷんぷん放つクズ冒険者ばかりだ。
それでもその数は以前より減っていた。
リサヴィに奇生しようとついて行った者達以外にも何組か減っていた。
それはギルド内のことだけではなく、バイエルの街全体に言えることであった。
そこへ依頼を終えたあるパーテイがやって来た。
彼らの姿を見て首を傾げる者達がいた。
あるクズパーティのメンバーである。
そのクズパーティはたった今やって来たパーティが依頼を受けて出ていく時、彼らに寄生するために後をついて行ったクズパーティと知り合いだった。
というか誰が彼らに奇生するかで競った仲だった。
争いに敗れて渋々その者達に譲ることになったのだが、その者達の姿が見えないのだ。
クズリーダーがそのパーティに詰め寄る。
「おい!お前らと一緒に依頼を受けた奴らはどうした!?」
クズリーダーに声をかけられたそのパーティのリーダーが首を傾げる。
「一緒に依頼を受けた?何言ってんだ?俺達は共同依頼なんか受けてないぞ」
「ざけんな!お前らが頼りなさそうだから面倒見てやろうとついていった後輩思いの奴らがいただろうが!」
そのパーティのリーダーは再び首を傾げて言った。
「何を言ってるのかさっぱりだ」
「なんだとてめえ!」
激怒するクズ冒険者達だったが彼らはクズリーダーの話を聞いていなかった。
リーダーの言葉を聞いてメンバーの一人が羨ましそうな顔をしながら言った。
「リーダー!今のはリオさんの口癖じゃないか!」
「おっ?気づいたか」
「気づかないわけないだろ!」
彼らだけで盛り上がり無視された格好になったクズリーダーは怒り心頭だ。
しかし、彼らの話を聞きクズ盗賊が顔を真っ青にしてクズリーダーに言った。
「リ、リーダー!そいつらリサヴィ派だ!」
「な!?」
そこへ更に二組のパーティがやって来た。
その二組にも寄生しようとクズパーティが後をついていったはずであるがその者達の姿もない。
クズパーティに絡まれていた者達が彼らに気づき手を振る。
「よお!俺達も今戻ったところだ」
「依頼は?」
「聞くまでもないだろ」
三組のパーティが笑いながら話し出す。
クズパーティは察した。
後をついていった者達は皆クズと判断されて彼らリサヴィ派に消されたのだと。
「ひっ……」
そのクズパーティが逃げ出した。
彼らと同じくその三組がリサヴィ派だと気づいた他のクズパーティが逃げ出した。
一応補足すると彼らは自分達がクズだとは思っていない。
クズと“勘違い”されて標的にされるのを恐れたのだ。
冒険者ギルド内からあっという間にクズが減り、ギルド内に充満していたクズ臭が薄れた。
クズ冒険者達が逃げていく後ろ姿を見送りながらギルド職員が彼ら三組のパーティの側にやって来た。
「お疲れ様です。依頼の方は無事終えられたようですね?」
「ああ」
「それはよかったです。それで帰ってきたばかりのところ申し訳ありませんか依頼を受けて頂けないでしょうか?」
「どんな依頼だ?」
「モーグ退治です」
「モーグ、だと」
「はい」
彼らが微妙な表情をするがギルド職員は気にせず続ける。
「実は、既にリサヴィの皆さんが……」
「聞こう!」
リサヴィの名が出た途端、表情が一転して食い気味に言葉を遮る。
その反応からギルド職員も彼らがリサヴィ派であることを確信するが確認したりはしない。
「それでは詳しい話は奥で」
三組がギルド職員の後に従った。
その様子を舌なめずりしながら見送る者達がいた。
クズ冒険者達である。
それも上級クズであった。
彼らはリサヴィ派がいると知っても自身がクズと“勘違い“されるはずないと根拠不明の自信を持っており、怯えることなくギルドに居座っていたのだ。
そして今、リサヴィの名を聞き、その力を最大限利用して美味しい思いをしようと考えたのである!




