表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
799/864

799話 クズ盗賊、実際に実力を見せつける

 サラはクズ盗賊が喚きまくるのを無視して再度言った。


「ともかく、何度でも言いますが私達はあなた達を必要としていません。それどころか迷惑です」

「ざけんな!俺のような優れた盗賊の探索能力はダンジョンで必須だろうが!ここは『ぜひお願いします。報酬はいくらでも払いますのでついて来てください』と頼むとこだぞ!」


 クズ盗賊の言葉にクズリーダーも続く。


「そんなこともわかんねえのか!?あん!?」


 サラは彼らに凄まれても全く動じることなく当然のことを口にする。


「そもそもこんな大人数でこの依頼を受けたら報酬が割に合いません」


 サラ達は報酬など気にしていないが彼らクズにとってはそれが最も重要なことのはずである。

 今回の休ダンジョン調査の依頼料だが、クズとはいえ既に二組のパーティが消息を絶っているので通常より依頼料は高い。

 とはいえ、何組ものパーティで行うものではない。

 精々二組が限度だ。

 それを超えるとCランクの標準的な依頼より安くなってしまう。

 今回、調査依頼を受けたリサヴィに寄生しようと集まって来たパーティは四組(十三名)もいる。

 リサヴィを合わせると五組(十七名)になってしまうのだ。

 仮に報酬を均等に割るとDランクの依頼どころか下手すれば気前のいいEランクの報酬に負けてしまう。

 そのことを頭の弱い彼らでも流石に理解できると思った。

 しかし、彼らは諦める様子はなかった。

 確かに彼らは皆頭が非常に弱かったが報酬が少なくなることは最初からわかっていた。

 サラは読み間違えていたのだ。

 彼らの優先事項は降格しないことだった。

 つまり、Cランクの依頼を達成したという実績が欲しかったのである。

 だから四組のクズパーティは共同依頼の奪い合いをせずに協力関係を築くことができたのだ。

 とはいえ、報酬も当然欲しい。

 クズリーダーはなんか偉そうな顔で言った。


「報酬については依頼達成後によ、“民主的“に決めればいい」


 直後、「だな!」の大合唱。

 多数決を取る場合、クズパーティ四組対リサヴィとなる。

 つまり、クズの言いなりになるということであった。

 


 今まで沈黙を保っていたリオが口を開いた。


「いつまでクズと遊んでるつもりだ」


 直後、「誰がクズだ!誰が!?」と大合唱。

 ヴィヴィが心外だという顔で否定する。

 と言ってもその顔は仮面で見えないが。


「ぐふ、遊んでるのはサラだけだ」

「ですねっ!」

「おいコラっ!」


 わめき散らすクズ冒険者達をよそにリオは「かまってられない」とでも言うようにダンジョンへと足を向かわせる。

 サラ達もこれ以上クズと話すのは無駄とみて異議を唱えることなく後に続く。

 リオ達がダンジョンに向かうのを見てクズ冒険者達は偉そうな態度で道を開けた。

 最後尾を歩くサラが後をついてこようとするクズ冒険者達に再度警告した。


「本当に邪魔なのでついて来ないでください。共同依頼にすることも報酬を分けることも絶対にありませんので」


 もちろん、クズが人の言うことを素直に聞くわけがない。

 「ざけんな!」と声を揃えて元気よく叫んだだけでその歩みを止めることはなかった。



 リサヴィはあらかじめ冒険者ギルドからこのダンジョンのマップを渡されていた。

 本来であれば最短距離で最下層に向かい寄り道はしないはずであった。

 しかし、リオは地下一階層からその予定を崩した。

 下層へ降りる階段へ最短距離で向かわず、ダンジョンを探索するかのような行動を始めたのだ。

 サラは異論を唱えなかった。

 クズ達の邪魔が入ったものの、ともかくダンジョンへ入ったことで一安心したことが大きい。

 それに地下一階層に魔物が出現しているのか、いるならどの程度の強さの魔物かを見ておくのも悪くないと思ったのだ。



 ダンジョンを探索する隊列だが、リオとアリスが前列で後列がサラとヴィヴィだった。

 リサヴィから申し訳程度に距離を空けて四組のクズパーティが続く。

 しばらくしてサラ達の背後にクズ盗賊が一人で忍び寄って来た。

 クズ盗賊はスキル、インシャドウを使い、気配を消して近づいていた。

 自分の力に過剰な自信を持っておりサラ達に気づかれていないことを信じて疑っていなかった。

 彼はサラを驚かせようと背後からサラの肩にそっと触れようとした。

 しかし、肩に触れる前にサラの手によって弾かれた。


「なっ!?」


 クズ盗賊はインシャドウが破られていると気づき驚く。

 サラは歩みを止めず振り返り冷めた目で彼を見た。

 クズ盗賊は動揺を必死に隠して強張った笑顔で言った。


「驚かせて悪かったな。突然現れたんで驚いただろう?」

「……」


 サラにとって彼程度の実力者の隠密行動を察知するのはわけなかった。

 彼の手を振り向きもせず弾いたことでも明白だ。

 にも拘らず何故彼はそのような発言をしたのか意味不明だ。

 サラは彼のプライドを傷つけるのも構わずそのことを口にする。


「ちょっと何を言っているのかわかりません。突然も何も普通に近づいて来たではないですか」

「な……」

「それはともかく、あなたの後ろの者達もですが、『ついて来るな』と言ったはずなのに何故ついてくるのですか。依頼を受けていないのですからさっさとダンジョンから出ていきなさい」

「ざけんな!」

「……」


 クズ盗賊は思わず本能のままに叫んだ後でやって来た目的を思い出す。

 彼はサラを驚かせに来たのではなく、クズリーダーの命令でこっそり気づかれず近づき様子を探りに来たのである。

 だが、自分の力を見せつけてやろうとの思いが強くなり、その気持ちを抑えきれずにサラにちょっかいをかけたのだ。

 結局、どちらも失敗に終わったのだが彼の目的はもう一つあった。

 クズ盗賊は背後のクズ仲間達に聞こえないように声を抑えて話し出す。


「いや、わりい。そうじゃねーんだよ」


 サラはもう後ろを向いていないがクズ盗賊は構わずその背に向けて話を続ける。


「ほれ、お前らのパーティには盗賊がいないだろ?だからよ、俺がお前らのパーティに入ってやろうかと思ってよ。腕は今見た通りだ」


 そう言うとクズ盗賊がサラにキメ顔を向けた。

 彼は今のパーティが落ち目で先がないとみて以前から移籍先を探していた。

 ギルドが信頼を寄せるサラ達のパーティこそ彼が移籍するに相応しいと考え、今がそのチャンスだと行動に移したのだ。

 サラとアリスという美女がいたこともこのパーティを選んだ理由の一つであることはいうまでもない。

 さて、彼の会心のキメ顔だが効果はなった。

 サラの背中には目がついていないのだ。

 まあ、彼のキメ顔が見えていたとしても効果はなかっただろうが。

 サラは実力不足を自慢するクズ盗賊に振り返ることなくそっけなく答えた。


「必要はありません。何度も言わせないでください」

「ざけんな!」


 サラは彼の裏切り行為を彼のクズパーティに聞こえるようにわざと大きな声で言った。


「入りたいと言われても私達のパーティはメンバー募集をしていません!!」

「ば、馬鹿野郎!声がでけえ!」


 サラの大声にクズ盗賊が慌てるが当然手遅れである。

 サラの叫びは後方のクズリーダー達にしっかりと聞こえていた。


「てめえ!何やってやがる!?あん!?」


 クズリーダーに裏切り行為がバレてクズ盗賊がビビる。


「お、お前、大声で言うことじゃねえだろ!迂闊過ぎっぞ!」


 サラは迂闊ではなく、わざとやったので反省することはない。


「おいこら!てめえ!すぐ戻ってこい!!」


 クズ盗賊はサラにぶつぶつ文句言いながらクズリーダーの元へ戻って行った。

 彼はしばらくクズリーダーに怒られていたようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ