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792話 休ダンジョン調査依頼を受けよう

「あっ、サラさんっおかえりなさいっ」


 部屋に入って来たサラにアリスが声をかけた。


「ええ。ただいま」

「ぐふ、外が騒がしかったがお前が何かやったのではないか?」


 クズとの追いかけっこはイスティに口止め料を払ったので彼が口外する事は無いだろう。

 口止め料は金品ではなく、冒険者ギルドでクズ冒険者がやらかした愚行の話だ。

 クズ冒険者達が作った二段のクズ壁のことを聞いたときのイスティの目の輝きは尋常ではなかった。

 

「クズはいつも私の想像を軽く超えていきますね!」


 もしかしたら創作中の演劇に取り込む気かもしれない。

 サラはヴィヴィの問いに先程、目の前で見たクズ冒険者と魔装士の争いのことを話して誤魔化すことにした。


「魔装士、恐らく探索者でしょうけど彼らとクズ冒険者が揉めたようです。結果はクズ冒険者達がボコられて衛兵に連行されて行きました」

「ぐふ」


 ヴィヴィが疑いの目を向けたように見えたがその顔が仮面で見えないことをいいことに気づかない振りをする。

 アリスがサラの装備が変わっていることに気づいた。


「あれっ?そういえばっマントが変わってますねっ」

「……気に入ったのがあったので」

「そうなんですねっ」


 サラはどうにか誤魔化せたと内心ほっとしたところにヴィヴィが声をかけて来た。


「ぐふ、ところでサラ」

「なんですか?」

「ぐふ、何故私が魔装具を装備してると思う?」

「え?」


 確かに言われてみれば自分達の部屋の中でヴィヴィが魔装士の格好をしているのは少し違和感があった。

 とはいえ、部屋の中でも仮面をつけていることは珍しくもない。

 だが、ヴィヴィの今の意味ありげな発言にサラは嫌な予感がした。

 サラの額を嫌な汗が流れる。


「ぐふ、気づいたようだな」

「……な、なんのことですか?」

「ぐふ、私は見ていたのだ。お前がクズ達と楽しそうに追いかけっこしてるのをな」


 そう言って望遠機能のある仮面を軽く叩いた。


「なっ!?」

「ぐふ、それにな。気づかなかったのか?お前は前の通りも走っていたのだぞ」

「な、な……」

「ぐふぐふ、必死に誤魔化そうとする姿は中々面白かったぞ」

「こ、こんがきゃー!!」



 落ち着きを取り戻したサラが冒険者ギルドで相談を受けた休ダンジョン調査依頼の話をする。

 話を聞き終え、ヴィヴィが呆れた顔で言った。

 と言ってもその顔は仮面で見えないが。


「ぐふ、肝心の魔物の情報を得ずにどうでもいい依頼を持ってくるとか、お前は冒険者ギルドに何しに行ったのだ?」

「く……そ、それでも休ダンジョンが活ダンジョンに変わっているかは気になります」

「ぐふ、その調査に向かった者達はクズなのだろ?勝手に依頼を放棄しただけではないのか?」

「確かにあり得ますねっ。相手はクズですからっ」

「いえ。その可能性は低いようです」

「そうなんですかっ?」

「ええ」


 サラはギルド上級職員に説明されたことを話す。


「休ダンジョン調査は活ダンジョンに変わっていなければ楽な依頼です。活ダンジョンに変わっていたとしても彼らが魔物を倒す必要はありません。その報告をするだけでいいのです。それに彼らはこの依頼を達成しなければ降格、最悪は退会処分もありうると警告を受けていたそうなのです」

「ぐふ、それなら確かに依頼を放棄することはないか。奴らから冒険者を取ったらクズしか残らないからな」

「ですねっ」


 ヴィヴィはギルドの対応について疑問を口にする。


「ぐふ、そんなに気になるならギルドの偵察隊を向かわせればいいのではないか?」

「あっ、確かにっ」

「そうしたいところなのですがグズがあちこちで騒ぎを起こすのでギルド警備員だけでは足りず応援に回しているそうで街から離れられないそうです」

「ぐふ、またクズか」

「ほんとっどうしようもないですねっ」

「ぐふ、しかし、そのダンジョンは往復で四日はかかるのだろう?探索者の合格発表は明日だぞ」

「そ、それを見てから行けばいいではないですか」

「そうだな」

「……え?」


 サラに同意したのは今まで黙っていたリオだ。

 サラはリオの説得が一番難しいと思っていた。

 そのリオがあっさりとOKしたので思わず聞き返す。


「いいのですか?」

「ああ。考えてみれば俺はこれまでダンジョンの最下層に行ったことがなかった。一度くらい行ってみようかと思った。活ダンジョンに変わっているなら魔界の門が見れるかも知れない」


 確かに思い返してみればどのダンジョンも全て途中の階層までしか行っていないように思われた。

 が、


(あれ?サイファのラビリンスは一階層しかなかったけど制覇したと言えるわよね。物足りなかったということかしら?)


 サラがその疑問を口にすることはなかった。

 折角リオが行く気になっているのだ。

 余計なことを言って「ああ、そうだな。じゃあやっぱりやめるわ」と考えを変えられると困るからだ。



 次の日の朝。

 リサヴィの部屋にギルド職員達がやって来た。

 その中には昨日サラが話をしたギルド上級職員もいた。

 依頼確認のためだけに上級職員までやって来たことからギルドがこのダンジョン調査を重要視していることがわかる。

 ギルド上級職員はオッフルでの出来事を知っているのか、リオと話す時の表情はとても緊張していた。

 しかし、リオがあっさりと依頼を了承したのでサラと同じく拍子抜けし、ほっとした表情を見せる。

 だが、いざ依頼書にサインするときになってリオがサインを拒否した。


「俺は付き添いだ」

「リオ、あなたね……」

「リオさん、このダンジョンは冒険者以外立ち入り禁止なのです」

「俺はまだ冒険者のはずだが」

「あ、いえ、そうなのですが正式に依頼を受けて頂けないでしょうか?」

「……」


 リオの顔が微かに不機嫌な表情になる。

 その変化に気づいたギルド上級職員が妥協しようとした時だった。

 空気が読めないことには定評のあるアリスが割り込んできた。


「ほらほらリオさんっ、我儘言っちゃダメですよっ」

「……」


 アリスはサラが手にしていたリオの冒険者カードをヒョイっと掴んで手にするともう片方の手でリオの手を掴んで冒険者カードに触れさせる。

 リオの冒険者カードに情報が表示されるのを見てギルド職員達はほっとした表情をすると素早く依頼処理を終えた。

 そして、挨拶を済ませると「キャンセルはお断りです!」とでも言うかのように速攻で帰っていった。



 アリスがサラにリオの冒険者カードを返しながら言った。

 

「サラさんの鬼嫁スタイルに対抗してっわたしはっ甘嫁スタイルを目指すことにしましたっ。えへへっ」

「……何度も言いますが私はそんなものになった覚えはありませんし、なる気もありません」


 サラの言葉は誰も聞いていなかった。



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