778話 遺跡探索者ギルド前の行列
遺跡探索者ギルドの前にはすごい行列が出来ていた。
それは探索者になろうとする者達の列であった。
「すごい並んでいますねっ」
その列を見てアリスが驚きの声を上げた。
「どうやら、ぽ……イスティの言っていた通りのようですね」
その列に並んでいる冒険者であろう者達の多くがクズであることがわかった。
それはサラ達が数えきれないほどのクズを見てきた経験からわかったのではない。
いわゆるクッズポーズを取っていたからだ。
昨日、覆面劇作家ぽんぽんことイスティがここバイエルを“クズの最前線”と言っていた。
クズ冒険者達は落ち目の冒険者ギルドを見限り、探索者になろうと遺跡探索者ギルドに押し寄せているという。
特にカルハンに近いバイエルに集中しているとのことだった。
それをイスティは“クズの最前線”と呼んだのだ。
冒険者ギルドが落ち目になった原因は彼らクズ達の愚行にあるのだが、クズ達は自分達をクズだと思っていないので反省するどころか冒険者ギルドを責める始末であった。
クズ達のキメ顔は通行人に向けられていたが誰も目を合わせようとはしなかった。
サラ達がやってきた後は皆が一様にサラ達にキメ顔を向けてきた。
それはともかく、
サラ達の目の前で列に割り込みする者達がいた。
もちろん、クズである。
クズ達が行儀良く列に並ぶ方が珍しいのだ。
クズ達にとって割り込みは日常茶飯のことであり、割り込みされる方が悪いのである。
ただし、それはあくまでも割り込みする側のクズの言い分であり、された側のクズは一般常識を口にして抗議する。
当然のことながらが“おまいう”発言をしている事に気づかない。
だが、今回は場所が悪かった。
ギルド警備員が列を監視しているのだ。
隠れているわけではなく、誰にでもわかる位置に立っていた。
ギルド警備員達が見守る中で彼らは堂々と割り込みしたのである。
「おいクズ、割り込みするな」
「「「誰がクズだ!誰が!?」」」
割り込みしたクズ達が注意したギルド警備員を怒鳴りつける。
「お前達だお前達」
「「「ざけんな!!」」」
「お前達も昨日の偽魔装士達のように街の外に放り出されたいか」
「「「!!」」」
昨日、偽魔装士達が冒険者優遇制度を利用できないと知り入会カウンターに居座り抗議し続けた。
それを営業妨害と判断して彼らを“処理する“影響で、以降の入会手続きは中止となった。
そのため、今朝は昨日入会手続きが出来なかった者達も並んだためいつもより多くなっていた。
彼らも昨日その列に並んでいたので偽魔装士達がボコられるところを見ていた。
ギルド警備員の脅しにクズ達が一瞬ひるむ。
しかし、彼らはプライドだけはAランクに匹敵するのだ。
言われたままで引き下がるわけにはいかなかった。
彼らは意味不明な言動を繰り返し何を言われようと列から出て行こうとしなかった。
ギルド警備員は説得を諦め、ポケットから笛を取り出して吹いた。
たちまち、その場にギルド警備員達が集まってくる。
笛を吹いたギルド警備員がクズ達に言った。
「お前達の度重なる言動は探索者に相応しくない。試験を受けるまでもなく不合格だ。とっとと去れ。さもなくばギルドへの敵対行為として対処する!」
ギルド警備員達に囲まれてやっとクズ達は慌て出す。
「「「ちょ、ちょ待てよ!」」」
もちろん、ギルド警備員達は待たない。
必死に抵抗する彼らを怒りつけながら列から引きずり出した。
これで終わりではなかった。
彼らが退かされ空いた隙間に新たなクズ達が素早く割り込んで来たのだ。
彼らは今、目の前で割り込みを行った同類のクズが追い出されるのをその目で見ていた。
にも拘わらず何故そんなことをしたのか?
クズにも学習能力はもちろんある。
だが、これまで数えきれないほど割り込み行為を行った結果、その行為が体にすっかり染みつき、考えるより先に体が勝手に動いたのだ。
ギルド警備員達が「またか」と言うような表情で割り込みを行い、平然としているクズ達に向かって行った。
「ぐふ、ギャグか」
新たな割り込みクズ達と対峙しているギルド警備員達を見ながらヴィヴィがつぶやいた。
「そうですね」
「ですねっ」
「本当に」
最後の言葉はイスティだった。
彼はいつの間にかリサヴィのそばにおり、今のクズ達の行動を笑みを浮かべながらメモを取っていた。
ちなみにイスティは探索者ブーム?が起きる前に探索者になっていた。
リオ達はその列に並ばず様子を見ていた。
「全然っ列が進みませんねっ」
「そうですね」
「ぐふ、無理に探索者になる必要はないし、冒険者ギルドでも情報を得られるのではないか?」
「そうですね。どうしますかリオ。冒険者ギルドに行って……」
「行かない」
「……そうですか」
リオの冒険者ギルドに対する嫌悪は以前より強くなっているようだった。
その理由はさっぱりわからない。
そこへメモを取り終えたイスティが声をかけてきた。
「あの、もしかして皆さんはクズ達の見定めをしていたのではないのですか?」
「違います」
「ぐふ、何故そう思った?」
「ですねっ」
「何故って、皆さんはクズ抹殺の旅……」
「それは違うと言いました」
「建前ですよね?」
「「「……」」」
イスティはリオを除く三人に睨まれて察した。
(なるほど。ここは人目があり過ぎでしたね)
イスティはサラ達の表向きの目的(本当の目的なのだが)に話を合わせる。
「一般手続きで探索者になるのでしたらそんなに時間はかからないと思いますよ」
「え?それはどういう意味ですか?」
「彼らは冒険者優遇制度を用いる冒険者専用のカウンターに並んでいるんです。制度を利用しないのであればそちらのカウンターはガラガラですよ」
「そうなんですかっ?」
「はい。入ってみればわかりますよ」
「では入ってみますか」
「ああ」




