808話 モーグ その6
リオ達は地下十階層にいた。
最短経路で十一階層へ向かったのだが、誰かが仕掛けを操作したらしく通路が壁で塞がれていた。
リオが周囲を調べながら言った。
「最近動かしたようだな」
「ぐふ、クズ達がモーグから逃げる時に閉じたのならいいが」
「モーグが知恵をつけて動かしたのなら厄介ですね」
リオ達は来た道を引き返し、遠回りで下へ降りる階段を目指す。
階段までもう少しというところで誰かが待ち構えていた。
「ぐふ、またスレイブモーグか」
ヴィヴィの言う通りそれは人と同化したスレイブモーグであった。
モーグの種の位置はとてもわかりやすかった。
咥えていたからだ。
言うまでもないが、体中のあちこちが緑色に変わり根が張っていた。
ところで、ポーンモーグは目の前で両手を合わせる、いわゆる“祈り”のポーズでクイーンモーグへ情報を送るが、他の生物と同化したスレイブモーグはその限りではない。
例えばウォルーなどの四足歩行の魔物と同化した場合は祈りのポーズはできないので異なったポーズで情報を送ることになる。
祈りのポーズは人型限定なのだ。
以上、ここまで説明しておいてなんだが、目の前に現れたスレイブモーグは人型にも拘らず祈りのポーズをしなかった。
どんなポーズをしたのか?
まあ、想像はつくだろうがクッズポーズをしたのだ。
最初、サラ達はスレイブモーグがクッズポーズをするのを見て、口癖だけでなく仕草も真似るのかと思った。
スレイブモーグをじっと見つめて動かないリオにサラは疑問を感じながら声をかける。
「さっさと倒して先に進みましょう」
しかし、リオの答えは想定外だった。
「もう少し待とう」
「え?」
サラが理由を尋ねるが、「見てればわかる」と言われ仕方なくサラも、いや、話を聞いていたヴィヴィとアリスも見事なクッズポーズを披露するスレイブモーグを観察する。
しばらくしてスレイブモーグに変化が起きた。
体の緑に変色した部分が増え、硬化したのを見てそれが祈りのポーズと同じ意味があることを察した。
このスレイブモーグは他の場所、恐らく上層にいるポーンモーグあるいはスレイブモーグが発した情報を受け取り、それを下層にいるクイーンモーグ、あるいは他のモーグに情報を送る、中継役を果たしていたのだ。
そしてクイーンモーグからのフィードバックを得て物理耐性が強化されたのである。
アリスが驚いた顔で言った。
「まさかっ、あのポーズっ、祈りと同じ効果があるんですかっ!?」
「ぐふ、そのようだな。クズはこれまでの常識を覆したな」
サラもその行動に驚いていた。
「モーグがクズに屈した、ということですか」
「ですねっ」
耐性強化されたスレイブモーグであるがリオの敵ではなかった。
リオは一撃で咥えているモーグの種と頭を破壊した。
最早、人としてもモーグとしても死んでいるはずであったが、リオの攻撃はそれで終わりではなかった。
うつ伏せに倒れたスレイブモーグの背を背負ったリュックごと剣で突き刺す。
「リオ!?……!!」
何をしているのか尋ねてようとしたが言葉を発している途中で気づいた。
「リュックの中にモーグの種が入っているのですね?」
「ああ」
リオはサラにつまらなそうな顔で返事しながら更に何度か剣を突き刺した。
リオ達は最下層へ続く階段の前にいた。
モーグの物理耐性は上がり続けていたがある時点からピタリと止まった。
恐らくやって来たクズ冒険者達が全滅した、あるいはこのダンジョンから逃げ出したのだろう。
物理耐性が上がったモーグ達であるがリオの敵ではなかった。
そんなものはなかったかのように一撃で倒し続けたのだ。
これはあくまでもリオが強過ぎるからだ。
その強さには正直サラも驚いていた。
流石に強化魔法の援護は必要になると思っていたからだ。
しかし、ここまでリオはサラやアリスの強化魔法を受ける事なく倒し続けたのだった。
地下十三階層にクイーンモーグはいた。
リオは当初、
「俺一人で倒す」
と言っていた。
サラは「やはりあなたの方が戦バカでしょ!」と言いたいのを必死に堪えて頷いた。
しかし、クイーンモーグを目にしてリオは前言撤回した。
「やはり全員で行くぞ」
何故リオが前言撤回したのか?
それはクイーンモーグが想像以上に強いと感じたから、
ではない。
なんとクイーンモーグはクッズポーズで待ち構えていたのだ。
何故かクズ臭がぷんぷん、していた。
クズを素体としたスレイブモーグから情報を受け取る際、本来はあり得ないのだがクズの習性も受け取り影響を受けてしまったようだ。
クズ恐るべし、である。
クズ臭を放つクイーンモーグを目にしてリオのやる気が削がれたのである。
クイーンモーグとの戦いだが、特筆することはない。
サラとアリスがこれまで温存していた攻撃魔法“フォース”を放ち、リオはリムーバルバインダーから魔道具であるポールアックスを手にして攻撃し、危なげなく完勝したのである。




