760話 Aランクパーティ破壊の剣
パーティ、破壊の剣。
彼らは最近までフルモロ大迷宮のマップ作りの依頼を受けていた。
参加した時はまだBランクであったが、この依頼とこれまでの依頼達成ポイントを加えた結果、Aランク昇格試験を受けることが出来るだけのポイントが貯まった。
彼らはフルモロ大迷宮での依頼を終えたあと冒険者の街ヴェインへ向かい昇格試験を受け、全員無事Aランクに昇格した。
そして彼らはホームのある街に戻ってきた。
「あー。やっとホームに戻って来たなあ」
そう言ったリーダーのフルーダを盗賊のグースが注意する。
「おいおい。そんな気抜けた顔すんなよ」
魔術士のジットも続く。
「そうだぞ。ボク達はAランク冒険者になったんだぞ。フルモロでは魔族だって倒したんだ!」
最後に神官のフォトトナもフルーダを注意する。
「皆の言う通りです。フルーダ、あなたは勇者となるのです。そんな腑抜けた顔をしていてはダメですよ」
「厳しいなあ、お前達は。それにまだ勇者は早いぞ」
「いえ大丈夫です。あなたは間違いなく勇者になりますよ」
フォトトナのにっこり笑顔を見てフルーダは照れた。
彼らの冒険者生活は順風満帆に見えた。
彼らはホームのリビングでくつろいでいた。
そこへ激しく玄関のドアを叩く音が聞こえた。
フォトトナが出ようとするのをフルーダが止める。
「オレが出る」
「ではお願いします」
フルーダは訪問者達に見覚えがあった。
彼らは同じ冒険者養成学校の同期であった。
「なんだお前達か!久しぶりだな!何年振りだ?よくここが……」
彼らはフルーダに挨拶を返すことなく叫んだ。
「助けてくれ!」
フルーダは彼らのただ事ではない様子に気を引き締める。
「なんだ?何があった?」
「聞いてくれよ!!」
同期の冒険者達が涙ながらに話し始める。
「俺らは商人の護衛依頼を受けてたんだ。その時、ガルザヘッサに襲われて商人を庇ってあいつが死んだんだ」
フルーダはその死んだ者と冒険者養成学校時代、一緒に組んで課題をこなしたことがありその時のことを思い出した。
「それは……」
「それはいいんだ。奴も冒険者だ。死ぬ覚悟はできていたはずだ」
「依頼人を守れて本望だったと思う」
「……そうか。そうだな」
「本題はここからなんだ!」
「助けてほしいんだったな?」
「ああ!」
「俺達がなんとかガルザヘッサどもの襲撃を退けた後だった。奴らが、あのクズ達がやって来て俺達が倒したガルザヘッサの素材を漁り始めたんだ!」
「それをリーダーが注意したらあいつら……いきなり剣を抜いてリーダーを斬り殺したんだ!」
「なんだと!?」
「それだけじゃねえ!俺らの依頼を無理やり奪ってよ、俺達が依頼を途中で放棄したって護衛していた商人に嘘の証言をギルドにさせたんだ!」
「ギルドはその言葉を信じて俺達を退会処分にしたんだ!」
「俺達は誇り高き冒険者だ!本当に依頼を失敗したなら潔く認めて退会でもなんでも受けてやる!」
「だがよ、嘘の証言で退会させられるなんて我慢できない!」
「死んだリーダー達だって無駄死にしたってことになる!それだけは、それだけは我慢できないんだ!!」
フルーダは彼らの話を聞いてそのクズ達に対する怒りで頭に血が上っていたが少しだけ冷静さが残っていた。
今の話の中で疑問に思ったことを口にする。
「そのクズ達はなんでそんなことをしたんだ?そこまでするってことはお前達に何か恨みでもあったんじゃないのか?」
「「……」」
「おい?」
不自然な間の後で同期の一人が話し始める。
「……恐らく以前に奴らが悪さしているのを注意した逆恨みだろう」
「だな!」
「つまり、お前達はそのクズ達と顔見知りだったんだな?」
彼らはフルーダの質問には答えず涙を流しながら訴える。
「頼む!同期の!お前の大親友の仇を取ってくれ!」
「そして俺らの無実をギルドに証明するのに協力してくれ!」
フルーダは死んだ者達を含めて彼らとそれほど親しい間柄ではなかった。
冒険者養成学校を卒業してからはやり取りをしていない。
やって来た彼らとも今日何年か振りに会ったのだ。
だが、彼らは冒険者養成学校の同期であり、そのときの彼らは真面目で何事にも真剣に取り組む者達であったことを覚えていたのでその話を信じた。
「わかった。それでそのクズ達の居場所はわかっているのか!?」
「ああ!ちょうど今この街にいるんだ!」
「今ならまだ追いつけると思う!仮に争うことになったとしてもBランクのお前ならあのクズ達に遅れをとることはないだろう!」
「わかった!すぐ準備するからちょっと待て!」
フルーダはそう言った後で一言付け加える。
「あと今の俺はAランクだ」
その言葉を聞いて同期達の顔が一瞬、嫉妬に狂ったような表情に変わったがフルーダの背中に目はついていないので気づかなかった。
フルーダは自室で装備を整えると彼らと共に家を出ていった。
リビングからフルーダがやって来た者達と共に出ていくのが見えた。
「何やってんだ?戻ってきたばかりだってのに」
グースは呑気な表情で言ったがフォトトナは胸騒ぎがしていた。
「……一緒に出て言った者達を知っていますか?」
「さあ?」
「ボクも知らないな」
グースに続いてジットが答えた。
「……そうですか」
フォトトナが不安そうな表情で言った。
フルーダが飛び出してしばらくして破壊の剣の家のドアを激しくノックする者が現れた。
「またか。今度は俺が行ってくる」
そう言ってグースが玄関に向かいドアを開けた。
そこにいたのは顔見知りの冒険者だった。
「お前か。騒がしいぞ。一体……」
「何呑気にしてんだ!?」
「はあ?」
その冒険者の大声はリビングにまで届き、何事かとフォトトナとジットもやって来た。
顔見知りの冒険者が叫んだ。
「フルーダの奴がリサヴィに喧嘩売ってるぞ!!」
「「はあ!?」」
「……」
「ちょっと待て!意味がわからん!なんでそんなことになってるんだ!?」
「そんなの知るか!俺が知りたいくらいだ!ともかく!フルーダがリサヴィの“冷笑する狂気”にケンカ売ってんだよ!」
「な……」
「ああっ、なんで帰って来てそうそう!」
「……行きましょう!」
「そ、そうだな!」
破壊の剣のメンバーは顔見知りの冒険者に教えられた場所に向かった。
フォトトナが「……“あれが“ここに繋がるのならもう手遅れかもしれませんが」と呟いたが他のメンバーには聞こえなかった。




