807話 モーグ その5
更に別の場所でクズパーティがポーンモーグ達と戦っていた。
誇り高き冒険者は魔物を放置しておけなかった、
なんて思いはもちろん彼らにもあるはずがなく、体から透けて見えるモーグの種をプリミティブだと思い込み、簡単に手に入ると思い攻撃を仕掛けたのだ。
このクズ冒険者達はここに集ったクズ達の中で最も実力があり、戦いを優勢に進めていた。
三体のうち既に二体が倒れていた。
最後の一体が祈りのポーズをとった。
その姿が助けを乞うているように見え、クズ冒険者達は自分達が圧倒的強者だと錯覚し悦に浸る。
既に倒した二体も同様のポーズをとっていたが、「我らクズ冒険者!弱者にはとことん容赦せぬ!」とでも言うようにいたぶり殺した。
「お前も助けてってか?」
「だが、断る!」
彼らは「がはは」と笑いながら祈りのポーズをするポーンモーグをいたぶる。
その余裕が自分達の首を絞めるとも知らずに。
ポーンモーグはクイーンモーグを強化するためだけに存在する。
防戦一方なのはクイーンモーグを強くするためである。
それで自分の命を失うことも厭わない。
クズ達が他人を盾にしてでも自分の命を守るのとは対照的であった。
クズは調子に乗ると際限がない。
彼らは調子に乗り過ぎた。
彼らのいたぶりに耐えたポーンモーグ達はクイーンモーグからのフィードバックを受け、体が変化し始める。
頭の弱いクズでも流石にポーンモーグが変化する姿を見て危険を感じた。
「リ、リーダー!なんかヤバくねえか!?」
「いたぶるのはやめだ!一気に仕留めるぞ!」
「「おう!」」
しかし、既に手遅れであった。
「お、俺の必殺剣を弾きやがった!」
「オレのもだ!」
「コイツらめっちゃ硬くなってっぞ!!」
この場にいるクズ冒険者達の力ではほとんどダメージを与えられないほどの物理耐性を身につけてしまったのだ。
動揺するクズ冒険者達に「もうお前達からは学ぶものは何もない」と言わんばかりに防戦一方だったポーンモーグが反撃に出た。
ポーンモーグの体は物理耐性がアップした効果で凶器と化した腕と足を用いてクズ冒険者達を攻撃する。
更に倒したとばかり思っていた二体のポーンモーグも立ち上がった。
失ったはずの手足も再生していた。
「げっ!?なんだコイツら!?傷が治ってやがる!?」
ポーンモーグは本体であるモーグの種が破壊されない限り死なないし、ある程度の傷は修復可能なのだ。
ポーンモーグ達はクズ冒険者達を殺す気はなかった。
優しさからではない。
モーグの種を植え付けてスレイブモーグにするためだ。
同化するにはその生物が生きている必要があるのだ。
ポーンモーグ達は先程のクズ冒険者達の戦いを手本にして彼らを死なない程度にいたぶる。
次々と戦闘不能にされていくクズ仲間を見て、クズリーダーがポーンモーグ達に向かって両手を合わせた。
その意味は祈りではなく、許しを請うものだ。
悲愴感を漂わせ被害者面をして同情を誘おうというのである。
これまで自分達がポーンモーグを散々いたぶったことを綺麗さっぱり忘れたようだ。
もちろん、ポーンモーグ達が彼らに温情をかけることはない。
そもそもそんな感情など持っていない。
ポーンモーグ達が情けない声を上げて泣き叫ぶクズ冒険者達を引き摺っていく。
行き先はクイーンモーグのもとだ。
クイーンモーグが生み出したモーグの種を植え付けてスレイブモーグにしようというのである。
もしここに肉体を破壊されたポーンモーグ、あるいはスレイブモーグがいたらそれからモーグの種を抜き取り植えたことであろう。
ポーンモーグ達の前に一人の冒険者が現れた。
それを見てポーンモーグ達が歩みを止める。
クズ冒険者達は自分達の助けを呼ぶ声(喚き声)を聞き駆けつけたのだと思った。
「よく来てくれたな!」
「すぐ助けろ!」
「急げよ!」
「……」
彼らは情けない姿を晒しながら何故か偉そうに命令する。
クズ冒険者達の声が聞こえていないはずはないのだがその冒険者から返事はない。
その冒険者は彼らと一緒にここへやってきたクズ冒険者ではなかった。
寄生するつもりだったパーティ( リサヴィ)のメンバーでもない。
「お前!ここで消息を絶ったっていうパーティの生き残りか!?」
「そんなことはどうでもいいだろ!早く俺らを助けろ!」
「俺だけでもいいぞ!」
「てめえ何言ってんだ!?」
「抜け駆けすんじゃねえ!」
クズ冒険者達が罵り合いをする中、その冒険者は右手上げると背負ったリュックに器用に手を突っ込んだ。
その腕の動きは本来の可動範囲を超えていた。
それはともかく、彼は中から丸い緑色のものを取り出すとそれを手にしたまま近づいてくる。
クズ達は違和感を覚え罵り合いをやめる。
何故、ポーンモーグ達はその冒険者に戦いをしかけないのか?
その冒険者もだ。
今更ながらにその冒険者の足取りが悪く顔も悪いことに気づく。
いや、顔が悪いのは関係なかった。
顔色も悪いことに気づく。
クズ冒険者達はその冒険者が手にしたものがこの魔物達のプリミティブと同じだと気づいた。
だが、プリミティブで何をするというのか。
「お、おい!てめえ!何する気だ!?」
ここで初めてその冒険者が口を開いた。
「ザケンナ」
棒読みで全く迫力はない。
「何が『ザケンナ』だ!」
「そんなもん握ってる暇があんならさっさと助けろって言ってんだろうが!」
「急げよ!」
しかし、その冒険者の答えは「ザケンナ」であった。
その冒険者がクズ戦士に近づいた。
クズ戦士はその冒険者の体の一部が緑色になっているのを最初汚れだと思っていたが、近くで見てそれが間違いであり肌が変色していることに気づく。
そして、その体の中に根のようのものが張っていてピクピク動いていることを。
彼は顔を恐怖に歪めて叫ぶ。
「く、来るな!来るな!!」
もちろん、その冒険者は歩みを止めない。
もうおわかりだと思うが、その冒険者はモーグの種に寄生されたスレイブモーグであった。
手にしているものはプリミティブではなくモーグの種である。
このスレイブモーグがここにやって来たのは偶然ではない。
モーグ同士は情報共有が出来る。
ここにスレイブモーグの“材料”があると知って近くにいた彼?がやって来たのである。
「く、来るな!助けてくれリーダー!」
「……」
クズリーダーは魔物の気を引いてなるものかと知らん顔をする。
パーティメンバーをバッサリ容赦なく後悔もなく切り捨てたのだ。
まあ、この場合はクズでなくてもそうしたかもしれない。
出来ることは何もないのだから。
「リーダー!無視すんなよ!!」
「……」
スレイブモーグが手にしたモーグの種をクズ戦士の口に無理矢理押し込んだ。
「ん……んが、んん……!?」
モーグの種から根が生えて顔にぷすぷすと突き刺さる。
クズ戦士はしばらくもがいていたがそれが収まると無気力な目を向けた。
スレイブモーグの誕生である。
「ひいっ!?」
それを見ていたクズ冒険者達が悲鳴を上げ、大声で助けを求める。
しかし、彼らを助けに来る者は一人もいない。
スレイブモーグが再びリュックに手を突っ込み、新たなモーグの種を取り出した。
残存クズ冒険者達が絶叫する。
「「来るな!来るな!来るなーーー!!」」
スレイブモーグが歩みを止めることはなかった。
こうして、新たに三体のスレイブモーグが誕生した。




