768話 彼らの辞書に“恥”という文字はない
冒険者ギルドへ向かう破壊の剣を見てくすくす笑う者や「よっ、クズの剣」と露骨にバカにする者達がいた。
昨日の出来事は街中に広がっているようだった。
彼らをバカにした者達の大半はクズ冒険者である。
彼らは人を貶めるのが大好きである。
ランク絶対主義者の彼らであっても弱みがある者には例外が適用されるのである!
「これは前衛募集は難しくなったかな」
彼らがフルモロ大迷宮攻略をして実感したのは前衛不足だった。
魔術士のジットは完全な後衛だ。
神官のフォトトナは前衛をこなせなくはないが難易度の高いダンジョン、迷宮で前衛を務めるのは厳しい。
実際、フルモロの深層では苦戦した。
盗賊のグースも前衛をこなせるが迷宮内での盗賊は色々やることがあり、負担が大きくなる。
幸い、前回は他のパーティと一緒に行動していたのでお互いにカバーすることができたが毎回期待できることではない。
彼らは冒険者ギルドに戦士クラスの募集を出していたが昨日の件でケチがついたのであまり期待できそうになかった。
「すまない」
「まあ、いいさ。ここでダメでもフルモロに着くまでに見つかるかもしれないしな」
「そうですね」
「だね」
彼らの前方で腕を組んで仁王立ちし、キメ顔を向ける者達がいた。
その者達の姿を見て破壊に剣のメンバーは唖然とした。
その者達はどさくさ紛れにあの場から姿を消したフルーダの冒険者養成学校の同期である元冒険者のクズ達であった。
彼らにはフルーダを騙し破壊の剣を危機に陥れた自覚が全くないようでとても堂々とした態度だった。
彼らの辞書には“恥“と言う言葉が欠落しているのだろう。
元戦士のクズが笑いながら話しかけてきた。
「いやあ、昨日はお互い災難だったな」
「「「「!!」」」」
フルーダが何か言う前にグースが前に出て「お前は黙ってろ」と手で合図してから彼らに話しかける。
「お互い、だと?」
「おう!悪かったな。フルーダが暴走しちまってよ!」
「まさか俺らの話を誤解してリサヴィに喧嘩売るなんて思わなかったぜ」
「だな!」
「なんだとー!?」
フルーダが怒りを露わに元冒険者のクズ達に向かって行こうとするのをフォトトナが腕を掴んで止めて耳元で囁く。
「罰ゲーム」
「!!」
「ここはグースに任せよう」
ジットの言葉もあり、フルーダはなんとか怒りを抑え込む。
そんなフルーダを気にすることなく元冒険者のクズ達は話を続ける。
「誤解させた点だけは俺らも悪かったと思ってる」
「バカだとは思ってたがそこまでとは思ってなくてよ」
「そんなわけでよ、俺らだけでなくフルーダも許してやってくれよ」
「俺らに免じてよ」
「よしっ、決まったな!」
「お前達は許さん」
グースが即答するも彼らは本気だとは思わなかったようだ。
「はははっ。そう言ってやるなって」
何故か他人事だった。
クズ冒険者はCランク以下に集中しており、ランク絶対主義者の彼らは自分達より上のランクの者達に寄生しようとは考えない。
そのため破壊の剣はこれまでクズ達と深く関わった事はなかった。
フルーダを除く破壊の剣のメンバーはクズ冒険者(彼らはもう冒険者ではないが)と直接会話するのはこれが初めてだった。
あの場ではちょっかいかけている相手がリサヴィだと知り、「げっ!?リサヴィ!?」と発して以降、あほ面晒してクッズポーズのまま固まって一言も発しなかったからだ。
グースが渋い顔をしながら言った。
「リオが激怒したのがわかったぜ。こんなのと同類扱いされたら俺だって激怒するぞ」
「ああ。本当にすまない」
フルーダ自身もそう思いながらそのクズ達の嘘に騙された自責の念に駆られて再び謝罪する。
その謝罪に真っ先に応えたのは破壊の剣のメンバーではなかった。
「いいってことよ。もう済んだことだしな!」
「だな!」
何故か元冒険者のクズ達が返事したのだった。
破壊の剣のメンバーから「何故お前達が返事する?」と責める視線を受けて彼らは自分達“にも“責任があることを認めた。
「いや、フルーダだけが悪いわけじゃないのはわかってるぜ。俺らがもっとわかりやすく説明すればよかったんだ」
「今回の件はよ、みんながちょっとずつ誤解してあんな大げさなことになっちまっただけなんだ」
彼らの話を聞いてグースが呆れた顔をしながら尋ねる。
「お前達がクズ行為を誤魔化し、全てをリサヴィのせいにしたことに誤解があるのか?」
「ああ、そうだ」
彼らは罪悪感ゼロの顔で偉そうに頷いた。
「じゃあその誤解ってやつを説明してくれ」
「まあそう言ってやるなって」
彼らは一体どの立場からものを言っているのだろうか?
首を傾げる破壊の剣のメンバーをよそに元冒険者のクズ達は続ける。
「もう済んだことをよ、ぐだぐだ言ってもしょうがねえだろ。フルーダも反省してることだしよ」
彼らは誤解の詳細を説明できないのでフルーダの暴走に巻き込まれた被害者面をして有耶無耶にしようとする。
何故かそれで説得できると本気で思っているようだった。
「グースに任せよう」と言ったジットであるが我慢できず思わず口を開く。
「やばいよ。フルーダにキレるなと言った手前我慢してたけどさ、流石にボクもキレそうになってきた」
その言葉を聞いたグースがジットに言った。
「落ち着け。それは俺も同じだがここは街中だぞ。決闘でもなければ相手がクズとはいえ、ボコれば俺達も罪に問われる」
グースは平常心を保つのに必死になりながら元冒険者のクズ達に言った。
「どうやら謝罪に来たようではないみたいだな。俺達が我慢の限界を超える前に去れ」
しかし、彼らは去らなかった。
それどころか破壊の剣のメンバーの怒りの炎に薪をポイポイ放り込む。
「そう言ってやるなって。クズと誤解された者同士じゃないか」
「だな」
思わず飛び出しそうになったグースに「抑えて!」と叫ぶフォトトナ。
それでグースはなんとか踏み止まった。
「お前達がクズなのは誤解じゃないぞ」
「ははは。そう言ってやるなって」
元冒険者のクズ達は何故かグースの言葉を冗談か何かと思って信じなかった。




