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806話 モーグ その4

 別のクズパーティがスレイブモーグと化したクズ冒険者と遭遇した。

 彼らはそのクズ冒険者がスレイブモーグとなっていることはわからなかったが何かに取り憑かれていることには気づいていた。

 そのことを知りつつ彼らはスレイブモーグと戦うことを選択した。

 誇り高き冒険者だから魔物を放っておけない、

 ならよかったのだが彼らは口だけでそんなことはこれっぽっちも考えていない。

 では何故戦う決意をしたかと言えば、そのスレイブモーグが背負っているリュックがぱんぱんに膨れているのを見たからだ。

 中にお宝や食料が入っていると思ったのである。

 特に食料は切実な問題となっていた。

 それにモーグ化したクズ冒険者の足取りは悪く強そうに見えず、数的有利もあり、勝てると判断したのである。

 彼らは近接戦を避け、距離を保ちつつスレイブモーグに矢を放った。

 一方的な展開となり彼らは調子に乗った。

 クズは調子の乗ると際限がない。


「オラオラ!」

「クズが!クズが!」


 おまいう発言をするクズ冒険者達にスレイブモーグは「ザケンナ」と言うだけで反撃する様子はない。

 と、突然、スレイブモーグがクッズポーズをとった。

 彼ら自身がいつもするポーズだが、他人にやられると非常に腹が立った。


「やられてんのに格好つけてんじゃねえ!」


 クズ盗賊の放った矢がスレイブモーグの額を貫くと「ザケンナ」と言葉を発してばたん、と倒れた。

 その後も矢を放ち、完全に動かなくなったことを確認するとクズ盗賊が慎重に近づき、リュックを取りあげようとしたが背中にくっついているかのように離れない。

 仕方なくその場でリュックを開けると手を突っ込んで中を漁った。


「お!?これはプリミティブじゃないか!」


 そう言って手にしたものは確かにプリミティブに似ていたが何かおかしかった。

 

「……あれ?プリミティブってこんな柔らかくねーよな。それにちょっと色も変だ。なんかネバネバするし……」

「どけ!」


 首をかしげるクズ盗賊を押し退けて残りの者達もリュックの中に手を突っ込む。

 そしてそれぞれがプリミティブらしきものを手にして叫んだ。

 

「「とったどーー!!」」


 これが彼らの最後のエクセレントスキル(クズスキル)発動であった。

 彼らがプリミティブだと思い込んだものはモーグの種であった。

 それらはスレイブモーグ化したクズ冒険者が同化される前に倒したモーグから抜き取ったものである。

 その中の一つがリュックを貫き背中から同化しスレイブモーグとなったのである。

 ネバネバに腹を立てていたクズ冒険者達が違和感に気づく。


「あれ!?これ離れねえぞ!?」

「お、俺もだ!」

「これっプリミティブじゃねえんじゃねえか!?」


 彼らが動揺している中で死んだとばかり思っていたスレイブモーグが頭をはじめ各所に矢が刺さったままむくりと起き上がった。

 そして頭に突き刺さった矢を強引に引き抜く。

 

「なっ!?なんだコイツ!?」

「頭に俺の必殺の一撃を受けてなんで生きてんだ!?」


 確かにクズ盗賊の放った矢で脳が破壊されており、他にも体中に矢が刺さっているので普通ならまず死んでいる。

 だが、今は同化したモーグの種が本体であり無傷であった。

 そこから生えた根は全身を這い、脳にも達していた。

 流石に首を落とされてはどうしようもなかったがクズ達の甘い対応により脳の修復が出来たのだ。

 破壊されたままのところもあるが、クズは元々頭がおかしいので元に戻らなくても支障はない。

 スレイブモーグは彼らの疑問に答えることなく近くにいたクズ戦士の腕を掴んだ。

 モーグの種を握っている(くっついている)方の手だ。

 

「て、てめえ離せ!はな……むぐ、ぐぐっ!?」


 スレイブモーグはもう片方の手でクズ戦士の頭を押さえると手に同化したモーグの種を口に咥えさせた。

 するとモーグの種から根が生えてその顔にぷすぷすと突き刺さる。

 口を塞がれ声にならない悲鳴を上げるクズ戦士。

 それを見て残りのクズ冒険者達が逃げ出した。

 しかし、それは無駄な行為だった。

 彼らの手にもモーグの種が同化し始めていたからだ。

 こうして新たにスレイブモーグが三体誕生したのだった。



 リオ達は進路上に現れたポーンモーグと戦っていた。


「ん?」


 リオが斬り伏せたポーンモーグを見ながら首を傾げた。


「どうしました?」

「強くなってたな」

「え?そんなはずは……」


 今回、サラは戦っていないので判断がつかなかったが、メイスでポーンモーグを葬ったアリスがリオに同意した。


「確かにっちょっと硬くなってた気がしますっ」

「ぐふ、少なくとも“祈り”をしたモーグはいなかったはずだ」

「……とすると」

「ぐふ、あのクズどもだな」

「えっ!?まさかっあのクズ達っわたし達がスルーしたっモーグを攻撃したんですかっ?クズって普通っ“ごっつあんです”で人の獲物を奪うだけで自分達で戦ったりしませんよねっ?」


 酷い言いようであるが間違ってはいない。

 が、正解でもなかった。

 相手が弱そうな場合は別なのだ。

「俺つえええええ!!」が実感できるので弱いものイジメが大好きなのだ。

 そのことをサラが指摘する。


「モーグは最初様子見をしますから、それを見て彼らは弱いと判断して攻撃を仕掛けたのでしょう」

「ぐふ、あり得るな」

「ほんとっ、ろくなことしませんねっ!クズ達はっ!」

「リオ、先程はクイーンモーグを倒すのを優先と言いましたが、これからは多少遠回りになっても数を減らしていきませんか?」

「そんな面倒なことはしない。さっさと先へ進む」

「……わかりました」


(クズ冒険者達の中には魔術士がいなかったようですから最悪、クイーンモーグに物理攻撃が効かなくなっていても私達は全員魔法が使えるので問題ないでしょう。そう、メンバー全員が魔法を使えるのだから)



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