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781話 探索者気取りのクズ

 一クズ去ってまた一クズ。

 そんな言葉はないが、サラ達が入会試験申込書のチェックを受付嬢が終えるのを待っていると隣の冒険者用の受付カウンターに並んでいる者達が声をかけてきた。

 もちろん、クズ冒険者達である。


「お前ら冒険者じゃないのかよ」

「傭兵か?」

「ならよ、お前らが探索者に合格したら冒険者であり探索者の先輩でもある俺らが胸揉み腰振り……じゃなくて手取り足取り教えてやるぜ!」

「「だな!」」


 今の言葉でわかるように声をかけて来た者達の下心は丸見えであった。

 それだけで十分なのだが彼らはまだ足りないと思ったようで体でも表現した。

 具体的には下半身の一部をもっこりさせ、鼻の下を思いっきり伸ばし性欲で満ち溢れた顔をサラ達に向けたのだ。

 嫌悪感しか湧かないのだが彼らはそのことに気づかない。

 彼らはもう探索者になった気でいるようであったがサラ達は全くそうは思わなかった。



 冒険者優遇制度は冒険者であれば誰でも利用できるわけではない。

 偽魔装士は無条件で弾かれるとして、受付カウンターで簡単な面接が行われる。

 これは主にその者の人柄を見るのが目的だ。

 ギルド職員がいくつか質問をし、優遇制度を利用するに値すると判断した者達のみに冒険者優遇制度用の入会申込書が渡される。

 その後、本番面接で先に記入した入会申込書を見ながら質問し、合格すれば探索者になれるのだ。

 本番面接で落とされた者は二度と優遇制度は利用出来ない。

 それでも探索者になりたい場合は一般の入会試験を受ける必要がある。

 対応するキルド職員の目が節穴でない限り、彼らが本番面接へ進めるとは思えなかったのだ。



 サラ達が彼らを無視すると彼らは激怒した。


「おいコラてめえ!」

「無視すんな!」


 彼らのちょっかいは長く続かなかった。

 ギルド警備員がやって来たからだ。

 その顔は険しく「いい加減にしろクズども!」と語っていた。

 クズ冒険者達は慌てて口を閉じるがギルド警備員達が彼らを見逃すことはなく厳重注意する。

 喧嘩を売っているように見えた。

 いや、実際、喧嘩を売っていた。

 ギルド警備員達は彼らクズ冒険者達に遺跡探索者ギルドへ入って欲しくないので向こうから手を出させ、それを口実に追い出そうとしているのだ。

 ……それだけでなく、単純にストレスを発散しているようにも見えたが。

 だが、クズ冒険者達は珍しく挑発に乗って来なかった。

 実は文盲のクズ達が必死に抵抗している時を同じくしてこの冒険者専用の受付カウンターでも別のクズ冒険者達が騒ぎを起こしていた。

 そのクズ冒険者達がギルド警備員達の挑発に乗り、武器を手にしたものの逆にボコられて外に叩き出されたのを直に見ていたからだ。

 彼らは同じ運命を辿るまいと卑屈な笑みを浮かべながら必死に抵抗する。

 ギルド警備員達の挑発にこめかみに怒りマークをいくつも浮かべながらも「探索者に絶対なってやる!」との決意は揺るがず必死に耐え抜いたのだった!

 しかし、努力は必ずしも報われるとは限らない。

 この時の彼らがそうだった。

 ギルド警備員達の度重なる挑発を必死に耐えた彼らであったが、サラ達の予想通り彼らもまた先のクズ冒険者達と同様に冒険者優遇制度は利用できないと判断されたのだ。

 ……まあ、彼らの行動を見ていれば彼らがクズ冒険者であることは明らかだったので結果は見るまでもなかったのが。



 受付嬢のチェックが終わった。

 隣のカウンターがうるさいが受付嬢は慣れているのか全く気にしていなかった。


「はい、皆さんこれで大丈夫です」


 受付嬢が試験日の空きを確認しながらサラ達に尋ねる。


「試験ですが最短ですと丁度明日が空いております。その後となりますと四日後となりますが如何なさいますか?」


 サラは全員の顔を見回してから答えた。


「では明日でお願いします」


 試験勉強の時間がなくて大丈夫か?と思うかもしれないが試験内容は冒険者ギルドと変わらない。

 一般常識があり、冒険者ギルドの規則を知っているサラ達は改めて試験勉強をする必要はないのだ。


「承知しました。それではこちらをお受け取りください」


 受付嬢から受験番号札を受け取りリオ達は遺跡探索者ギルドを出た。

 


 ギルドを出たところにあほ面晒して気絶したクズ冒険者達が転がっていた。

 他のメンバーの視線がサラに向けられる。


「……何故私を見るのですか?」

「ぐふ、一体誰が短気なのか」

「ですねっ」


 二人はサラに短気呼ばわりされたことをまだ根に持っていたのだ。


「何を言ってるのですかあなた達は!」


 イスティが会話に割り込む。


「え?これ、サラさんがやったのですか!?いつの間に!?」

「違います!ギルド警備員が彼らをボコっていたでしょうが!あなたもその場にいたではないですか!」

「すみません。私は文盲クズ達のことを書き留めるのに夢中でそれには気づきませんでした」


 そこに荷馬車が到着した。

 昨日、偽魔装士達を捨てに行った体格のガッチリした男が御者席から降りてくるとあほ面クズ冒険者達のそばにいたサラ達に顔を向ける。


「知り合いか?」

「違います」

「そいつは残念だ」

「残念とは?」


 イスティが興味深々の顔で男に尋ねる。


「知り合いなら引き取ってもらおうかと思ってな」

「そうですか。しかし、仮にそうだとしても彼らも街の外に捨てに行くつもりだったのでしょう?私達はまだ街から出る予定はありませんよ」

「そいつは残念だ」


 本当に残念だと思ったようで男は同じ言葉を繰り返した。

 男は乱暴にクズ冒険者達を荷馬車に積み込む。

 あまりに乱暴な扱いに途中で目覚めるのではと思ったが誰も目覚めることはなかった。

 スリープの魔法でもかけていたのかもしれない。

 全て積み終わり、彼が御者席に乗ろうとしたところで遺跡探索者ギルドのドアが開きギルド警備員が出てきた。


「おい待ってくれ!もうひと組追加があるかもしれない!」


 サラ達はその言葉を聞き、先ほどサラ達にちょっかいをかけてきたクズ冒険者達のことだと思った。

 男が渋い表情をして尋ねる。


「何人追加だ?」

「三人だ。全員Cランクらしい」

「Cか。そいつらは偽魔装士じゃないんだろ。流石の俺でも全員同時に向かってきたら厳しいぞ」

「じゃあ、そいつらを先に捨ててすぐ戻ってきてくれ!」

「いっそのこと外はやめて冒険者ギルドに放り込むか?」

「そうだな……」


 リサヴィはクズと関わりたくないので考え込む彼らを置いてその場から早足で離れた。

 が、イスティはその場に残り必死にメモを取っていた。


「捗ります!!」


 と無意識に叫びながら。



 この後、そのギルド警備員が言ったようにもうひと組がボコられて外に放り出された。

 サラ達に絡んできたクズ冒険者達だった。

 彼らクズ冒険者の愚行を理由に本日の冒険者優待制度を利用した探索者入会手続きは中止となった。

 いや、違った。

 今日だけでなく、当分の間、中止となった。

 クズ冒険者、恐るべし、である。



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