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805話 モーグ その3

 リオ達の後を追いかけたクズ冒険者達の進み具合だが、パーティにいる盗賊のスキル、経験、そして運に大きく左右されることになった。

 皮肉なことに盗賊のスキルが高ければ高いほどリオ達の足どりを追うことができ、リオが仕掛けを作動させて出来た壁によって通せんぼを食らうこととなった。

 その結果、引き返して新たに下へ降りる階段への道を探すことになり、余計に時間を取られることになった。

 そんなわけで四組のクズパーティの中で先行したのは運任せで適当に進んだ者達であった。

 そのクズパーティは地下五階層に到達していたが、ここで「今更かよ」というような問題が発覚する。

 彼らは行き当たりばったりでリオ達に奇生することを決めた三組のクズパーティの一つでダンジョン探索の準備をろくにしていなかった。

 当然、十分な食料も用意していない。

 つまり、彼らは報酬だけでなく、食料までリオ達にたかる気満々だったということである。

 だが、それは別段驚くべきことではない。

 クズ達のほとんどが、


「俺のものは俺のもの。他人のものも俺のもの」


 を座右の銘として掲げて実践しているのだ。

 実際、今回リサヴィに寄生しようとした他のクズパーティもリサヴィにたかるつもりだった。

 仮に彼ら全員にたかられたらリサヴィの食料はあっという間に尽き、ダンジョン探索を中止せざるを得なくなっただろう。



 そのクズパーティはある部屋で休んでいた。

 かろうじて持っていた干し肉をかじりながらクズリーダーが言った。 


「しゃあねえ。地上に戻るぞ」


 クズリーダーが舌打ちしながら屈辱的な決断を下す。

 その言葉にメンバーが驚きの表情をする。


「リーダー!?」

「落ちつけって。諦めた訳じゃねえ。マップと食料を手に入れたらすぐ戻ってくるぜ」


 クズリーダーはリサヴィに奇生することをまだ諦めていなかった。

 一度決めたことは最後までやり遂げるというその強い意志は尊敬に値するだろう。

 違うか。

 クズリーダーの決断に疑問を呈する者がいた。


「でもよリーダー。それじゃあ手遅れになるんじゃねえか?奴らギルドに報告を終えてると思うぞ」

「だろうな。だがな、現実問題食料がねえ。奴らと出会った時にヒョロヒョロな情けねえ姿を見せてみろ。上手くいく交渉もうまく行かねえ」

「た、確かに」

「だからよ、階段で待ち伏せすることにするぜ」

「でもそれじゃあ……」

「安心しろ。俺は共同依頼の交渉に失敗したあのクズ共とは違うのだ。あのクズ共とはな!」


 そう言ったクズリーダーの顔は根拠のない自信に満ち溢れていた。

 ……客観的に見れば彼らも同じクズなのだが。

 メンバーはクズリーダーの頼もしさに痺れて憧れた。


「飯食ったらすぐ出発すっぞ!」


 そう言ってクズリーダーが豪快に干し肉を食い千切った。



 先頭を歩くクズ盗賊の足取りがぎこちない。

 皆が疑問に思っているとクズ盗賊がいきなり足を止めた。


「どうした?休憩とは言ってねえぞ」


 クズリーダーの言葉にクズ盗賊は「へ、へへっ」と卑屈な笑みを浮かべただけで動こうとしない。


「なんだその笑いはよ。さっさと行かねえか」

「じ、実はよ、帰り道がよ、その、わかんねえ」


 クズ盗賊の言葉にクズリーダーは激怒する。


「ざけんな!通った道に印をつけてたんだろうが!」

「そ、それがよ、あいつら追うのに夢中ですっかり忘れてたぜ」


 ダンジョン探索をする場合、通った道に目印をつけて迷わないようにするのは当然のことだ。(リオ達のようにマップを持っていればその限りではない)

 しかし、彼らはダンジョン探索などろくにしたことがない者達であった。

 更にクズ達に共通して言えることであるが、自分達の実力を高く評価しがちであり、仮に目印をつけることを覚えていたとしてもつけなかった可能性が高い。

 クズ盗賊はやって来た道を辿ろうとするが、適当に歩き回っためどの足跡が上層への階段に向かうのかさっぱりわからなかった。

 クズ盗賊の失態に皆から非難の声が飛ぶ。

 クズ盗賊は逆ギレした。


「お前らだって俺がマーキングしてねえのに気づかなかっただろうが!同罪だ同罪!」

「「ざけんな!」」


 彼らが互いを罵り合いをして無駄に時間を潰しているときだった。


「ザケンナ」


 それは彼らが発した言葉ではなかった。

 彼らはてっきり別行動をとったクズパーティがやって来たと思い、期待を込めて声のした方向へ顔を向ける。

 冒険者らしき者がフラフラと頼りない足どりで近づいて来るのが見えたが、彼らは別行動をとったクズパーティのメンバーではなかった。


「お前らか!?消息不明となったパーティってのは!?」

「生きてやがったのか!」


 そのクズパーティの推測通り、彼らは消息不明となったクズパーティのメンバーだった。

 だが、彼らは問いかけに「ザケンナ」と返すばかりで会話は成立しない。

 言葉が通じないだけなら「クズだから」で説明はつく?のだが、どこか様子がおかしかった。

 よくよく見ると顔や腕などに緑色の汚れが目立つ。


「にしても汚ねえねえな。なんだその緑色の汚れは」

「ザケンナ」

「まあいい。出口はどっちだ?いや、それよりマップはあるか?食料はまだあるか?あるなら寄越せ。急げよ!」

「ザケンナ」

「『ザケンナ』じゃねえ!人の話を聞きやがれ!」


 彼らが皆によく言われる言葉を彼ら自身が口にすると違和感ありありであった。

 まさに「おまいう」である。

 彼らが最初汚れだと思ったそれは汚れではなかった。

 それに体中に根のようなもの生えており時折、脈を打つかのように動くのだ。

 それにクズ盗賊がいち早く気づいた。


「リーダー!あの緑色は汚れじゃねえ!それに体から根のようなもんが生えてる!こいつら何かに寄生されてやがる!!」


 クズリーダーは舌打ちした後、メンバーに命令した。


「とりあえずここを離れるぞ!」

「「おう!」」


 クズパーティは消息不明だった二人のクズ冒険者から逃げ出した。

 と言っても地上へ向かう階段の場所がわからない。

 適当に走って見つけた階段は下へ降りるものだった。

 あのおかしな二人の姿は見えないがクズ盗賊は彼らが後をついて来ているのに気づいた。

 

「リ、リーダー!あいつら追ってきてるぞ!」

「しゃあねえ。下へ向かう!そうすりゃ奴らと合流できるだろう!」

「奴らに相手させるんだな!?」

「その通りだ!なんたってこれは奴らが受けた依頼なんだからな!こりゃ迷惑料貰わねえと気が済まねえな!」


 勝手について来て酷い言いようだが反論はなかった。


「その通りだぜ!」

「流石だなリーダー!」

「おう!」


 メンバーから羨望の眼差しを受けてクズリーダーは満更ではない顔をする。

 

「よしっ!いくぞ!」

「「おう!」」


 彼らは階段を降りていった。



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