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780話 入会試験手続き その2

 申込書すら自分達で書けない彼らが筆記試験をパスできるはずがない。

 サラがその点を指摘する。


「仮にここで私が代筆したとして筆記試験はどうするつもりですか?」

「おう、そうか。筆記試験もあるのか」


 彼らは筆記試験があることを知らないようだった。

 サラが呆れていると彼らはキメ顔をして言った。


「じゃあそっちも頼むぜ!」

「「だな!!」」

「……」


 彼らは試験中も「手が離せない」と言って荷物を点検する(振りをする)つもりなのだろうか?

 そもそも試験がサラと同じ日で同じ部屋かもわからないのだが。


「……ダメだこりゃ」

「ですねっ」


 サラ達の会話を聞いていたアリスがサラに同意した。



 ところで、サラは彼らとヒソヒソ話をしているわけではない。

 今の会話は一般入会用の受付カウンターの受付嬢だけでなくギルド職員達にも聞こえていた。

 彼らは皆が見ている前でサラに「不正を手伝え」と言っていたのである。


(なんで文字の読み書きが出来ないのに探索者になれると思ったのかしら?まあ、仮に彼らが読み書き出来たとしてもこの頭の出来では筆記試験は合格できないでしょうけど)


 サラが考え込む姿を見た彼らは自分達の力を心配しているのだとまたも勘違いした。


「腕のことなら心配ないぜ!」

「は?」


 サラの「何言ってんのこいつ」と言う表情に気づかず自慢げに過去話を始めた。


「実はよ、俺ら元冒険者なんだ!」

「ちょっと訳あって辞めちまったからよ、冒険者優遇制度は利用出来ねえんだがな」


 そう言ったクズが照れて鼻の頭をかく。

 その訳は言わなくても明らかだ。

 彼らは文字の読み書きができない。

 いや、名前は書けたのだから正しくはほとんど出来ないと言うべきだろうか。

 ろくに文字の読み書きができない、文盲であることが明らかになり冒険者に不正合格したことがバレてクビになったのだ。

 つまり、彼らは冒険者を“辞めた“のではなく“辞めさせられた“のだ。

 サラはそのことを確かめようとはしなかった。

 それを明らかにしたところで意味はない。

 そもそも彼らは絶対認めないだろう。

 認めたとしてもその不正に加担したであろうギルド職員に全ての罪をなすりつけ自分達は被害者で何も悪くないと言い張るに違いない。

 サラは先ほどの疑問が解けた。

 何故文字の読み書きが出来ないのに探索者になれると思ったのか。

 それは冒険者になれたからだと。

 彼らが再び腕を組んで仁王立ちしキメ顔をしながら叫んだ。


「俺らの腕は確かだ!俺らが保証する!!」 


 しかし、どうしたことでしょう!?

 サラは全く信用しませんでした!

 サラは彼らのクッズポーズを無視して探索者になる以外の提案をする。


「そんなに腕に自信があるなら傭兵にでもなったらどうですか?冒険者や探索者と違って文字の読み書きは必須ではありません」


 サラの提案に文盲のクズ達は激怒した。


「ざけんな!」

「俺らをあんな頭の悪い脳筋と一緒にすんな!」

「俺らは頭脳派なんだよ!」


 その言葉にサラだけでなく聞き耳を立てていた者達もぽかん、と口を開ける。

 ギルド職員だけでなく、皆が見ている前で堂々と不正を行おうとしている彼らの一体どこが頭脳派なのだろうか。

 静寂の中でペンの走る音が響く。

 言うまでもなくリサヴィの後をくっついてきたイスティである。

 彼のペンはノリに乗っていた。


「やはり皆さんと一緒だと捗りますね!」


 何が捗るのかはわからないがサラはむかついた。



 文盲のクズ達は今のでサラが納得したと思ったらしく、再び荷物の点検をするフリを始めた。

 スタンバるクズ達をサラが呆れた顔で見ていると視線を感じた。

 一般入会用の受付カウンターの受付嬢だった。

 彼女が無言で手を差し出したのを見てサラは意図を理解し頷く。

 自分の入会試験申込書の上に乗せられた彼らの入会試験申込書を乱暴に掴むと受付カウンターに向かい受付嬢に渡した。

 サラが突然移動したのに気づいた文盲のクズ達はテーブルから自分達の入会試験申込書が消えているのを見て慌てる。


「おい!てめえ!俺らの申込書はどうした!?」

「提出しました」

「「「ざけんな!!」」」


 サラの返事を聞き、文盲のクズ達が激怒する。

 

「読み書きできない者は探索者にはなれませんよ」


 受付嬢が答えると文盲のクズ達の怒りがサラから受付嬢に移った。


「誰が読み書きできねえだ!?」

「俺らを馬鹿にすんじゃねえ!」

「だな!」


 サラが呆れた顔で言った。


「なら申込書を私に書かせようとしないで自分達で書きなさい」

「手が離せねえって言ってんだろうが!」


 彼らはそう叫ぶと再び荷物の点検をするフリをし、顔を上げて「なっ」という表情をする。

 その様子を見ていたヴィヴィが呟いた。


「ぐふ、またギャグか」

「ですねっ」

「捗ります!!」

「「「……」」」


 イスティはサラ達の冷たい視線に晒されてながらも手を休めることはなかった。



 文盲のクズ達のそばにギルド警備員達がやってきた。

 彼らはクズの相手をするために外に中にと大忙しである。

 文盲のクズ達はギルド警備員にその場で文字の読み書きをするよう言われるが「荷物の点検がある!」と訳のわからない言い訳をして必死に抵抗したが流石にこの状況を覆すことは不可能だった。

 文盲のクズ達は探索者の最低条件を満たさない、文字の読み書きが出来ないとして遺跡探索者ギルドを叩き出されたのだった。



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