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79話 周辺調査

「ナックの調査で大体の位置はわかったが、念のため自分達の目でも確かめる必要がある。とはいえ、迷宮探索も進めたいのでパーティを二つに別けることにした」


 ベルフィの意見に反対するものはいない。


「ではベルフィ、私達が現在地の確認に向かいます」

「ちょっと待てサラ」


 サラの提案にカリスが異議を唱える。


「はい?」


 サラはカリスが自分達、リサヴィについて行くと言うと思ったが、カリスはサラの想像を遥かに超えていた。


「確かに俺達二人でも大丈夫だと思うが、もう少し慎重に行動した方がいいんじゃないか?」


 カリスが笑顔でバカな事を言った。


「……はあ?」


 サラはしばらく沈黙の後、素で返事をする。

 それはサラだけではなかった。

 一番に口を開いたのはローズだった。

 

「あんた何バカ言い出すんだいっ!」

「落ち着けよ。探索に人数を割きたいのはわかるが現在地確認も重要だぞ」


 ただ一人、おかしな事を言った自覚のないカリスがローズを説得にかかるが、それが怒りに拍車をかける。

 

「あんた本当にどうしたんだいっ!?昔はここまでバカじゃなかっただろうっ!」

「誰がバカだ!」


 カリスが怒りを露わにしてローズを睨む。


「みんな落ち着け!」


 ベルフィの喝で、皆が口を閉じる。


「迷宮探索は俺達ウィンド、現在地確認はリサヴィに行ってもらう」


 それはサラが当初提案した通りで、カリス以外が思っていた構成だった。

 もちろん、カリスが黙っていない。


「ちょっと待てベルフィ!迷宮探索にはサラが必要だ。だよなサラ?」


 カリスがキメ顔でサラを見るが、

 

「私はベルフィと同意見です」


 と淡々と答える。


「いや、だが迷宮は危険なんだぞ!!」

「ぐふ。お前はサラと現在地確認に行く気だったではないか」

「黙れ棺桶持ち!!」

「おいおいカリス、リーダーの決定だそ。それにお前以外はみんな納得してるんだからさ」


 ナックがカリスを説得にかかる。


「だがなっ」

「お前さ、さっきリオのこと子供だって言ってたが、今を見ればお前の方が子供だぞ」

「くっ……」


 リオを引き合いに出され、カリスは沈黙し、リオを睨みつける。

 リオはその視線に気づき、「ん?」と首を傾げる。

 カリスがちっ、と舌打ちする。


「……わかったぜ。その代わりサラ!危険だと思ったらすぐに戻ってくるんだぞ!」

「はい」


 サラは無表情に頷く。


「よし、サラ達は現在地の確認が出来たら戻ってこい。予定の場所と違うようでも暗くなる前に報告に戻ってこい」

「わかりました」

「ぐふ。早く確認が終わった場合、お前達が戻るのをここで待っていればいいのか?」

「ああ。そうだ」

「わかりました。では行きましょうかリオ」

「わかった」


 こうしてウィンドとリサヴィは行動を開始した。

 サラは背中にカリスの視線を感じたが、振り返ることはなかった。


 

 ヴィヴィを先頭にリオ、そしてサラが進む。

 ヴィヴィが先頭なのは方向音痴ではないからだ。

 サラは不満ではあるものの、自分が方向音痴である事は認めないわけにはいかず、リオに至っては何も考えていないようだった。



 しばらく進むと森を抜け、砂漠が見えてきた。

 

「これが砂漠か」


 リオがぽつりと呟いた。


「リオも砂漠は初めてですか?」

「たぶん。サラも?」

「ええ。ヴィヴィは初めてではなさそうですね」

「……」


 ヴィヴィはサラの問いに答えず、リムーバルバインダーの一つをパージし、空高く上げる。

 

「あれ?ヴィヴィ、先に進まないの?」

「ぐふ」


 ヴィヴィはリオの質問にも答えず、上空でリムーバルバインダーをゆっくりと回転させ、内蔵された魔道具の目で周囲を確認する。

 ヴィヴィが前方やや左を指差した。


「ぐふ。この方向に進むと街道に出るな。概ねナックが言った通りの位置だ」

「そうなんだ。流石ナックだね」

「ぐふ。どこかの色ボケとは違うな」

「そうですね」

「ん?色ボケって?」


 リオが首を傾げるが答えるものはいなかった。


「砂漠は暑いと聞いていましたがそれほどではないですね」

「ぐふ」

「そうなんだ」

「……リオには温度の違いがわかりませんか?」

「うん、サッパリだね」

「そうですか。しかし、見渡す限り砂漠ですね。こんなところにぽつんと森があるなんて不思議な気がするわ」

「そうなんだ」

「ぐふ。この辺りはかつて大森林が広がっていたと伝えられている。しかし、暗黒大戦で砂漠になったそうだ。その名残かもしれんな」

「そうなんだ」

「詳しいですね」

「ぐふ。この程度の事誰でも知っている。それとも教団は寄付金集めに必死でそんなことも教えないのか?」

「失礼な!」


 二人が言い争いをしているとき、リオは砂漠を眺めていた。

 そしてはるか先で微かに動くものを見つけた。


「ヴィヴィ、砂漠の中になんかいるみたいだよ。あそこ」


 二人は言い争いをやめ、リオが指差す先を見た。

 

「私には何も見えませんが」

「……ぐふ」


 ヴィヴィがリムーバルバインダーをリオが示した場所へ向かわせる。


「リムーバルバインダーってあんな遠くまで飛ばせるんだね」


 リオの言う通り、リムーバルバインダーは今まで飛ばした事もないほど遠くまで進み、更に飛距離を伸ばす。


「……ぐふ。カルハン製魔装具はカルハン領内で能力がアップするという噂があったが、本当だったようだな」

「そうなんだ」

「……」


 サラはそんな話は聞いたことがないが、魔装具について詳しいわけではないのでヴィヴィの言葉が本当かわからない。

 だが、少なくともここではヴィヴィは今まで以上の力を発揮する事ができるのは確かだった。


 ヴィヴィはリムーバルバインダーの高度を下げ、地上から一メートルほど浮かせて移動させていた時だった。

 突然、砂が盛り上がったかと思うと巨大なミミズのような生物が砂漠の中から飛び出して大きな口を広げた。

 その口には無数の鋭い歯が並んでいた。

 その強大ミミズもどきの魔物はリムーバルバインダーを鳥か何かと思ったようだった。

 ヴィヴィは砂が盛り上がった瞬間にリムーバルバインダーを急上昇させたため、間一髪でその口を避ける事ができた。

 空振りに終わった巨大ミミズもどきは再び砂漠の中に姿を隠す。


「……ぐふ。サンドクリーナーだな」

「サンドクリーナー?」


 リオが首を傾げる。


「ぐふ。ああやって大きな口を開け、あらゆるモノを飲み込む。生物だけでなく、武器や防具などなんでもな。腹を割くと色々な物が出て来ることからトレジャービーイングと呼ぶものもいるな」

「なるほど。話には聞いた事がありましたがあれがそうなのですね。……遠くてよく見えませんが」


 サラの位置からでは砂漠の中から細長い何かが出現した事しかわからず、リオも同様で「そうだね」と言った。


「ぐふ。あまり話に出て来てはいないが、先の教団との戦いでも奴らは大活躍した事だろう」

「え?カルハンはあの魔物を使役できるのですか?」

「ぐふ。そこまでは知らん。だが、奴らの縄張りくらいは調査しているだろうからそこへ誘い込む事くらいは出来たのではないか」

「なるほど」

「そうなんだ」


 同じ教団に属するとはいえ、異端審問官にはいい感情を持っていないサラであったが、あのような魔物の餌になった者達には同情した。


「……って、ちょっと待って。では私達が帰るときあのサンドクリーナーの縄張りを通る事になるのではないですか?」

「ぐふ。かもな」


 サラはまさか自分達も異端審問官達と同じ目に会うとは思っていなかったので愕然としていると、「あ、そうか」と呑気な声が聞こえた。

 もちろんリオだ。


「ぐふ?」

「ヴィヴィが砂漠に入らなかったのはサンドクリーナーがいるかもしれないからなんだね」


 ヴィヴィの仮面が微かに上下した。


「ぐふ。念のためだったが本当にいるとはついてないな」

「でもここから結構離れてるよ」

「ぐふ。街道はあのサンドクリーナーがいる所よりももっと先だ」

「そうだった」


 サラはヴィヴィが言葉とは裏腹にそれほど困ったように見えなかった。


「ヴィヴィはサンドクリーナーの縄張りを抜ける方法を知っているのですか?」


 サラの問いにヴィヴィとリオが同時に答えた。


「ぐふ?倒せばいいではないか」

「倒せばいいんじゃない。宝物手に入るし」


 サラはしばし沈黙し、再び口を開く。


「確かにそうですが、結構大変じゃないですか?私の記憶ではサンドクリーナーはBランクの属する魔物だったはず。それに一体とは限らないでしょう?」

「ぐふ。そうだな」

「そうなんだ」

「ぐふ。まあ、サンドクリーナーが砂漠の中を移動できるのは地面が柔らかいところだけだ。流石に岩のように固いところは移動できないし、太陽の光が苦手だから日中は活動が鈍い」

「つまり、サンドクリーナーの縄張りを抜けるなら日中で、地面が固い場所を通れば安全という事ですね」

「ぐふ。そうだ」

「どちらにしても余力を残しておく必要があることだけはわかりましたね」

「ぐふ。では戻るか」

「ええ」

「わかった」



 洞窟へ戻る途中、来たときには目に入らなかった大人ほどの高さのある大きな花が前を塞いでいた。

 その少し前でヴィヴィは足を止める。


「あれ?ヴィヴィ道間違えた?」

「……」


 ヴィヴィは無言でじっとその花を見ていた。

 サラはそれがただの花ではない事に気づき、その花に近づこうとしたリオに叫ぶ。


「リオ!近づかないで!それは魔物です!」

「そうなんだ?」


 サラの言葉が理解出来たのか、奇襲に失敗した事を悟ったように植物の姿をした魔物、マトムエデが動き出す。

 花弁をリオ達に向け、花が開くと同時に花粉を撒き散らす。

 

「吸わないで!」


 サラの警告が飛ぶ。

 この花粉を吸い込むと体が痺れしばらく動けなくなるのだ。

 マトムエデにはおしべ、めしべの代わりに触手のようなものが複数生えており、それらがリオ達めがけて迫る。

 その触手は獲物を掴むと触手の先を突き刺し、体液を吸い取るのだ。

 ちなみに体液を搾り取った残りかすは新たな獲物を呼び寄せる餌となる。

 リオは花粉を避けることに成功したらしく、痺れる様子はなく迫る触手を斬り裂く。

 サラも剣を抜き触手を斬りまくる。

 そしてヴィヴィがリムーバルバインダーを宙高く上げ、一気に落下させてマトムエデ本体を押し潰した。


「変な魔物だったね」

「ぐふ」

「あれ一体だけとは思えません。慎重に進みましょう」

「わかった」

「ぐふ」



 しばらく進むとまたもマトムエデの姿が見えた。


「ヴィヴィ、迂回しましょう」


 サラがそう言った瞬間、その声に反応するようにマトムエデの身長が伸びた。

 いや、地中から足を出したのだ。

 その足はまるで根のような形をしていた。

 マトムエデがその足を器用に動かして走り、リオ達に迫る。


「地面に足が埋まってたんだ。さっきもああやって移動して来たんだね」

「そうですね。にしてもしつこいわね」

「ぐふ。久しぶりの食事なのかもな。面倒だ。片付けるぞ」

「ええ」

「わかった」


 リオ達は迫るマトムエデを返り討ちにするのだった。


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