765話 破壊の剣の反省会 その1
フルーダは家に着くと再び皆に頭を下げて謝罪した後、思いを吐き出し始める。
それをメンバーは黙って聞いていた。
「オレはAランクに上がって調子に乗っていた。あいつらのことを知っていたから信用したのもあるが、頼られるのがとても気持ちよかったんだ。冒険者養成学校の時にはあいつらより成績が下だったから優越感もあったと思う。でもまさかあいつらがクズになっているなんて考えもしなかった」
ジットが以前の話を思い出しながら言った。
「そう言えば前にグース言ってたよね。真面目だった冒険者がクズ化してるって」
グースが「ああ」と言って頷く。
「そのことで俺も謝らなくてはならないことがある」
グースがそう言って続ける。
「実は無能のギルマスがクズ冒険者を生み出してるって情報を掴んでたんだ」
「無能のギルマス!?マルコの元ギルマスのゴンダスか!」
「そうだ。すぐに話せばよかったんだが急ぎじゃないと判断して後回しにしちまってた」
「気にすることはありません」
「ああ、すべてはオレが愚かだったからだ」
「そうそうグースが気にすることはないよ。それよりその話、詳しく話してよ」
「ああ」
グースはゴンダスが冒険者ギルド主催と偽ったセミナーに依頼に失敗続きの者達や冒険者としてやっていけるか不安に思っている者達を集めてクズに洗脳していることを話す。
その洗脳には魔の領域でのみ採取できる洗脳するのに最適な禁止薬物が使用されていることを話したところでフォトトナが厳しい表情をしながら言った。
「あの禁止薬物は本当に非常に危険なものです」
フォトトナにジットが頷いて続く。
「カルハンの宮廷魔術士筆頭にして治療魔術の第一人者のギャブレット大魔術士が『あれは一生治らん』と匙を投げたほどだからね」
「神聖魔法でもダメなのか?治療魔法は神聖魔法の方が上なんだろ?」
「初期段階であればまだ治療可能ですが、それを過ぎると洗脳された人格なのか元からの人格なのか見分けがつかなくなるのです」
「そういうものなのか」
フルーダが怒りでテーブルを強く叩く。
「ゴンダスの野郎!冒険者ギルドを追放された逆恨みかよ!ふざけやがって!」
「でもちょっとおかしくない?そもそもゴンダスはギルドの牢屋にいるんじゃなかったっけ?」
「いや、ギルドにはいない。マルコの領主が取り調べるとか言って連れていったんだがそこから脱走したらしい」
「脱走って、他に協力者がいるんじゃない?ゴンダスって脳筋冒険者だったはずだし洗脳って柄じゃないよね」
「ああ、ボコって言うことを聞かせるほうが奴らしい」
「恨みを晴らすにしても冒険者集めてセミナー開催って費用半端ないと思うよ。今の話じゃ集めた冒険者達が金を持ってるとも思えないしどうやってるんだろ?」
「パトロンがいるのでしょうね」
そこで皆の頭の中に真っ先に浮かんだのは冒険者ギルドのライバル組織である遺跡探索者ギルドだ。
その考えをフルーダ以外がすぐに捨てたが、フルーダは自信を持って言葉にした。
「遺跡探索者ギルドじゃないのか。あそこにはカルハンが出資してる。それに冒険者ギルドと協力関係にあるジュアス教団とも仲が悪いし同時にダメージを与えられる!」
「仲が悪い」は控えめな表現だ。
カルハン魔法王国は当時の第六神殿の神殿長の言いがかりを端に発した、教団の一部門である異端審問機関との戦いに勝利した後、国内にあった第六神殿をはじめ国内すべての教会を閉鎖し、ジュアス教の布教を禁止した。
教団上層部が和解に動いているが今のところ進展はない。
カルハン国内には元からジュアス教徒が少なかった。
にも拘らず国政に口出ししようとするジュアス教団は邪魔以外の何ものでもなく、以前から排除しようと機会を狙っていたとも噂される。
ここまで強固な行動に出られるのは以前に自国に現れた魔王を勇者の力を借りずに倒したことが大きい。
カルハンは勇者を必要としていないのである。
ちょっと自慢げなフルーダだが、その考えをフォトトナは否定する。
「流石にそこまではしないでしょう。する理由がわかりません」
「理由ならあるだろ。冒険者ギルドの信用を落として遺跡探索者ギルドの力を大陸中に広げようとしてるんじゃないか?オッフルに支部を作るって話もあっただろ」
フォトトナがため息をつく。
それでフルーダは自分は相当バカな発言をしてしまったらしいと気づくが理由が思い当たらない。
フォトトナがそんなフルーダのために説明をする。
「遺跡探索者ギルドと冒険者ギルドでは規模が違いすぎますし、あなたが言ったようにカルハンの影響を受けている遺跡探索者ギルドを各国が安易に受け入れるわけがありません」
「そ、それはそうだが」
グースが続く。
「それにだ、あっちもクズが入会しようと続々とやって来て迷惑してるって話だぞ」
「う……」
「ボクなら優秀な冒険者にいい条件を出して引き抜くほうを選ぶね。そうすれば結果的に冒険者ギルドにクズが残ることになる。そうすれば勝手に評価を下げる」
ジットは引き抜くと言ったが同時加入出来るのでこの場合は遺跡探索者ギルドの依頼を優先的にさせるという方が正しいだろう。
フォトトナがこの話を切り上がる。
「黒幕が誰かは冒険者ギルドに任せましょう」
「そうだな」
「じゃ、フルーダの反省会の続きだね」
「う……」
フルーダの反省がひと段落してフォトトナが思い出したかのようにフルーダに声をかける。
「フルーダ」
「なんだ?」
「リオに対していろいろ思うところはあるかもしれませんが、その事はきれいさっぱり忘れなさい」
「……それは難しい」
「……」
「もちろん俺が悪いのはわかってる。だけどな、あいつはオレだけじゃなくお前達も馬鹿にしたんだ」
「あなたがもっと慎重に行動すればあのような争いが起こることもなかったのです」
「う……」
「そうだぜ。しっかり反省しろよ」
「実際、ボク達も被害受けてるんだからさ」
「く……」
「しかし、悪いことばかりでもありません。これであなたも自分が如何に無鉄砲か思い知ったでしょう。私達の苦労が実感できたはずです」
「高い授業料払わされたけどな」
「ボク達も払わされたのは納得いかないけどね」
「いいですね?」
「わ、わかった……」
フルーダはフォトトナに念を押され情けない顔で頷いた。
そこでジットがいいこと思いついたようでニヤリと笑う。
「それでフルーダへの罰ゲームは何にする?」
「な、何!?」
「え?ボク達を危機的状況に追い込んで謝罪だけで、言葉だけで済ます気じゃないよね?」
「う……」
フルーダは観念して尋ねる。
「なんだよ。飯奢れってか」
「それだけで済むわけないだろ」
「ジットには何かいいアイデアがあるのですね」
「フォトトナまで賛成するのかよ!?」
「安心しろ。俺も賛成だ」
「何も安心できないぞ!」
フルーダの抗議は民主的多数決で却下された。
ジットが嬉しそうに罰ゲームの内容を告げる。
「まず、一ヶ月間は食事や宿泊費などの諸経費諸々フルーダ持ち」
その言葉を聞いてフルーダはジットの真意に気づく。
「あっ、それはお前が魔道具買い集めて金がないからだろう!?」
ジットはフルーダに睨まれ、すっと目を逸らした。
「やっぱりか!?」
「まずということはそれだけではないのでしょう?」
提案に乗ってきたフォトトナにジットが嬉しそうな顔を向ける。
「もちろんだよ!」
「お、おい」
ジットはフルーダを無視して自分の意見を述べる。
「フルーダは今後ボク達より先にキレてはダメってことにしない?」
「な……」
「確かにすぐにカッとなるのはあなたの悪い癖です。これを機に直すの良いことです」
「おうっ、確かにそりゃいいな!」
「ちょ、ちょっと待て……」
「もしキレたらフルーダの諸経費持ちを更に一ヶ月延長ということで!」
「ジット!絶対それ俺のためじゃないだろ!!お前が金を節約したいだけだろ!?」
「悪くないですね」
「フォトトナ!?」
「安心しろフルーダ。俺も賛成だ」
「だから何も安心できないぞ!」
フルーダの抗議はまたも受け入れらることことはなかった。




