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784話 実技試験

 冒険者ギルドの入会試験は筆記試験をパスした者のみ実技試験へ進めたが遺跡探索者ギルドは少し異なり、筆記試験の合否を知らせず続けて実技試験を行うことになっていた。

 これには理由が二つある。

 まず一つ目は筆記と実技共に合格点は定められているが、どちらかが多少劣っていてももう片方で補えるシステムになっているのだ。

 二つ目は筆記試験の採点に時間がかかることだ。

 冒険者ギルドのようにすべて選択問題であれば採点に時間がかからずすぐに結果を出すことができるが、遺跡探索者ギルドの問題はほとんどが解答を記述するもので採点に時間がかかるのである。



 少し休憩の後、サラ達は一つの部屋に集められた。

 入会試験会場として用意した部屋は三つあったが、試験開始前と途中で不合格が続出し、一部屋で収まる人数になったからだ。

 集まった受験者の顔を見回してから試験官が口を開いた。


「筆記試験お疲れ様でした」


 試験官は返事を期待していなかったが応える者達がいた。


「ホントだぜ!」

「あと、クズどもが騒ぎまくりやがって集中できなかったぜ!」

「だな!」


 彼らはサラ達と別の部屋で筆記試験を受けた者達だ。

 サラ達の姿を見て近づいて来るやいなや自慢話を始め気を引こうとするうざい者達であった。

 当然、サラ達は無視していた。

 試験官は彼らをチラリと見てから続ける。


「今から呼びます番号の方は前に出て来てください」


 試験官が読み上げた番号の中にはたった今退場したクズ達をバカにした者達も含まれていた。

 彼らが偉そうな態度で試験官の前にやって来た。


「では皆さんはドアのそばに立っている彼の指示に従ってください」

「おっ、実技は俺らが一番かよ!」

「そのようだな!」

「先に合格して待ってるぜ!」


 彼らはサラ達にキメ顔をし、格好をつけながらドアのそばに立っていたギルド職員の後に続いて部屋を出ていった。



 ところで、先程、筆記試験だけでは合否は決まらないと言ったが流石に限度がある。

 ほとんど空欄だったりパッと見ただけで間違いだらけだとわかるものは規則を守る気がないと判断され、実技を受けずして不合格となるのだ。

 サラ達はその後行われた実技試験で彼らの姿を見ることはなかった。

 つまり、そういうことである。



 実技試験は遺跡探索者ギルドの地下にある訓練場で行われる。

 試験内容はクラスで異なるので受験者はクラス毎に分かれることになる。

 試験の順番は受験番号順で行われ、サラ達は各クラスの最後であった。

 サラ達の後に入会試験を受ける者がいなかったのか、失格になった者達にいたのかは不明である。



 訓練場は実技試験のため他の者達は使用禁止となっていたが見学は自由だったので見学者がパラパラといた。

 一般人の立ち入りは禁止なので彼らは探索者や休憩中のギルド職員だ。

 暇つぶしに来ただけかもしれないがパーティメンバーを探している探索者もいるに違いない。

 実技試験の内容は冒険者ギルドのものとそう変わらない。

 ただ一つ、魔装士の試験を除いて、である。 

 既に何度も述べたがフェラン製のあらゆる機能をオミットした廉価版魔装具は魔装士の装備として認められていない。

 それは試験内容を見ても明らかだ。

 魔装士の実技試験はリムーバルバインダーの操作技術をテストするものであったからだ。

 とは言っても難しいことをするわけではない。

 指定した場所まで飛ばして戻す、という単純なものだ。


 

 実技試験だが、リサヴィの中では神官クラスで試験を受けたサラとアリスが最初に終了した。

 神官クラスで試験を受けたのが二人しかいなかったからだ。

 冒険者でさえなろうとうする神官が少ないのだ。

 マイナー、と言っていいだろう探索者になろうとする神官は更に少ない。

 ジュアス教団に限って言えば先のカルハンとの戦いもあり、カルハンから出資を受けている遺跡探索者ギルドに入会しようとするサラ達のほうが稀有な存在だった。

 サラは最後まで戦士クラスと神官クラスのどちらで受けるか悩んだが、下手にジュアス教団の神官であることを隠して密偵と勘違いされるのも面倒なので素直に神官クラスで受けることにした。

 アリスは特に悩む様子もなくサラに従っただけだ。

 実技の結果だが、言うまでもないだろう。



 サラ達はヴィヴィの試験の方がリオより早くまわってきそうだったのでヴィヴィの試験を見学することにした。

 魔装士の試験を受けている者が腕を組んで仁王立ちしたままぴくりとも動かない。

 そばには本来肩にマウントしているはずのリムーバルバインダーが転がっていた。

 彼が装備している魔装具はヴィヴィと同じタイプでその仮面に“遺跡探索者ギルド”と書かれていた。

 彼は魔装具を所持しておらずレンタルしたようだった。

 全く動かないので寝ているのでは、と思ったが微かに唸り声のようなものが聞こえたので寝ているわけではないようだ。

 痺れを切らした試験官がその魔装士に催促する。

 

「どうしました?後がつかえていますのですぐ始めて下さい。それともやはり扱えないのではないですか。リムーバルバインダーをマウントせずここまで抱えて運んできましたし」

「ぐ、ぐふ!そんなことはない!」


 その魔装士から焦り声が聞こえた。


「では一分以内に開始してください。できない場合は失格とします」

「ぐふ!?ちょ、ちょ待てよ!」


 魔装士が転がったリムーバルバインダーを突いたりするがぴくりとも動かない。

 ついには蹴り飛ばした。

 しかし、リムーバルバインダーは無傷で魔装士の方が悲鳴を上げて足を抱える。


「ぐふ!この魔装具故障してるぞ!?全く動かない!」

「そんなはずはありません」

「ぐふ!じゃあ、なんで動かねえんだ!?」

「あなたの魔力が足りないか設定がおかしいかのどちらかですね」

「ぐふ!じゃあ設定だ!設定を直せ!急げよ!」


 試験官は冷めた目で言った。

 

「それも試験のうちです」

「ぐふ!それくらいやってくれてもいいだろうが!」

「……あなた、本当に魔装士なのですか?」

「ぐふ!ったりめえだ!」

「偽魔装士だったのではないですか?」

「ぐ、ぐふ!んなーーー!!」


 図星だったのだろう。

 仮面で顔は見えないが思いっきり動揺しているようだった。

 おそらくクズによくある根拠のない自信でリムーバルバインダーを操作出来るはずだと一度も実物で試すことなく本番に挑んだのであろう。

 その魔装士はリムーバルバインダーを動かそうと必死に念じたがリムーバルバインダーはぴくりとも動かず時間切れとなった。

 彼は「ぐふ!この魔装具が悪いんだ!俺は悪くない!」と必死に抵抗したがギルド警備員に引きずられて退場した。

 ヴィヴィの番が来た。

 特筆することなく試験を終えた。



 最後にリオであるが、彼もまた特筆することなく試験を終えた。

 こうしてリサヴィの面々は遺跡探索者ギルドの入会試験を終えた。

 あとは結果を待つだけである。


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