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804話 モーグ その2

 リオ達が進む先から魔物の気配がした。

 ここに来るまでに何度か魔物の気配を感じたが通り道ではなかったし、クイーンモーグとも思えなかったので無視していた。

 だが、今回はこのまま進めばその魔物、おそらくポーンモーグであろう、と出会うことになる。

 サラはポーンモーグとの戦闘はできるだけ避けたかったので遠回りすべきかと悩んだが、リオは気にする様子もなくそのまま進む。


(ポーンモーグの強さは先程リオが倒したものと大して変わらないはずだから“祈り”をさせる前に倒すことができるはず。であれば倒した方がクイーンモーグの元に早く辿り着くわね)


 サラはその結論に達してリオに従うことにした。

 ヴィヴィとアリスも異論はないようだった。



 しばらくしてリオ達は冒険者らしき者と遭遇した。

 リオは言うまでもなくサラ達もダンジョン前で待ち伏せしていたクズ冒険者達の顔を覚えていなかったが、彼らが先回り出来るとは思えないので消息不明となった者であると察する。

 彼は一目見ただけで普通ではないとわかる。

 虚な表情をしており、体の一部が緑に変色し体中に根のようなものが張っていた。

 それが時折、脈を打つようにぴくん、と動く。

 彼が手に緑色の丸い何かを握っているのを見て、ヴィヴィが面倒臭そうに言った。


「ぐふ、予想はしていたがやはりスレイブモーグがいたか」


 彼が手にしている、いや、手と同化しているものこそ、ポーンモーグの本体であり、モーグの種と呼ばれるものである。

 これを破壊しない限りモーグは死なないのだ。 

 先の戦闘でリオはモーグの種を一撃で破壊していた。

 ポーンモーグは体が透けていたのでリオでなくてもモーグの種を狙うことが出来ただろう。

 モーグの種だが、触れた生物と同化して体を乗っ取りモーグへと改造する。

 そうとは知らないこのクズ冒険者はモーグの種をプリミティブと勘違いして安易に素手で触れてしまい、モーグと同化してしまったのだ。

 他の生物と同化したモーグはヴィヴィが言ったようにスレイブモーグと呼ばれる。

 スレイブモーグとなっても見た目が大きく変わるわけではない。

 先に述べたように体の一部がモーグと同じ緑色に変色し、所々から根が飛び出す程度である。

 スレイブモーグはポーンモーグの一種でその役割はポーンモーグと変わらずクイーンモーグを強化するためだけに存在する。

 ちなみにモーグ化したもの達は死んでおらず生きているが自我は消滅している。

 これをもとに戻すのは不可能とされており、実際にもとに戻せた事例は存在しない。

 スレイブモーグと化したクズ冒険者がゆっくりと近づいてくる。


「ぐふ、寄生する側が寄生されるとは皮肉だな」

「ですね」

「どうしますっ?」


 アリスはリオに意見を求めたのだが、リオが答えるより早く口を開く者がいた。

 

「トッタドー」


 手にモーグの種を同化させたクズ冒険者、もとい、スレイブモーグだ。

 モーグ化したのが人の場合、言葉を話すことがある。

 それはモーグ化する前に心に強く残った言葉で愛する者の名前や口癖などが多い。

 相手の言葉を理解している訳ではないので会話が成立することはない。


「ぐふ、お前には聞いていないぞ」

「ゴッツアンデス」

「やはりっ、話に聞いた通りっ、スレイブモーグとなった者とは会話が成立しませんねっ」

「ぐふ、こいつは参考にならんぞ。クズはモーグ化していなくても言葉が通じない」

「ザケンナ」

「あれっ?今のは通じてませんでしたっ?」

「ぐふ……」


 考え込むヴィヴィだが、スレイブモーグはもうすぐそこまで近づいている。

 

「俺が片付ける」

「わかりました。充分注意してください」


 スレイブモーグの強さは同化前と大して変わらない。

 モーグ化したことで耐性強化の恩恵を受けるが、純粋なモーグと比べると劣る。

 クズ冒険者を素体としたスレイブモーグがリオに敵うはずもない。

 リオはモーグの種を同化した手ごと破壊し、その首を刎ねた。

 モーグの種が破壊された時点でモーグは死んでいるが、同化した生物は脳死に近い状態となるだけで死んではいない。

 元に戻す手段はないし、そのまま放置してまたモーグの種と同化して“再利用”されると面倒なので命を奪ったのだ。

 緑に変色していた部分が元に戻り、体から飛び出していた根が崩れ落ちた。



 ヴィヴィがサラに尋ねる。


「ぐふ、消息不明になったクズは何人だった?」


 サラはギルド上級職員との会話を思い出しながら答える。

 

「……確か合計七人だったはずです」

「じゃあっ、最悪っ、スレイブモーグはあと六体いるんですねっ。てかっ、もしかしたらっ見逃したものの中にもいたかもしれませんねっ!」

「そうですね」

「ぐふ、あのクズ達、諦めて帰っているといいのだがな」


 あのクズ達とはリオ達に寄生しようとダンジョン前で待ち伏せしていたクズ冒険者達のことだ。

 ヴィヴィは彼らクズの命の心配をしているのでは当然ない。

 彼らがスレイブモーグと化して余計な仕事が増えるのを嫌っただけだ。

 サラはスレイブモーグのことまで考えが至らなかったことを悔やむ。

 とはいえ、サラはモーグを直接目にしたのは今回が初めてだった。

 適切な判断を下すのは難しいだろう。


「そう願いたいですね」

「ですねっ」


 だが、サラ達の願いは叶わなかった。


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