796話 休ダンジョン調査依頼を受けたいクズ
話はリオ達が遺跡探索者ギルドへ向かっている頃まで遡る。
冒険者ギルドではあるクズパーティが受付嬢に文句を言っていた。
彼らはリオ達が受けた休ダンジョン調査依頼を受けたかったのだが、それを受付嬢に拒否されたからだ。
クズリーダーが受付嬢に食ってかかる。
「だからなんでダメなんだ!?依頼書は貼ってないがな!まだ依頼が完了してない事は知ってんだぞ!」
クズリーダーにクズメンバー達も続く。
「なんてったって俺らの大親友がその依頼を受けてんだからな!」
「戻って来なくて心配だから大親友である俺らが依頼を引き継いてやるって言ってんだぞ!」
「ここはお前らの方から頭を下げて『よろしくお願いします!』って言うところだろうが!」
「「だな!」」
受付嬢の営業スマイルは彼らの相手をして数秒で消えていた。
彼女は疲れた表情を隠すことなく言った。
「何度も申しますがその必要はございません」
「「「ざけんな!」」」
彼女はベテランの域に達しようかという程の経験の持ち主であったが、クズ冒険者達のクズ経験値はそれを軽く上回っていた。
受付嬢はクズ冒険者達の望んだ回答を得るまで同じ会話を繰り返すクズスキル、クズループを受けて疲労困憊であった。
そのため、ついに口が滑ってしまった。
「その依頼は先程他の者達が受けることが決まりましたので必要ありません!」
口止めされていたことをうっかり口にしてしまった受付嬢はそう言った直後にはっ、とした表情をして口を押さえるが既に手遅れだ。
「先程、か」
クズ冒険者達がニヤリ、とクズスマイルを受付嬢に向ける。
「あ、いえっ、今のはっ……」
「つまり、依頼を受けたばっかりってわけだな?まだ始めてねえかもしれねえんだな?」
「い、いえ、そ、それは……」
「よし、わかった!俺らも今から向かうぞ!そいつらに協力をしてやろうじゃねえか!」
「「だな!!」」
そう言ったクズ冒険者達の顔はなんか頼もしそうに見えた。
実は彼らは最初から休ダンジョン調査依頼を単独で受ける気はなかった。
既に二組のパーティが消息を絶っていることから危険な依頼だとわかる。
そんなところへ楽して儲けることしか頭にない彼らクズが進んで行くわけがない。
だが、強力なパーティが依頼を受けるなら話は別だ。
その者達におんぶに抱っこをしてもらい、楽して金儲け、できれば名声も得ようと考えていたのだ。
ギルドの動きを見て、密かに相当腕のたつパーティに依頼を相談していると察し一芝居打って様子を探っていたのだ。
ちなみに本当に依頼が受けられそうだったら「急用を思い出したぜ」と言って断り、間を開けて再チャレンジするつもりであった。
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
受付嬢の制止の声はクズ冒険者達に聞こえていたが彼らが止まることはなかった。
クズは基本的に人の言うことを聞かないのだ。
そんな彼らの前にギルド職員が立ち塞がる。
「なんだてめえ!」
「俺らは急いでんだ!」
「さっさと退きやがれ!」
しかし、ギルド職員は退かなかった。
「ダンジョン調査依頼にあなた達が加わる必要はありません」
「「「ざけんな!」」」
ギルド職員が受付嬢に代わってクズ冒険者達の説得をする。
しかし、彼がクズ冒険者達に「手助けの必要はない」と説得すればするほどその依頼を受けたパーティの実力が本物であり、共同依頼に持ち込めば楽して依頼達成出来る、金儲けできると確信するのだった。
「よし、よくわかった」
クズリーダーが偉そうに言った。
「やっと理解して頂けましたか」
ギルド職員がほっとした表情をするがそれは早計だった。
「おう!やはりそいつらには俺らの力が必要だとな!」
「はあ!?」
「まあ、調査は任せとけ!俺らとそのパーティにな!」
「「だな!」」
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
もちろん、彼らが待つことはなかった。
何度も言うがクズは人の言うことを聞かないのだ。
彼らは「がはは!」と笑いながらギルド職員を押し退けて冒険者ギルドを出ていった。
ギルド職員は彼らの後を追おうとしたが背後から肩を掴まれ止められた。
ギルド職員が振り返り相手を確かめるとそれはリサヴィの泊まる宿にやってきたギルド上級職員であった。
その間に何組かのクズパーティがクズスマイルをしながら彼らの後を追うように出ていく。
彼らもおこぼれを貰おうと考えたのだろう。
「何故止めるのです!?このままでは……」
思わずパーティ名を口にしそうになるが、どうにか抑え込むに成功する。
ギルド上級職員が小さく頷いた後で言った。
「後は彼らに任せましょう」
その言葉にギルド職員ははっ、とした表情をした。
彼はギルド上級職員の言う「任せる」の意味を理解したのだ。
休ダンジョン調査依頼を受けたパーティは二つ名を持っていた。
死神パーティ。
関わるクズが皆死んで行くことからクズ達が名付けたという二つ名。
ちなみにクズ本人は自身をクズだとは思っていない。
ギルド職員はそのメンバーが持っていると言われる能力をボソリ、と呟く。
「……これがクズコレクター能力」
「そうです」
その呟きが聞こえたギルド上級職員が頷いた。
彼らは真顔で言っていた。
もし、この場にサラがいたら激怒したことであろう。
「この依頼はあなた達が持って来たのでしょうが!!」
と。




