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802話 クズの休ダンジョン調査

 リオ達がバイエルに到着する十日ほど前。

 ひと組のパーティが冒険者ギルドからバイエルの近くの森の中にある休ダンジョンの調査依頼を受けた。

 彼らは地下八階層まで魔物に一度も出会うことなく順調に進み、地下九階層へ進んだところで見たこともない魔物を発見した。

 全身緑色、身長は一メートルほどで人の形をとっているが顔にあたる部分に鼻や口はない。

 かろうじて目のようなものがあるだけだ。

 スライムが人型をとっているという表現が一番近い。

 その体は”生まれたて“のようで移動するたびにぷよぷよと揺れる。

 本来であれば未確認の魔物を発見した時点で調査を切り上げて冒険者ギルドにその魔物のことを報告に戻るべきであった。

 依頼書にもそう明記されていた。

 だが、彼らはそれを無視した。

 きちんと依頼書を読んでいなかったこともある。

 受付嬢が注意事項としてそのことを彼らに告げていたが聞き流していたこともある。

 何故彼らはそんないい加減に依頼をこなしていたのか?

 それは彼らがただの冒険者ではなかったからだ。

 そう、彼らはクズ冒険者だったのだ。



 彼らは最初こそ警戒していたが攻撃を仕掛けることにした。

 その決断をした理由は相手はたった一体で弱そうだったこともあるが、魔物の体が透けてプリミティブと思われるものが見えており、欲望に負けたことが大きかった。

 この魔物の動きは鈍く、クズ冒険者達の攻撃が面白いように当たる。

 逆に敵の攻撃は難なく回避できる。

 この魔物の体はスライムに似ていると言ったがスライムほどの物理耐性はなく、クズ冒険者達の通常武器でダメージを与えることができた。

 クズ冒険者達は戦いを有利に進めることができて自分達の実力を過大評価した。

 クズは調子に乗ると際限がない。


「わははは!ざこざこざこーっ!!」

「がはははっ!このクズが!クズが!」


 いつもクズ呼ばわりされている鬱憤を晴らすかのようにその魔物をいたぶる。

 いや、違った。

 単に彼らの攻撃力が弱く致命傷を与えられないだけだった。

 魔物は彼らの攻撃を受けている最中に不意に両手を合わせた。


「おいおい、助けてくれってか?」


 確かにそのポーズは命乞いをしているように見えるが祈るようにも見えた。

 どちらでもクズ冒険者達には関係なかった。


「がははははっ!だが、断る!」

「俺らに敵対したことを後悔しろ!」


 クズ冒険者はそう叫びその魔物への攻撃をやめない。

 彼らから攻撃を仕掛けたはずであるが、その指摘を魔物がすることはなかった。

 クズリーダーがその魔物の首らしきものを斬り飛ばすと力を失ったかのように両手がだらん、と下がり仰向けに倒れて動かなくなった。


「しゃーーーーっ!!」


 首を斬り落としたクズリーダーが剣を掲げ、声高々に叫んだ。

 その声に誘われたのか新たに二体同じ種類の魔物が現れた。

 彼らは完全に調子に乗っていた。


「俺も続くぜ!!」

「俺もだ!」


 複数相手であったが今回も楽勝であった。

 クズ戦士とクズ盗賊が渾身の力を込めて魔物達の首を斬り飛ばした。


「ん?」


 剣を見ながら首を傾げるクズ戦士に最初に魔物を倒したクズリーダーが尋ねる。


「どうした?」

「いや、今の奴よ、首を斬り落とすときちょっと固かった気がしてな」

「気のせいだろ」


 クズリーダーは気にしなかったが、クズ盗賊もクズ戦士と同意見だった。


「いや、俺もだ。最初より固かった気がしたぞ」


 クズリーダーはやはり気にしなかった。

 それどころか、自分の力が二人より優っているのだと思い込み優越感に浸る始末であった。

 心の中で勝ち誇った顔をしながら口にしたのは別のことだ。


「個体差だ個体差!」


 クズリーダーの言葉に二人も納得した。

 三人とも深く考えるのが苦手なのだ。

 彼らは自分が倒した魔物に近づくとその体を斬り裂き体内からプリミティブを取り出した。

 先に述べたようにこの魔物の体は透けており探すのに苦労しなかった。

 そのプリミティブは他の魔物のものとは少し異なっていた。

 攻撃魔法のファイアボールを食らってもヒビ一つ入らない強度を誇るはずがクズ達の攻撃程度で傷がついていた。

 しかも弾力がある。

 

「これは珍しいぜ!」


 クズリーダーが楽観的な意見を述べる。


「もしかしたら魔物が体内でプリミティブを生成する仕組みを解き明かす材料になるかもな!」

「確かに!」

「こりゃ魔術士ギルドに高く売れるぞ!」


 通常のプリミティブとの違いがいくつもあるにも拘らず彼らはそれがプリミティブであることを信じて疑っていなかった。

 彼らはそれをリュックにしまいながら愚痴を言う。


「くそっ。しかしなんだこのプリミティブについてるネバネバはよ。なかなか取れねえ」

「俺のもだ」

「俺なんか手にべったりついて離れねえぜ」


 そう言ってクズ戦士がプリミティブを持った手のひらを下にして指を広げるが、プリミティブは手にしっかりとついて離れない。


「「がははっ」」


 クズリーダーとクズ盗賊に笑われ、クズ戦士は腹を立てながら必死に引き剥がそうと奮闘する。


「くそっ!マジくっついて取れねえぜ!」



 彼らが調査を開始して五日経った。

 彼らが地下十三階層にある魔道具”通信くん“で冒険者ギルドに連絡することも戻ってくる事もなかった。

 冒険者ギルドは連絡をよこさない彼らの捜索を含めてそのダンジョンの調査にもう一組のクズパーティを向かわせたが彼らも同様に消息を絶った。

 そして今、そのダンジョンにリサヴィがいた。



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