774話 勇者への道 その2
フォトトナがギルマスの真意を確認する。
「私達にはこのギルドの依頼に専念して欲しい、ということでしょうか?」
「そうだ。フルモロ大迷宮の依頼は期間が長過ぎる。今のこの状況でお前達のように実力があり、そして信頼できる冒険者に長期間離れられては困るのだ」
グースが尋ねる。
「他のギルドはどうなんだ?」
「どこも同様の動きを見せている。自分のギルド所属にクズがいてそいつらが問題を起こしたならまだしも他のギルド所属のクズがやったことで信用を落とされるのは我慢できないからな」
グースが納得顔で言った。
「自分達のところのクズは自分達のところで管理しろということか」
「そういうことだ」
ジットが尋ねる。
「さっき他のギルドも同様の動きを見せてるって言ってたけどさ。ボクらAランクだけど、それでも他のギルドで依頼を受けようとしたらそういう制限を受けるのかな?」
「わからん。今回の制限はギルドの規則にあるわけではなく各支部独自のルールだからな。ギルドによって対応が違うとしか言えない。クズによる被害の大きさもギルドによって様々だから酷い目に遭ったギルドではAランクとはいえ拒否される可能性は否定できない」
「オレ達がフルモロに潜っている間にギルドはそんなに信用を失ってたのか……」
ジットが嫌な雰囲気を吹き飛ばそうと陽気に言った。
「ボクはギルマスの提案を受けてもいいと思うよ。もともとフルモロに行こうとしてたのはフルーダにラグナを身に付けさせるためだったんだからさ」
「確かにな」
「ええ、そうですね」
「オレも皆が反対しないならそれでいい」
フォトトナがギルマスに今後のことについて尋ねる。
「それで私達は何をすればいいのですか?」
「しばらくは護衛任務を優先的に引き受けてもらいたい」
「護衛任務ね。確かにランクさえ満たしていればいい依頼じゃないね」
「そうだ。今後、重要な依頼は我がギルド所属冒険者に限定にし、誰にも迷惑をかけないような依頼のみ他ギルド所属の冒険者も受けられるよう職員には指示を出している。準備出来次第実施することになる」
こうして破壊の剣のフルモロ大迷宮攻略は中止となった。
ホームに戻り、一段落してからグースがフルーダにラグナが発現した時のことを尋ねる。
「お前のラグナの目覚め方はグエンとは違うみたいに見えたぞ。グエンは絶望しながらも死に抗い続けることでラグナに目覚めたと言っていたがお前はどうだったんだ?」
「確かに死の危険は全くなかったよね」
フルーダはその時のことを思い出しながら答える。
「……そうだな。あの時のオレは同期の情けなさに、そしてクズっぷりに失望、怒り、憎しみ、いろんな感情が渦巻いていたと思うが絶望はなかったと思う」
フォトトナが考えながら言った。
「どのようなものにせよ、激しい感情がラグナに目覚めるキッカケになるのかもしれません」
「そうだな」
ジットが陽気に言った。
「ま、あとは技を磨くだけだね」
「そうだな」
グースが興味深々の顔で言った。
「フルーダ、ちょっと見せてくれよ」
「見せろってラグナをか?」
「他に何があるんだ?」
「まあ、そうだな」
「待ってください。やるなら庭にしましょう」
「ああ、そうだな。使えるようになったばかりだし、制御に失敗して物を壊されても困るな」
「信用ないな」
フルーダは苦笑しながら言った。
この時のフルーダはまだ余裕があった。
皆が庭に出て五分ほど経った。
フルーダは剣を構えたまま厳しい表情をしていた。
「どうしました?」
フォトトナの問いにフルーダが微妙な笑みを浮かべながら言った。
「……出せないんだ」
「はい?」
「ラグナの出し方がわからない」
皆の沈黙がフルーダを責める。
フルーダがその沈黙に耐え切れず必死に言い訳を始める。
「いや、突然出ただろ!?どうやって出したのかよくわからないんだ!」
「庭に出るまでは自信満々だったけど?」
「剣を手にすれば出せると思ったんだ!」
「グエンは一度で使えるようになったみたいだぞ」
「悪かったな!オレは天才じゃないんだよ!」
フォトトナが優しい笑顔をフルーダに向けて言った。
「まあ、いいではないですか。ラグナを使えたのは事実なのですから着実に勇者へ“半歩“近づいたのは事実です」
「流石フォトトナ!わかってくれると思ってたぜ!……ん?あれ?半歩?なんか前より後退してないか?」
フルーダの疑問にすぐさまツッコミが入る。
「忘れてんだから当然だろ」
「だよね」
「厳しいなあ。そこは一歩のままでいいんじゃないか」
残念ながらフルーダの味方は一人もいなかった。




