797話 ダンジョン前に立ち塞がるクズ
その日の夕方。
リサヴィがダンジョンの前にやってきた。
元々の予定ではもっと早く来れるはずだったのだが遺跡探索者ギルドでクズ達の騒ぎに巻き込まれて遅れてしまったのだ。
「周囲に魔物の気配は感じませんね」
「ぐふ」
「ですねっ」
確かに魔物の気配は感じなかったが何もいなかったわけではない。
クズである。
リオ達が来る前に四組のクズパーティが休ダンジョンの前で待っていたのである。
当然、クッズポーズをして、である。
彼らがいつからそのポーズで待っていたのかはわからない。
少なくともリオ達がここへやって来た時には既にクッズポーズをとっていた。
受付嬢にクズループを仕掛け、彼女の口を滑らせさせたクズパーティがリサヴィの前にやってきた。
他のクズパーティは様子見のようでクッズポーズをしたまま身動きしない。
ちなみにこの三組は前のクズパーティと受付嬢とのやり取りを盗み聞きしており(叫んでいたので盗み聞きするまでもなかったが)、自分達もおこぼれに預かろうとやってきたのである。
クズリーダーが偉そうな態度で口を開いた。
「お前らだな。このダンジョンの調査依頼を受けたってパーティはよ」
サラはリオが暴走しないように「私が対応します」と手で合図してから前に出た。
「そうですがあなた達は誰……」
サラが言い終える前に彼らは文句を言い出す。
「ったく、いつまで待たせんだ」
「俺らの方が先に入っちまうところだったぜ!」
「だな!」
よくわからない連中に文句を言われサラは呆れた顔で反論する。
「あなた達には関係ないでしょう」
「「「ざけんなーーっ!!」」」
クズパーティの叫びは見事にハモった。
きっと毎日練習しているのだろう。
クズリーダーがきっ、とサラを睨みならがら自分勝手なことを言い始める。
「このダンジョンの調査依頼はな!俺らが受けるはずだったんだ!大親友が行方不明になってっからな!何かあったに違いねえ!なら助けに行くのは俺らしかいねえだろ!?それをお前らが横から掻っ攫っていったんだ!」
クズリーダーにクズメンバーが続く。
「恥を知れ!恥を!」
「人の依頼を横取りした卑怯なお前らはな、責任を取る義務がある!」
「「だな!」」
サラは彼らの言い分に呆れた。
もし、彼らの言うことが本当ならクッズポーズでサラ達を待っている必要はない。
少なくともサラなら親友を救うためにわざわざ依頼を受ける手間などかけずさっさと救出に向かう。
サラ達に寄生して楽して依頼達成したいというのが丸わかりだった。
それを口にしようとしたがその前にヴィヴィが口を開いた。
「ぐふ、リオ」
「ん?」
顔を向けたリオにヴィヴィは“棒読み”で話を続けた。
「ぐふ、私は感動した。こいつらの友情に免じて依頼を譲ってやらないか?」
それにサラ、アリスも棒読みで続く。
「それはいい考えですね」
「ですね」
リオが答えるよりクズ冒険者達のほうが早かった。
「「「ざけんな!!」」」
「ぐふ?」
ヴィヴィが首を傾げるとクズリーダーが偉そうに話し始める。
「俺らが依頼を達成してもお前らの手柄になるじゃねえか!」
「人の力で依頼達成して自分の手柄にするなんてな!恥ずかしいと思わねえのか!?あん!?」
怒りを露わにするクズ冒険者達に対してヴィヴィ達はポカン、とした。
まさに「おまいう」である。
「ぐふ、そんなことはしないぞ」
「そうですね」
ヴィヴィが呆れた顔で(と言っても仮面で顔は見えないが)否定し、サラも同意する。
「ギルドは誰が依頼を達成しても構わないと思いますので最下層にあるという“通信くん“でギルドと連絡をとり交渉すればいいでしょう」
「ぐふ、そうだな。もし、ギルドが拒否したら私達は了承済みだと言うといい」
サラ達は満額回答したつもりであったが、彼らの顔を見ればそう思っていないことは明らかだった。
「そんな言葉が信じられっか!」
彼らはサラ達の言葉を信じない。
それは当然のことかもしれない。
何せ彼ら自身が約束を簡単に破るのだから。
「大親友のピンチなのでしょう?そんな事を言ってる場合ではないと思いますが」
そう言ったサラを彼らは揃って怒鳴りつけた。
「「「それはそれ!これはこれだ!!」」」
更にクズリーダーは続ける。
「俺らはな、あいつらの大親友である前に冒険者だ!誇り高き冒険者だ!誇り高き冒険者はな!絶対にタダで依頼を受けたりしねえんだ!絶対にだ!!」
クズリーダーの叫びに彼のクズパーティが「おう!」と声を揃えて叫んだ。
その顔はなんか誇らしげだった。
クズリーダーが遠い目をしながら言った。
「そのことを大親友達だってわかってくれるぜ!」
「「だな!」」
そう言って自分達の行動を正当化した。
つまり、彼らの大親友の命は彼らのプライドよりも軽いということである。
価値観は人それぞれなのでそのことについてはサラ達は触れなかった。




