773話 勇者への道 その1
輝きが消え元に戻った刀身を眺めるフルーダにフォトトナが声をかける。
「おめでとうございますフルーダ。ラグナに目覚めたようですね」
「ああ。それがこのクズ二人のおかげだと思うとなんか複雑だがな」
そこへジットが声をかける
「ほんと複雑だよね。フルーダの愚行があったからラグナを身につけることが出来たんだから」
「確かにそうだな。結果だけ見ればお前の愚行は無駄じゃなかったことになる」
「……あんま愚行愚行言うなよ」
「ともかくこれであなたは勇者へと一歩近づきました」
「ああ」
決闘の後処理をするために雇った者達がやってきた。
彼らは淡々とクズの死体を使い古しの安物の布に包んで荷台に乗せる。
彼らの死体は街の外にある無名墓地に葬られることになる。
彼らの故郷はここではないし、運んだところで引取り手がいないかもしれない。
それにそもそもそこまでやってやる義理もない。
これでも他のメンバーに比べたら格段待遇がいいほうだ。
クズリーダー他一人はガルザヘッサに森の中に運ばれた。
食い散らかされた死体は森の養分となって消え、発見されることもないだろう。
発見されたとしても誰かわからないだろう。
フルーダがかつての同期の亡骸を積んだ荷馬車を見送る。
感情が収まるとやりきれない気持ちが込み上げてきた。
かつて共に冒険者を目指した彼らをこの手にかけることになるとは夢にも思わなかった。
(本当に他に手はなかったのか?殺さなくてもよかったのではないか?)
そんな思いが込み上げ苦しい表情をするフルーダ。
そんな彼の心情を読み取ったかのようにグースが言った。
「奴らが決闘相手にお前を選んだんだ。デッドオアアライブだとわかっていてお前を指定したんだ」
「ああ」
フォトトナが続く。
「決闘は必須ではありませんでした。彼らが私達に二度と関わらない。そう約束して去っていけばよかったのです。ですが、それを彼ら自身が拒否した。選ばなかったのです」
「わかっている」
ジットも続く。
「それに今後のことを考えればここで彼らと決闘してよかったと思う」
「どういう意味だ?」
「ボクらを騙したクズ達を自らの手で処罰することでボクらが彼らの仲間じゃないとはっきりさせることができたと思う」
ジットは誰に対してとは具体的に言わなかったがその相手がリサヴィ派であることは明らかだ。
「それはそうだが」
フォトトナがフルーダの目を見ながら言った。
「フルーダ。あなたはすべきことをしただけです。何も悔やむことはありません」
フルーダは彼らの言葉で気持ちが少し楽になった。
「ありがとうみんな」
その場へギルド職員がやってきた。
今の決闘のことで来たのかと思ったがそれだけではなかった。
ギルマスが話があるとのことだった。
用件についてはすぐに予想がついた。
「リサヴィと揉めた件だな」
「行きたくないなあ」
ジットが言葉だけでなく、表情にも出して言った。
「そういうわけにも行かないでしょう。それにギルドにはもともと行く予定でしたし」
「わかってるよ」
「すまない」
破壊の剣のメンバーは冒険者ギルドに到着後、ギルド職員に連れられてギルマスの執務室に向かった。
ギルマスの用件だが彼らの予想は半分当たっていた。
彼らは席につくや否やリサヴィと揉めたことで怒られた。
「まさか、Aランク昇格祝いをしてすぐに叱ることになるとは思わなかったぞ」
「本当に申し訳ありませんでした」
「フォトトナが謝ることじゃない!オレが軽率だったんだ!本当に申し訳ありませんでした」
ギルマスは渋い顔をして言った。
「済んでしまったことをこれ以上言うつもりはない。今後は慎重に行動してくれ。お前達はうちの数少ないAランク冒険者なのだから」
「はい」
「ああ」
「わかってるよ」
「もう二度とあんな軽率なことはしない!」
ギルマスが真剣な表情になった。
「ここからが本題だ」
「え?小言が本題じゃなかったの?」
思わずジットがそう口にする。
「違う」
ギルマスはそう即答してから尋ねる。
「お前達、今後の予定は決まっているか?」
「フルモロの依頼を受けるつもりです」
「そうか」
そう言った後、少し間を空けてから言った。
「それは中止にしてほしい」
「なに!?」
皆が驚く表情を見ながらギルマスが理由を述べる。
「お前達はついさっき身をもって知っただろうが、いや、そもそもリサヴィと揉める原因を作ったのもそうだったが、クズ冒険者、あるいは追放された元冒険者のクズが各地で暴れ回って大きな問題になっている」
「「「「!!」」」」
「もちろん、これまでもそういう者達はいたが今は数が尋常ではないのだ。冒険者ギルドの信頼が揺らぐほどにな」
「ゴンダスの野郎だな」
グースの言葉にギルマスは渋い顔をしながら頷く。
「知っていたなら話は早い。ゴンダスによって洗脳された冒険者はCランク以下がほとんどだが一般人には十分脅威だ」
ギルマスの言う通りだ。
フルーダが瞬殺した同期のクズ達も元はCランク冒険者。
一般人が真正面から戦いを挑んで勝てる相手ではない。
「クズとなった彼らにかけられた洗脳は強力で解く手段がない。そして、誰が洗脳されているのかわからない状態だ」




