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809話 モーグ その7

 最下層に設置されている魔道具“通信くん“の動力源はプリミティブだ。

 セットされていたものは魔力が切れて空の状態だったがそれは別段驚くべきことではない。

 元々、リッキーなどの低ランクの魔物のプリミティブを使用していたからだ。

 これはこのダンジョンが休ダンジョンであることが影響している。

 高価なプリミティブを使用すると盗まれる可能性があるからだ。

 リッキー程度のプリミティブならわざわざ最下層にまで盗みにやって来る者はいないというわけである。

 サラが冒険者ギルドから渡されていた、恐らくリッキーのものと思われるプリミティブを“通信くん“にはめると正常に起動した。

 対応に現れたギルド職員との挨拶を早々に切り上げて本題に入った。


「魔物がいました。それもモーグです」

『モ、モーグですか!?』


 他にも会話を聞いている者達がいるようでざわつきが聞こえた。


「ええ。本来であれば戻って報告するべきでしたが、ここ最下層から連絡した方が早いと判断して連絡が遅れました。申し訳ありません」

『い、いえ。それでモーグの方はどうなりましたか?』

「ここ十三階層にてクイーンモーグを討伐しました」


 その言葉を聞いてギルド職員の安堵の声が聞こえてくる。

 しかし、サラの話はまだ終りではない。


「ですがダンジョンにはまだポーンモーグや私達の前に調査に向かった者達が同化したと思われるスレイブモーグが残っています」


 ヴィヴィが補足する。


「ぐふ、私達にくっついて来たクズ達もスレイブモーグになった可能性が高い」

『え!?』


 サラがダンジョン前で待ち構えていた四組のクズパーティの説明をする。


『四組もですか!?』


 サラはその驚き方にちょっと引っ掛かりを覚えた。

 最初の驚きはどこか作りめいたものにも聞こえたのだ。

 だが、四組いたことには心から驚いた様子だった。

 

(……もしかして私達の後を追ったクズ達がいたこと自体は知っていたのでは?)


 サラはその事を口にはしなかった。

 それよりも優先すべきことがあるからだ。

 クイーンモーグが討伐されれば、残されたモーグがこれ以上、強化されることや増殖することもないと思うかもしれないがそれは間違いである。

 ある種の生物に種を残すため性転換するものがいるようにコロニー内にクイーンモーグが長期間存在しないとその集団の生き残りから新たなクイーンモーグが誕生するのだ。

 そのため、早急に残るモーグを一掃する必要があった。


「今後のことですが、流石に私逹だけで全滅させるのは無理があります」

『は、はあ……』

「ですのでこれらの一掃はお任せしてよろしいですね」


 サラは拒否させぬ口調でそう言った。

 サラ達リサヴィは強力なパーティではあるがたった一組でダンジョン内全ての魔物を一掃するのは不可能、とまでは言わないが、相当時間がかかるだろう。

 今後、必要となるのは質より量だ。

 もちろん、量とは言ってもそれなりの実力が必要だ。

 でなければポーンモーグがスレイブモーグに変わるだけであろう。

 サラが断る理由は他にもあった。

 実はこちらが本命なのだが、リオのやる気が全くないからだ。

 クイーンモーグがクズ化していたのに加えてそれらがやって来たと思われた魔界の門がなかったからだ。

 流石に「うちのリーダーがやる気ないんですよ」とは正直に言えなかった。

 そのリオであるが、この会話には参加していない。

 クイーンモーグを倒した後、フラフラと最下層のまだ行っていない場所の探索に行ってしまった。

 魔界の門がないか探しに行ったのだろう。

 ちなみにアリスもリオと一緒に行動してここにはいない。



 サラはギルド職員との会話を続ける。


「モーグですが、クズ達が無闇に攻撃をしたみたいで物理耐性が非常に高くなっていますが攻撃魔法は有効です」


 モーグを倒すのに最も有効で安全な方法はファイアボールなどの炎系魔法で全身燃やすことだ。

 そうすればモーグの種を探して砕く必要はなく一緒に燃やしてくれる。

 ただ、人と同化したスレイブモーグ相手にするのはあまり気持ち良いものではない。

 ヴィヴィが補足する。


「ぐふ、戦士でも相当腕が立つか、魔道具の武器や強化魔法があれば倒せるだろうがな」


 実際、リオはポーンモーグとスレイブモーグを魔法のかかっていない剣で倒している。


『わ、わかりました……』


 自信のない返事から依頼募集が大変であることがわかる。

 モーグ討伐は冒険者達に人気がない。

 理由は三つ。

 一つ目は、どの程度耐性強化されているかで強さが変わることだ。

 今回で言えば物理耐性が強化されまくり非常に厄介な相手となっている。

 二つ目は、モーグの中でプリミティブを持っているのはクイーンモーグだけだ。

 モーグの種を破壊すると肉体は消滅するので得られる素材はない。

 モーグの種と同化してモーグとなったスレイブモーグは元が魔物であればそれ自身が持っているプリミティブや素材が得られるが、人のスレイブモーグは当然プリミティブを持っていない。

 人と同化したスレイブモーグを倒す利点があるとすれば、その者の装備品であろう。

 ただ、どちらもモーグの種にうっかり触れて同化する危険がある。

 そして三つ目だが、二つ目で述べたようにクイーンモーグ以外プリミティブを持っていないし、倒すと肉体が消滅するため倒した証拠が残らない。

 何体倒したのかは自己申告となるのだが、正直に言っても信じてもらえないことがある。

 更にこういう自己申告の依頼はクズ冒険者達の大好物で、嘘の申告をして何もしていない彼らの方が報酬が多くなったという事例が過去に存在する。

 そんなわけで真面目な冒険者ほどやりたがらないのである。

 ちなみにモーグは出現自体が稀なので冒険者の受けたくない依頼のワーストテンに入ったことはない。


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