762話 運命の強制力 その1
リサヴィが冒険者ギルドの密命を受けて各地でクズ冒険者を抹殺しているという噂は有名で知らない冒険者はいない。
冒険者ギルドの密命云々の真偽はともかく、彼らの行く先々でクズ冒険者が大量に死んでいるのは事実であった。
そのことを当然フルーダも知っており、相手がリサヴィと知りやっと冒険者養成学校の同期達の話に疑いを持った。
フルーダが彼らに真偽を確かめようと顔を向けると彼らは腕を組んで仁王立ちしてあほ面を晒していた。
石像のように固まりピクリとも動かない。
何故、彼らがそんなポーズをとっているのかは不明だが、ともかく事実確認のため彼らに問いかけるが気絶しているのか全く反応しなかった。
そんな彼らのやり取りをよそにフォトトナがサラに声をかける。
「私達は破壊の剣で彼は私達のリーダーです。何があったのか詳しく教えて頂けませんか?」
「わかりました」
サラが事の経緯を破壊の剣のメンバーに説明した。
「……とあなた方のリーダーにも説明したのですが信じてもらえず私達をクズ呼ばわりしてリオを怒らせて決闘騒ぎになっているのです」
そのあとアリスが補足する。
「盗人呼ばわりもしましたよっ」
「ぐふ、あとクズ達は自分達の愚行で勝手に死んだのだがそれも私達のせいにされたな」
サラ達の話を聞き終えた破壊の剣のメンバーの厳しい視線がフルーダに注がれる。
「う……」
そこには先程までの勢いは完全になくなっていた。
相手がリサヴィだと知った後の同期達(元冒険者のクズ達)の反応を見ればどちらが嘘をついているのかは明らかだった。
グースがリオ達に頭を下げて謝罪する。
「フルーダが先走ってすまなかった!ここは穏便に済ましてくれ!」
グースの後にフォトトナ、ジットも続けて頭を下げて謝罪する。
「今回のことはこちらに非があります。申し訳ありませんでした」
「本当に済まない」
「ほれ!お前も謝れ!」
「……すまなかった」
フルーダは情けない顔で頭を下げた。
自分達に過失があったとしてもAランク冒険者が格下のCランク冒険者に頭を下げるのは珍しい。
人前とあれば尚更だ。
サラはこれで決闘が中止になった、あの未来予知?は回避されたと思いほっとした顔をリオに向ける。
「リオ、誤解は解けたようですからここは……」
サラの言葉を遮りリオが言った。
「無駄話が終わったらならさっさと決闘を始めようかAランククズリーダー」
「「「なっ!?」」」
「……」
「リオ!?」
リオは彼らの謝罪を受け入れていなかった。
破壊の剣はフルモロ大迷宮に長く潜っていたとはいえ、休憩に何度も地上に戻って来ていたし、この街へ戻る間に世界で起きている情報をグースが集めて来ていたので大きな出来事は知っていた。
ザブワック、ブラッディクラッケンとどちらも耳にしたことのある大物の魔物が討伐されたことも知っていた。
その討伐にリサヴィが関わっている。
特にブラッディクラッケンはリオが単独で倒したと言われている。
Sランクの魔物を一人で倒すなど文字通りの化け物だ。
そんな化け物と決闘してフリーダが勝てるとは思えない。
少なくともこれまで彼らが出会ってきたSランク冒険者も一対一ではリオに勝てるとは思えなかった。
リオの怒りは謝罪程度では収まらないとわかり多額の賠償金を払うと言ったが、リオは「金に困っていない」と一蹴した。
リオがどうあっても決闘をやる気だとわかり破壊の剣のメンバーは焦る。
いや、ただ一人、神官のフォトトナだけはどこか冷静、いや、諦めた雰囲気が漂っていた。
まるでこのあとの結末を知っているかのように。
焦っていたのはサラも同様だった。
(まるで少しでもあの結末に近づけようと何か目に見えない力が働いているような気がするわ!!)
なんとしてもあの結末を変えなければならない。
決闘を行えばその流れでサラもリサヴィを追放される可能性が高い。
そうなるとリオのタガが外れもう止まらない。
止められない。
魔王になる道へと突き進む。
サラはそんな気がしてならなかった。
(まだ諦めないわ!今の私はあの時とは違う!“あの私”は弱かった。力がなかった。でも今回は違う!今の私は“あの私”より強い!話を聞いてくれるはずよ!そうでなくてはあの未来予知を見た意味がないわ!)
「とにかく一旦落ち着いてくださいリオ」
サラは自分にも「冷静に」と言い聞かせながら話す。
「どうして話をややこしくするのですか?」
リオが首を傾げる。
「ややこしい?俺はバカにされたことが許せない。だから決闘する。至ってシンプルだ」
「相手は過ちを認めて謝罪したではないですか。彼もクズに騙された被害者です。彼自身はクズではありません」
リオはサラの発言を否定しなかった。
「確かにクズじゃないかもしれない」
「そうです。責めるべきは嘘を吹き込んだあのクズ達です」
そう言って石像のように固まって動かない元冒険者のクズ達を指差すがリオがクズ達に目を向けることはなかった。
リオの考えはサラとは全く異なっていた。
「あんなクズ達はどうでもいい。誰でも処理できる」
「処理って、もう少しいい方……」
サラの言葉にリオは割り込んで自分の考えを口にする。
「だがな、こいつは違う。あんなクズどもの言うことを信じてしまうほど頭の足りないバカがAランクの力を持っているんだぞ。こんな危険なバカをこのまま放置はできない」
「くっ……」
フルーダはリオに“バカバカ”呼ばれて頭に血が上っていたが、自分が悪いのでじっと堪える。
そんなフルーダの我慢強さを試すかのようにリオのバカ発言は続く。
「このバカはこの後何度もクズに騙されて罪のない者達を危険に晒すだろう。言わば、こいつはクズの武器だ。“クズの剣”なんだ。そんな危険なものはとっと破壊するに限るだろう」
そこでリオが笑みを浮かべる。
昏い、背筋をゾッとさせる笑みだ。
「これはこいつにとっても幸運なんだサラ」
「こ、幸運?」
「そうだ。このバカが、いや、このバカ“パーティ“を今、ここで、“処理“すればこれ以上愚行に手を染めることはない。そう、俺はこのバカパーティがこれ以上名誉を汚すことがないようにしてやるんだ。感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはない」
そう言ったリオであったが、その笑みは残酷、冷酷、その類のものを混ぜ合わせて作ったかのように悪意しか感じなかった。
到底言葉通りには受け取れなかった。
サラはリオの言ったことは本心だと思った。
だが、リオが決闘をしたがる理由はそれだけではないとも思った。
リオのフルーダに向ける殺意。
それは何があろうとここでフルーダを殺す。
そんな強い意志のようなものを感じたのだ。




