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790話 クズ包囲網改を破れ!

「え?ばか?」


 それが会議室を出た直後、目の前に現れた光景を見たサラの第一声であった。

 クッズポーズをしたクズ冒険者達が左右に分かれて並び、自分達の体で壁を形成していた。

 一番奥でもクズ冒険者がクッズポーズで立ち塞がり、クズによって作られた道しか通る場所がなくこのままではギルドの外へ出ることはできない。

 ここまでであればこれまで数えきれない程のクズを見てきたサラには別段驚くべき光景ではなかった。

 問題はそのクズ冒険者達の上だ。

 なんと彼らの上で、肩に足を乗せたクズ冒険者達がクッズポーズで立っていたのだ。

 クズ冒険者達は前回、サラにクズ包囲網を飛び越えて突破されたことを反省し(いや、反省するとこそこじゃないだろ)、クズ壁を二段にして上空からの逃走を封じたのである!

 クズ壁と天井との隙間は狭くその間を抜けるのもそこまで飛び上がるのも難しい。

 いくら相手がクズとは言え、あまりにも常軌を逸した行動に思わず冒頭のセリフが出てしまったのである。

 しかし、当人達は異常行動とは思っていないようだった。


(彼らは一体いつからあの体勢で待っていたのかしら)


 少なくともサラがドアを開けた時には既にクズ壁はできていた。

 サラは彼らのために頭を使うのは馬鹿らしいとその疑問を早々に頭の中から追い出す。

 彼らがサラに向かって、


「力が必要か!?ならば俺らが貸してやろう!!」


 と全員が声を揃えて叫んだ。

 見事なハモりであった。

 喜劇を演じているようにしか見えないが本人達は至って本気であった。

 先程、クズ包囲網を易々と破って見せたサラの優れた身体能力とギルド上級職員が出迎えたことでクズ冒険者達はサラを優良株のDランク冒険者であると判断し、なんとしてでも自分達もその依頼に加わろうと考えていた。

 もちろん加わるだけだ。

 何もせず、いや、素晴らしいアドバイス(彼らの思い込み)を与えて依頼報酬を貰う気満々であった!

 彼らの自分達だけで依頼を受けたくない、楽して儲けたいという思いの強さが嫌でも伝わってくる。

 サラは改めてクズ壁を見つめる。

 子供が思いつきそうな作戦、例え思いついたとしてもマトモな者なら決して実行に移そうとはしない愚行をこれだけの数の大人が誇らしげな顔で実行している。

 サラはそんな彼らの異常思考に痺れて憧れた、

 なんてことは全くなく、呆れて軽蔑した。

 


 何故ギルド警備員がクズ冒険者達に好き勝手させているのか、という疑問はすぐ解けた。

 受付カウンターに目をやると受付嬢がテキパキと冒険者の依頼処理をしていた。

 どうやらクズ冒険者達が曲芸遊びをしているうちにマトモな冒険者達を招き入れて依頼処理をしているようだった。

 その誘導でギルド警備員達は手一杯だったのだ。

 サラはバイエル支部のギルド職員があまりにも不憫だったので協力のため時間稼ぎをすることにした。

 サラは彼らに向けて乾いた拍手をした。


「見事ですね」


 サラの嫌味は彼らには通じなかったようで「まあな!」と声を揃えて叫ぶ。

 その顔はとっても誇らしげだった。


(まるで曲技団みたい……!!そうよ!)


 サラはにっこり笑顔で彼らに転職を提案する。

 と言ってもその顔はフードで隠れて見えていなかったが。


「いっそのこと、冒険者をやめてあなた達で曲技団でもやったらどうですか」


 直後、

 

「ざけんな!俺らは誇り高き冒険者だぞ!そんな情けねえこと出来るか!」


 と滑稽な姿をしながらサラを怒鳴りつけた。

 全員で、である。


(どの面、いえ、どの格好して言うのかしら)


 もちろん、それを口に出すことはない。


「そんなに冒険者に未練があるならあなた達で組んで依頼を受けたらどうですか。そんなに息ぴったりなら連携もお手のものでしょう」


 サラの言葉を聞いて彼らは激怒した。


「馬鹿野郎!こんなクズどもと組めるか!」

「足手纏いはいらねえ!」


 どうやら彼らは自分達以外は客観的に見ることが出来るようであった。

 サラの言葉をきっかけに彼らの協力関係にヒビが入り互いに罵り合う。

 サラから見れば彼らの罵声は諸刃の剣なのだが、どういうわけか言う側も言われる側もノーダメージのようであった。

 いつまでも続くかに思われた罵り合いだが、それほど長くは続かなかった。

 サラが何かやったわけではない。

 ギルド警備員達が何かやったわけでもない。

 彼らが自滅したのだ。

 クズとはいえ冒険者の端くれなのでそれなりに体力はある。

 だが、その体勢を長時間維持するのは無理があった。

 更に罵り合いがヒートアップし、上に乗った者達が興奮して暴れだし、彼らを支える下の者達の負担が大きくなる。

 最初に崩れたのはヒョロいクズ冒険者だった。

 それを彼だけのせいにするのは酷だろう。

 なぜなら彼の上に乗っていたのは彼よりはるかに体重の重い太っちょクズ冒険者だったからだ。

 その組み合わせは上下逆にするべきだったのだ。

 そうしなかったのはそのクズパーティの力関係を優先したからだろう。

 それはともかく、そのヒョロいクズ冒険者が倒れかかるのを察して上に乗っていた太っちょクズ冒険者が咄嗟に左右に並んでいたクズ冒険者達を掴んだ。

 結果、掴まれた二人もバランスを崩した。

 それが連鎖を引き起こしてあっという間に片側のクズ壁が崩れた。

 クズ冒険者達は罵り合いをしながら再度クズ壁を形成しようとしたがサラはその隙を見逃さなかった。


(時間稼ぎは十分でしょう。この機会を逃すと力ずくになるかもしれないし)


 サラは崩れたクズ壁を易々と飛び越えた。


「待ちやがれ卑怯者!」


 クズ冒険者の一人がそう叫ぶのが背後で聞こえた。

 何が卑怯なのかはよくわからないが、確認しに戻ったりはしない。



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