759話 もう一つのウィンド その2
しばらく歩いていると見たことのないパーティが立ち塞がった。
「お前がウィンドのリオか!?」
「あ?」
リオが不機嫌そうな顔で名を呼んだ者を睨みつける。
「お前!俺の友を殺しただろ!」
その者がリオが殺したという冒険者の名を挙げるがリオは首を傾げるのみ。
「覚えてないってか!?」
「リオ、あいつじゃないの。ほらっ」
ローズが最近リオが殺した相手のことを話す。
ローズの話を聞いてリオは思い出したようだ。
「……ああ、そんなこともあったな」
「あいつはな、家族を養うために必死に依頼をこなしていたんだぞ!それをお前は!!」
「知るか。俺達が倒した獲物を盗もうとするからだ」
「嘘つけ!!あいつはそんな事をするような奴じゃない!」
「はは、はははははっ!!」
リオが大声で笑い出した。
「何がおかしい!?」
リオは笑うのをやめるとリーダーに見下した目を向けて言った。
「お前は一体いつの話をしている?」
「なんだと!?」
「なるほど。確かにそいつはいい奴だったかもしれない。だった、かもな。だが、それはいつの話だ?」
「な、なに?」
「人は変わる。変わるんだよ。ちょっとした事で変わる。そいつは生活のために必死だったのかもしれない。だが、それが人の物を盗んでいいという理由にはならない。少なくとも俺は許さない」
「う、嘘をつくな!いくら時が経とうとも奴は絶対他人の物を盗ったりはしない!」
「お前の希望的観測など知ったことか」
「なんだと!?」
「そもそもだ。そんなに大切な友達ならなんで一緒に行動しなかった?いや、なんで金を貸してやらなかった?」
「そ、それは……」
「その程度の関係なんだろう?都合のいい時だけ友達ぶるな。クズ」
「お、俺がクズだと!?貴様!言わせておけば!!」
リオはため息をついた。
「もう面倒だ。ともかく俺が憎いんだろ?仇を討ちたいっていうなら決闘してやってもいいぞ」
「……いいだろう。後悔するな!」
「ははっ。それはこっちのセリフだ」
その場で決闘が行われることになった。
決闘方法はデッドオアアライブ。
ちなみに決闘相手のリーダーはAランク冒険者であった。
彼だけでなく、パーティメンバー全員Aランクだった。
リオと決闘をしたリーダーだが、あっさりとリオに敗れた。
リオは最初の一撃でリーダーの利き腕を斬り飛ばし、それで勝敗は決したと言っていいだろう。
そのパーティメンバーはリーダーがこうもあっさり負けるとは思わなかったようで慌てて決闘の中止を求める。
「こちらは脅すだけのつもりで殺す気はなかったんだ!」
「彼は将来勇者になるのです!」
「助けてくれたらなんでもする!」
と。
しかし、リオは拒否した。
リオの対応は間違ってはいない。
不利になったから決闘を途中で中止したいなどあまりにも都合が良すぎる。
彼らの懇願虚しく、リオは笑いながらそのリーダーの首を刎ねた。
彼のパーティメンバーは怒り狂って我を失い襲いかかってきたがリオは一人で返り討ちにした。
Aランクパーティ全滅である。
その中にはジュアス教団の神官も含まれていた。
あっという間の出来事でサラには止める暇がなかった。
全てが終わった後でサラがリオを責める。
「リオ!相手は戦意を失っていたではないですか!それに決闘相手以外にまで手を出すなんてどういうつもりですか!?」
「何を言ってるんだ。向こうから仕掛けて来たんだぞ。正当防衛だ」
リオが残虐性を秘めた笑みを浮かべながら言った。
「あなたが挑発してそうなるように仕向けたのでしょうが!」
リオが冷めた目をサラに向ける。
ゾッとする、背筋が凍えるような目だった。
とても仲間に向ける目ではない。
「サラ、お前、偽善者だな」
リオの言葉がサラの心に冷たく突き刺さる。
「そ、そんなこと……」
リオはサラの言葉に自分の言葉を重ねて遮る。
「前から思っていたが、お前はその場さえ収まればそれでいいと思っているだろう」
「そ、そんな事はありませ……」
「自分の目の前で惨劇が起きなければいいと思っている。自分の知らぬところでならどんな惨劇が起こっても構わないと」
「そ、そんな事は思っていません!」
「思っていなくてもやっていることは同じだ」
「そ、そんなことはありません!」
「サラ、お前のそれは自己満足だ。犠牲者を増やすだけだ。誰も救わない。誰も救われない」
「リ、リオ!」
「考えてもみろ。今、こいつらの相手をしていたのが俺でなかったら、奴らより弱い者達だったらどうなっていたと思う?」
「……」
リオはサラの答えを待たずに自ら答える。
「ありもしない罪を認めて謝罪し、賠償金を払わされたかもしれない。決闘で殺され汚名まで着せられていたかもしれない」
「そ、そんなことは……」
「ないと言えるのか?」
「そ、それは……」
サラが言葉を詰まらせるとリオはサラの答えを待たなかった。
「やはりお前はダメだな」
「え?」
リオの瞳が一瞬、真紅に染まったように見えた。
「サラ、お前とはここまでだ」
「……え?」
「理解できなかったか。ならはっきり言ってやる。サラ、お前のような偽善者はウィンドには不要だ。出て行け」
その言葉にショックを受けるサラ。
事の成り行きを黙って見ていたナックが口を開く。
「いいのか?お前、勇者になれなくなるかもしれんぞ?」
「そんなものに興味はない」
「あたいはどっちでもいいよっ。ベルフィを完治出来なかった大した力もない神官だしね。でもそうするとナック、回復役はあんただけになるから負担が増えるよ」
「それはあまり気にしてないぞ。今のリオならそう怪我もしないだろうしな」
「それもそうだね。じゃっ決まりだね」
こうしてサラのウィンド追放が決定した。
「そ、そんな……」
「じゃあなサラ」
三人が去っていく姿を呆然と見つめるサラ。
「ちょっと待って……私は……私は……」
動揺するサラを元気づけようとする者がいた。
「安心しろサラ!お前には俺がついているぞ!」
それはあれだけ皆に邪険にされながらもしぶとく後をついて来ていたカリスだった。
ちなみにリオが決闘しているときは必死に相手を応援していた。
カリスがサラににやけ顔をにゅっと近づけて来た。
「さらぁ!」
「うるさいわ!!」
サラの八つ当たり気味の強化魔法を込めた鉄拳がカリスの顎を直撃した。
カリスは顎が砕けたにも拘らず幸せそうな顔で宙をくるくるくると舞った。
そこでサラは目が覚めた。
そこは宿屋のベッドの上だった。
現実に戻りほっとするサラに隣にある二段ベッドの下段から冷めた声がかかる。
「うるさいのはお前だ」
ヴィヴィであった。
サラは最後の言葉を声に出して叫んでいたことを悟る。
サラがヴィヴィのいる二段ベッドの上段に目を向けるとアリスが枕を持って振りかぶっていた。
アリスはサラと目が合い、
「え、えへへっ」
と笑って枕を慌てて下ろした。
サラは今のがただの夢ではないと思っていた。
現実と違わぬ感覚に覚えがあった。
そう、未来予知だ。
未来予知を見たときと同じ感覚だった。
(でもおかしいわ!今のが未来の出来事であるはずがない!現実の未来へとは繋がっていない!)
何故起こり得ない未来予知を見たのか、サラが考えたところでわかるはずはなかった。




