791話 クズ冒険者の追跡を振り切れ!
サラは冒険者ギルドの出口に辿りつくとドアを開けて外へ飛び出した。
だが、まだ終わりではなかった。
サラの後を何人かのクズ冒険者が追ってきたのだ。
いきなり始まったサラとクズ冒険者達の追いかけっこ。
この勝負はサラが余裕で勝つかと思われたが、そうでもなかった。
クズ冒険者達に共通して言えることだが、彼らは足だけは鍛えていた。
逃げる時は言うまでもなく、エクセレントスキル(クズスキル)の“ごっつあんです”、そして”押し付け“を行う時などに必須だからだ。
「しつこいわね。これがリオ達ならとっくに切れていたでしょうね。ほんと気の長い私一人で来て正解だったわ!」
ツッコミ役がいないと思ってサラは言いたい放題であった。
サラは路地へ入り何とかクズ冒険者達を巻くことに成功した。
そこまではよかった。
サラはこの街に来たばかりで宿屋がどの方向にあるかさえわからない。
それにサラは認めていないが方向音痴である。
迷っていては折角クズ冒険者達を撒いたのにまた遭遇してしまうだろう。
困っているサラに助け舟を出す者が現れた。
「サラさん、こっちです!」
聞き覚えのある声がしたのでそちらに顔を向けるとイスティが手招きしていた。
サラはイスティの後についていきながら尋ねる。
「何故ここに?」
「サラさんが冒険者ギルドに向かったと聞きまして絶対何か起こすと思って外から様子を見ていたのです。流石に今の冒険者ギルドに飛び込む勇気はありませんでしたので」
そう言ったイスティの声はなんか嬉しそうだった。
「……誰が起こすと思ったのですか?」
「もちろん、クズ冒険者達ですよ」
イスティはまたも嬉しそうに答えた。
「それにしてもよく私の場所が分かりましたね」
「この辺りは何度も足を運んでいたのですよ。それで方向音痴のサラさんが迷っていそうな場所の見当をつけて来てみたらドンピシャだったというわけです」
「私は方向音痴ではありません」
「ははは。冗談とは余裕ですね。私が手助けする必要はなかったかもしれませんね」
「……」
サラは言いたいことがあったが今はクズ冒険者達が逃れるのが第一と考え言葉を飲み込みイスティの後に続く。
「ここです」
イスティが案内した場所は高級レストランの裏口だった。
店の個室を借りてクズ冒険者達が諦めるのを待つことにした。
クズ冒険者達を撒くことには成功したが彼らは諦めが悪く、彼らの喚く声が個室にまで響いてきた。
日が暮れ、外が静かになったのでサラは外に出た。
その際、イスティから変装用にマントを借りた。
まだサラを探しているクズ冒険者もいたが流石に数は少ない。
諦めた者もいるだろうが衛兵の姿があちこちに見えることも影響しているだろう。
彼らが街中で騒ぎまくったので衛兵が動員され街の見回りが強化されたのだ。
サラは知らなかったが何人かのクズ冒険者は衛兵に注意されたことに腹を立てて暴言を吐きまり、街の安全を脅かす危険人物と判断され牢屋に連行されていた。
もちろん、彼らは必死に抵抗し、その行動は無駄にはならなかった。
牢屋行きを逃れたと言うわけではなく、「俺は誇り高き冒険者だぞ!」と喚き、冒険者であることをアピールして冒険者の評判を落とすのに貢献したのだ。
(また冒険者ギルドは苦情をもらうわね。それにしてもあのクズ達の頭の弱さは尋常じゃないわね)
冒険者ギルド内での奇行もそうだが、サラを探している彼らはサラの顔も名前も知らないのだ。
服装を変えたサラを彼らはどうやって探すつもりなのだろうか。
クズ冒険者のそばを通り過ぎたが彼らが気づくことはなかった。
サラはイスティに説明された通りに進み、無事宿へたどり着くことができた。
宿屋の前にはクズと思われる者達があほ面晒して転がっていた。
更にサラの見ている目の前で宿屋からもう一人「ぐへ!?」と言う悲鳴とともに飛び出して来た。
ごろごろ地面を転がった彼もまたあほ面晒して気絶した。
彼が飛び出す際、宿屋の中からリムーバルバインダーらしきものがチラリと見えた。
「……またヴィヴィがやったわね。ほんと私と違って短気だから」
だが、サラの予想は外れていた。
宿屋から姿を現した魔装士はヴィヴィではなかった。
「ぐふ!これでわかっただろうがクズども!どっちが役立たずなのかな!」
更にもう一人魔装士が現れた。
「ぐふっふっふ。無駄無駄。クズども気絶してるぞ」
「ぐふ、この程度で気絶とかほんとにこいつらCラーーーーンク!冒険者なのか?」
魔装士の一人がクズ冒険者のマネをして言った。
明らかにバカにした話し方だがどこからも彼らを非難する声は聞こえない。
それどころか様子を見ていた者達から拍手が起こった。
魔装士達が手を上げて声援に応えていると誰かが呼んだのだろう、衛兵達がやって来た。
魔装士の一人があほ面晒して気絶したクズ冒険者達を指差す。
「ぐふ、無銭飲食に名誉毀損だ」
「またクズ冒険者か?」
「ぐふ、本人達はそう言っていたぞ。『俺らは埃まみれのクズ冒険者だぞ!』とな」
「そうか」
衛兵達はクズ冒険者達の武装を解除して縛り上げたところで彼らを叩き起こす。
クズ冒険者達は目覚めてすぐ「無実だ!」「俺らが被害者だ!」と訴える。
しかし、衛兵達は聞く耳持たずでクズ冒険者達を自分達の足で歩かせて連行していった。
衛兵達もクズ冒険者達に相当迷惑をかけられてストレスが溜まっていたのだろう、勝手に立ち止まり聞いてもいないのに偉そうな顔で言い訳を始めるクズ冒険者達を蹴りで黙らせて歩きを再開させた。
衛兵達がクズ冒険者達を雑な扱いするのを見てもサラは彼らに全く同情しなかった。
(クズを相手にすればあのような対応になるのは仕方がないわよね。誰もが私のように我慢強いわけじゃないもの)
サラはそんなことを思いながら宿へ入った。
当然、サラの心の声に突っ込む者はいなかった。




