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80話 ガールズハンター

 ローズを先頭にベルフィ、ナック、そしてカリスの順で迷宮を進んでいた。

 少し進むと通路がコンクリートで舗装され、壁には一定間隔でマナランプが埋め込みで設置されていた。

 マナランプはベルフィ達が一定距離まで近づくと点灯し、離れると消えた。

 ナックが感嘆の声を上げる。


「こりゃまたすごい仕掛けだな!」

「ああ。自前で灯りを用意しなくて済むのはありがたいな」


 魔物は現れなかった。罠もなかった。

 ただ、その代わり宝どころか部屋もなかった。ただひたすら真っ直ぐ通路があるだけだった。

 しばらく進むとやっと正面に扉が見えて来た。

 ローズが慎重に扉やその周辺に罠がないか調べる。


「……大丈夫。何もないわ」

「よし、進むぞ」


 扉を開けると下へ降る階段があった。


「ここからが本番ってことかな」

「しっ」


 地下一階に降りてすぐ前方で何かが動くのにローズが気づき、軽口をたたくナックを注意する。

 パーティは慎重に様子を伺う。

 それはこちらへ向かって来ているようだがその動きは遅い。

 壁のマナランプは侵入者だけに反応するのか、その何かがいる場所付近にあるマナランプは反応しない。



「……ありゃスライムか?」

「ああ」


 視認出来る距離にまで近づいてきたスライムは全長三十センチメートル程で、この程度の大きさなら攻撃力は大したことはない。

 問題は物理攻撃が効きにくいということだ。特に戦士には厄介な魔物だ。

 ただ、スライムは自分より大きい獲物を襲うことは滅多にない。

 放っておいても害はないとナックは考えた。


「どうするベルフィ?無視するか?」

「こんなん倒してもプリミティブも大して価値ないぞ」


 カリスの士気低下は著しい。サラがいないので全くやる気がなかった。


「そうだな……」

「ちょっと待ちなっ」

「ローズ?」

「……」


 ローズはスライムの動きに違和感を覚えた。

 スライムに目があるのかはわからないが、ローズはじっと見られている気がしたのだ。

 ローズは懐からハンカチを取り出すと丸めてスライムに放り投げる。

 するとスライムがそのハンカチを取り込み、咀嚼でもしているようにその体がブニョブニョ動く。

 その動作が終わるとスライムがゆっくりとローズへ近づいてきた。

 ローズはスライムに侮蔑のこもった目を向けながら言った。


「ハンカチを食いやがったよっ!あれはただのスライムじゃないっ。恐らくガールズハンターだよっ!」

「何!?マジかよっ!?」


 ナックの嬉しそうな声にローズの冷たい視線が突き刺さった。



 サラ達が待ち合わせ場所に戻ると、ベルフィ達はすでに戻っていた。


「お待たせしましたか?」

「全然大した事はない!」


 サラはベルフィに尋ねたつもりだったが答えたのはカリスだった。


「それならよかったです」


 サラはベルフィ達と共に洞窟へ出かけたローズが不機嫌な事に気づく。


「俺がいなくて心細かっただろ」

「いえ。それより何かあったのですか?」


 カリスがそう言ってキメ顔をするがサラは軽く聞き流し、ローズの様子がおかしい事をベルフィに尋ねた。


「実はな……」

「ローズがスライムにパンティー食われたんだ」


 ナックが楽しそうな顔で会話に割り込んできた。


「嘘を言うんじゃないよっ!」


 ローズがナックの尻に蹴りをいれる。

 そのやり取りでヴィヴィが察した。


「ぐふ。まさかアレがいたのか?」

「ああ」

「まさか……」

「あれって?」

「ああ、リオにはアレじゃ通じないか。アレとはガールズハンターの事だ」

「ぐふ」

「やっぱり……」


 ヴィヴィとサラは納得したようだったがリオは首を傾げる。

 ナックが蹴られた尻をさすりながらリオに説明する。


「ガールズハンターってのはスライムの一種だ」

「スライムって強いんだっけ?」

「強くはない。だが倒すのは面倒だ。あのブヨブヨした体には物理攻撃が効きにくいからな」

「そうなんだ」

「でだ、ガールズハンターは女の服を食う。女の服限定な!ここ大事だぞ!女の服だけ食べるんだ!試験に出るから覚えとけよ!」

「わかった」


 ナックの満面の笑みとは対照的にサラとローズが不機嫌な顔になる。


「それでローズのパンツが食べられたんだ」

「バカな事言うんじゃないよっ!」


 ローズがリオをどつく。


「ん?じゃあなんでそのスライムがガールズハンターだとわかったの?ローズはパンツ食べられてないんでしょ」

「なんであたいのパンツを判断基準にしてんだいっ!」


 リオは再びローズのゲンコツを食らう。


「ぐふ。ローズのパンツはどうでもいいが、そのスライムがガールズハンターだと何故わかったのかは気になるな」

「ええ。私もです」

「あたいがハンカチを投げたんだよっ」

「見事に食らいついてさ。ちなみに俺の投げたハンカチはシカトされた」

「ハンカチって服に入るの?」


 リオの当然の疑問にナックが言い放つ。

 

「リオ、細かいこと気にするな」

「わかった」


 あっさり頷くリオに言った本人であるナックもちょっと呆れながらも話を続ける。

 

「そのあとが見ものでさ。そのガールズハンター、盛りがついたかのようにローズに襲いかかって来たんだ」

「それでローズのぱん……」

「しつこいっ!」


 リオは再びローズに殴られた。


「俺がファイアアローで焼いてやった。あっさり死んだぜ」

「女の服を食う以外大した事なかったぜっ」


 カリスは自分がやったわけでもないのにそう言ってサラにキメ顔をするが、効果は言うまでもなく全くない。


「ぐふ。なるほどな。と言う事はここは“奴”のラビリンスなのか?」

「ああ、間違いなくサイファ・ヘイダインのラビリンスだ」

「サイファ……ヘンタイ?」

「おう、間違っているが間違っちゃいない」

「ん?」

「このサイファって奴はまあいわゆる一つのエロ魔術士だ。あちこちにラビリンスを作っててな、トラップは男女を区別して発動するんだ。言うまでもなく女にはエロいヤツな。ガールズハンターは奴が生み出した魔物という説もある。最初に発見されたのは奴のラビリンスだって話だからな」

「そうなんだ」

「で、男には容赦ない攻撃をしやがるらしい」

「そうなんだ。じゃあサラとローズが裸で挑めば攻略でき……」


 リオの言葉は最後まで言えなかった。

 サラとローズにどつかれたからだ。

 更に何故かカリスにまでどつかれた。

 

「僕、どうして……」

「叩かれたのかわかりませんか?」


 そこでリオの表情が微かに変化し、ヴィヴィを見る。

 

「ぐふ?」

「ごめん、ヴィヴィを入れるの忘れてたよ」


 その言葉を聞いて唖然とする面々。


「リオ、あなたが謝罪すべき理由と相手が違います」

「ほんと、あんたの頭ん中はどうなってんだろうねっ!」

「まあ確かにリオの提案にはそそられるものがあるけどよ、普通の魔物もいると思うぞ」

「そうなんだ」



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