761話 フルーダの暴走
街を歩くリサヴィの前に三人の男が走ってやって来た。
一人は破壊の剣のリーダーであるフルーダだ。
サラ達は彼に見覚えはなかったが一緒にやって来た残りの二人は見覚えがあった。
その二人は商人の護衛を放棄しただけでなく、商人を囮にして逃げ出したクズパーティの生き残りであった。
彼らはその商人が彼らのお茶目な失敗を大袈裟に(彼ら視点)冒険者ギルドに報告したことで冒険者ギルドを退会させられた。
もちろん、クズがその程度で冒険者を諦めるわけがない。
彼らが“ク頭脳“をフル回転させているところにフルーダの姿を見かけて彼の力を利用しようと考えたのだった。
フルーダは元冒険者のクズ達の話を信じ切っており喧嘩腰でリオ達に問いただす。
「お前達か!俺の友の受けた依頼や獲物を横取りしただけでなく友を殺したっていうクズ達は!!」
その言葉でリオの気配が微かに変わった。
サラは今起きているこの状況に驚きを隠せない。
(昨夜見たあの未来予知とは色々違うけど状況が似ている!私達はウィンドのメンバーではないし決闘した者も目の前の彼ではない。でも、似ている!あの結末に向かっている気がする!絶対に決闘になることだけは阻止しないと!)
サラがリオの前に出て「私に任せて」と手で合図する。
リオは無反応だったがサラは構わずフルーダと話をする。
「あなたが彼らに何を言われたのか知りませんが私達はそのようなことはしていません。依頼についても彼らが放棄したので仕方なく引き継いだだけです」
「なんだと?」
サラが詳細を説明しようとしたがそうはさせないと元冒険者のクズの一人が会話に割って入り邪魔をする。
「信じないでくれよ!こんな色香で騙そうとするクズ達の言うことなんてよ!俺らはあの依頼で大事な仲間を二人も失ったんだ!このままじゃ死んだあいつらも浮かばれねえ!!」
元冒険者のクズ達がそう言って涙を流す。
サラは彼らに邪魔されながらもなんとか彼らが護衛を放棄して逃げ出しただけでなく依頼人を囮にまでしたことを説明したがフルーダは元冒険者のクズ達のことを信じ切っておりサラの話を信じようとしず、サラが嘘をついていると決め込んで責め続ける。
「俺はこいつらのことをよく知ってる!こいつらはそんなことをするような奴らじゃない!」
「「だな!!」」
元冒険者のクズ達はAランク冒険者という強力な援軍を得て強気だった。
まさに虎の威を借る狐、いや、Aランク冒険者の威を借るクズであった。
そこでこれまで沈黙していたリオが前に出た。
「リオ!?」
サラが押し留めようとするがそれを振り切り冷めた目をフルーダに向ける。
「お前はいつの話をしている?」
「なんだと?」
「俺達は今の話をしている」
直後、リオからフルーダに向けて殺意が放たれる。
フルーダはAランク冒険者である自分を圧倒するプレッシャーを受けてリオが只者ではないと悟る。
「お前達が知るそのクズどもは善人だったのかもしれない。だが、それは過去の話だ。今はクズだ。救いようのないクズだ。それが全てだ」
「「ざ、ざけんな!!」」
元冒険者のクズ達は必死に自分達が被害者だと主張する。
「し、信じんなよ!!こんな男娼野郎の言うことなんかよ!」
「なあ!助けてくれよ!」
「大親友だろ!?」
「こんなクズ達の言うことより俺らのことを信じるよな!?」
元冒険者のクズ達がフルーダに縋る。
その姿を見てリオが見下した笑みを浮かべる。
「……ああ。そうか。どうやら俺が勘違いしていたようだ」
「何?」
フルーダは一瞬だけ、リオが過ちを認めるのかと思った。
もちろん、リオがそんなことをするはずがない。
次にリオが発した言葉はフルーダを激怒させるものであった。
「お前がこいつらクズの親玉か」
フルーダの中に一気に湧いた怒りがリオのプレッシャーを跳ね除けた。
「ふ、ふざけるな!」
とはいえ、そう叫ぶので精一杯であった。
一方、元冒険者のクズ達はリオのプレッシャーを受けていないため強気な発言を続ける。
「いい加減にしろよ!お前らが相手にしてるのはな!Aランク冒険者だぞ!あの破壊の剣のリーダーのフルーダだぞ!お前らが叶う相手じゃねえんだぞ!!」
「それがどうしたクズ」
「ざけんな!ランクは絶対だ!逆らったらダメなんだぞ!」
「そんな当たり前のことも知らねえのかてめえは!!」
元冒険者のクズ達は自分のことのように偉そうに言った。
リオがくすり、と笑った後でフルーダを見た。
「もう面倒だ。決闘でカタをつけるか」
「なんだと!?」
「リオ!?」
サラの中であの未来予知?の結末に向かって話が進んでいるという思いが益々強くなる。
そんなサラの気持ちなど知らないとでもいうかのようにリオは続ける。
「もちろん勝負方法はデッドオアアライブだ」
「!!」
「クズじゃないなら受けるよな。Aランク“クズ”冒険者様。それともAランクってのはやっぱりズルしてなったのか?クズはそういうの得意なんだろ?」
「貴様ーっ!!言わせておけば!!」
フルーダはAランクに上がるのに必死に努力した。
死を覚悟したことも一度や二度ではない。
それを乗り越えて手にしたAランクだ。
その努力を全てバカにされたと思った。
フルーダは今にも剣を抜きそうな勢いだった。
その時である。
「待てーっ!!ちょっと待てーっ!!」
そこに破壊の剣のメンバーがやってきた。
大声を上げたのは盗賊のグースである。
彼らがリオ達とフルーダの間に割って入る。
「お前達!?なんでここに!?」
驚くフルーダをグースが怒鳴りつける。
「そりゃこっちのセリフだ!お前こそなんでリサヴィと揉めているんだ!?」
「な、何!?リサヴィだと!?」
「「げっ!?リサヴィ!?」」
「げっ!?リサヴィ!?」と叫んだのは言うまでもなく元冒険者のクズ達である。
彼らもこの時になって初めて自分達が絡んでいた相手がリサヴィだと知ったのだった。




