表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
777/862

777話 イスティの悩み

 リオ達がバイエルにやって来たのはカルハンへ向かう通り道にあり、遺跡探索者ギルドもあるからだ。

 ここでカルハン国内の情報収集、特にナンバーズを飲み込んだサンドクリーナーに関する情報を集めるのが目的だ。

 カルハン各地に大小いくつもの砂漠が存在し、厄介な事にサンドクリーナーは地中を移動してそれらの砂漠を自由に行き来出来るといわれている。

 サンドクリーナーと遭遇した場所の大まかな位置はヴィヴィが覚えていたがあれから一年以上経っており、今もその辺りにいるとは限らないし、既に誰かが討伐している可能性もある。

 カルハンに向かう前にその確認は必須であった。



 リオ達がバイエルに到着したのは夕方だったので遺跡探索者ギルドへ向かうのは明日として宿探しをすることにした。

 街の中でいくつものパーティを見かけたが、他の街とは明らかに違う点が一つあった。

 そのことをアリスが口にする。


「なんかっ、魔装士が多いですねっ」

「そうですね。それも“普通”の魔装士が」


 サラがわざわざ“普通”と付け加えたのは偽魔装士と区別するためだ。


「ぐふ、おそらく彼らは探索者なのだろう」


 ヴィヴィの言う通りであった。

 “普通“の魔装士の数は冒険者より探索者の方が圧倒的に多い。

 なんなら魔装士だけのパーティも存在するほどだ。

 そのようなパーティの魔装士は魔術士でもあることが多く、皆が盾役と攻撃役を兼任出来る。

 神官と盗賊(移籍探索者ギルドでは本物の盗賊と紛らわしいのでクラス名をスカウトに変えている)がいないがそれも魔法で補うのだ。

 カルハン人は生まれながらに魔力が高いこともあり、大半の者達が


「(詠唱)魔法こそ最強!」


 と信じている。



 リオ達が宿屋の一階で食事をしていると声をかけられた。

 

「久しぶりですね!リ……皆さん!」


 それは覆面劇作家のぽんぽんことイスティであった。


「久しぶりぶりですね。その、仕事ですか?」


 サラも気を利かして取材という言葉を伏せた。


「ええ。そんなところです」


 イスティが真剣な表情をして言った。


「ここで会えてちょうど良かったです。実は皆さんにご相談したいことがあったのです」

「どうしますか?」


 サラの問いにリオはどうでもいいように言った。


「どうでもいい」



 その夜、イスティがリサヴィの泊まる部屋にやってきた。

 部屋を見回してイスティが感想を述べる。


「質素ですね。皆さんならもっといい宿屋、と言ってはこの宿に失礼ですがもっとランクの高い宿に泊まれると思うのですが」


 サラが代表して答える。


「私達はそういうのはあまり気にしていません。とはいえ、流石にどこでもいいというわけではありませよ」

「なるほど」



イスティが本題に入る。


「実は最近、クズ冒険者が私を探していると言う話をよく聞くんです」

「はあ」

「ぐふ」

「彼らが私を探す理由は一つしか思い浮かびません」


 イスティはそこで一旦言葉を切り、リサヴィを見回してから言葉を続けた。


「それは私がクズを題材にした劇を作ろうとしているのがどこかから漏れたからではないかと疑っているのです」

「わたし達はっそんな事してませんよっ」

「ぐふぐふ」

「というか、その話、本当に作ってたのですか?」

「ええ。そのためにクズの最前線となっているここバイエルまでやって来たのです」

「最前線って」

「もちろん、皆さんもですよね?」


 イスティが確信を持って尋ねる。


「もちろん、違います」


 サラが即否定したがイスティは信じていないようだった。


「もちろん、皆さんを疑ってはいるわけではないですよ」


 そう言いつつもじっとリサヴィを見つめるイスティ。


「でもっ本当は疑ってるんですねっ?」

「いやあ」

「褒めてませんよっ」


 サラが揶揄うように言った。


「私達に絡んでくるクズの中には茶番劇を見せに来る者達がいます。その者達があなたの感想を聞きたいのではないですか?」


 イスティが厳しい表情をする。


「……感想ですか。実は私も彼らの茶番劇を直接見たことがあるのですがひどい脚本です」

「でしょうね」

「しかも、彼らの大根役者ぶりには呆れ果てて言葉が出ません。自分達は感動的でお涙頂戴できると思っているようですが、その演技が下手過ぎて喜劇にしか見えません」

「そうですね」


 サラがイスティの意見に同意し、アリスもうんうん、と頷く。


「ぐふ。では、喜劇役者として使えるのではないか?」


 ヴィヴィの言葉にイスティがムッとした顔をして反論する。


「ヴィヴィさん!あなたは演劇を甘く見過ぎです!役者全員に対して失礼です!」

「ぐふ、それは済まなかったな」


 ヴィヴィも今の発言は失礼だと思ったようで素直に謝罪した。


「わかってくれればいいんです。ただ、彼らのすべてがダメというわけでもありません」

「ぐふ?」

「そうなんですかっ?」

「私には救いようがないと思っていましたが」


 イスティが小さく首を横に振ってから言った。


「彼らの唯一評価できる点、それは怒りを露わにして怒鳴っているところです!」

「「「……」」」

「まさにクズ、と呼ばれるにふさわしい、一般人には到底理解できない論理を展開して話しているところはとても真に迫っていました!とても演技とは思えませんでした!」

「でしょうね」

「ぐふ、そこは演技ではない」

「ですねっ」



 クズ冒険者達がぽんぽんを探している理由だがイスティの読みは当たっていた。

 原因はリサヴィにあった。

 正しくはサラにである。

 サラが以前、クズに向かって不用意にも「そんなに自信があるならぽんぽんにでも見せなさい」と言ったことが発端だったのである!

 サラ当人はそのことをすっかり忘れていたのある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ