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757話 クズリーダー、微笑みを魔物に

 ヴィヴィが街道に横たわる最後のガルザヘッサの死体を森の中へぶっ飛ばした。


「ぐふ。では戻るか」

「そうですね」


 サラが商人に声をかける。


「今まで黙っていましたが向こうでリオが、私達の仲間があなたの荷馬車の番をしています」

「ええっ!?本当ですか!?」

「ええ。荷物も無事のはずです。割れ物があったらわかりませんが」

「いえいえ!そんなものはありません!助かりました!もう諦めていたんです!命が助かっただけで満足と自分に言い聞かせていたところだったんです!」

「そうですか。では行きましょう」

「はい!」


 サラ達は構って欲しそうな顔でじっと見つめるクズ盗賊をその場に残しリオの元へ向かった。

 いや、残すつもりだったがついてこようとしたのでヴィヴィがリムーバルバインダーで脅したらクズ盗賊は慌てて足を止めた。

 もちろん、クズがその程度で諦めるわけはない。



 しばらくしてサラ達の背後から喚き声が聞こえて来た。

 サラ達は無視したが商人が振り返ってその相手を確認する。


「あの……」

「はい?」

「あのクズ達が追って来ていますが……」


 クズ盗賊が森の中であほ面晒して気絶していたクズリーダー達を起こしたのだ。

 追って来るのが早いことからヴィヴィが森に捨てたガルザヘッサの死体から素材を漁るよりサラ達を追うことを優先したようだ。

 それは誇り高き冒険者である自分達を無下に扱った怒りだけが理由ではない。

 彼らは素材回収中に魔物に襲撃されるのを恐れ泣く泣く素材回収を諦めたのだ。

 つまり選択肢は二つあるように見えて実質的には一つしかなかったのである。


「ぐふ、放っておけ」


 そう言ったヴィヴィに商人は不安そうな顔を向ける。


「しかし……」

「ぐふ、次はもっと強くぶっ飛ばす」

「ですねっ」

「そ、そうですか」


 クズ冒険者達にも学習能力があったようだ。

 サラ達と一定の距離を保ちつつ“何の罪もない”自分達へ暴力を振るったことへの謝罪と賠償金、そして彼らから“奪った”素材を返せと喚いていた。

 もちろん、サラ達は無視した。

 サラ達はクズの相手するのは不本意ながら慣れっこだったので全く気にしていなかったが商人は落ち着かない様子であった。



 荷馬車のそばにはガルザヘッサが三体倒れていた。

 言うまでもなくリオが倒したのだ。

 先程逃げ出したもの達がリオを襲撃したのか新たな群れに襲われたのかは不明だ。


「「「うおおお!!」」」


 抗議の声を上げながらサラ達の後をついて来ていたクズ冒険者達はそれらを見て走り出した。

 クズの血が騒いだのだ。

 「エクセレントスキル( クズスキル)を決めろ!」と心が叫び、その声に従った。

 彼らは加速してあっという間にサラ達を追い抜く。

 サラは彼らのうち、クズリーダーが向かった先のガルザヘッサに違和感を覚えた。


(……いや違う!そこには!!)


「止まりなさい!えっと……クズリーダー!そこは危険です!」

「誰がクズリーダーだ!誰が!?」

 

 サラの警告をクズリーダーは無視した。

 クズが人の言うことを聞くわけがないのだ。

 クズリーダーと呼ばれたことに腹を立てたことも多少影響したかもしれないが誤差の範囲だろう。


「わはは!こいつは俺のもんだ!!」


 クズリーダーが倒れたガルザヘッサに辿りつき手にした剣で一当てして叫ぶ。


「とったどーーーーっ!!」


 そう叫ぶクズリーダーは満面の笑みを浮かべていた。

 直後、ガルザヘッサが森から飛び出してきた。

 正面に出現したガルザヘッサにクズリーダーは満面の笑みを浮かべたまま固まった。

 エクセレントスキル(クズスキル)はオートで発動するほどの域にまで達していたが、自衛行動は無意識に瞬時に取れるほどの域には達していなかったのだ。

 クズリーダーの無防備な首にガルザヘッサの凶悪な牙が深々と食い込んだ。


「がっ!?」


 ガルザヘッサはそのままクズリーダーを咥え引きずって森の中へと消えた。

 あっという間の出来事であった。

 サラがリオに顔を向けると薄笑いをしていた。

 そのゾッとする笑みを見てサラは確信する。

 リオはあそこにガルザヘッサが潜んでいることを知ってて見逃したのだと。

 クズ達が“ごっつあんです”をやることを確信し罠を仕掛けていたのだと。

 我に返ったクズ冒険者達が叫ぶ。


「リ、リーダーを助けろ!」

「急げよ!」


 リサヴィの誰一人動かない。


「てめえら!聞こえ……」

「黙れクズ」

「「!!」」


 リオの静かな声にクズ冒険者達は恐怖を感じ震える。


「お前達のクズリーダーだろ。お前達が助けに行けクズ」

「ぐふ、リオの言う通りだぞクズ」

「ですねっ。あなた達クズのっクズリーダーなんですからっ。わたし達にはっ関係ありませんっ」

「「ざ、ざけん……」」


 リオが笑みを浮かべながらクズ冒険者達の言葉を遮る。


「仕方ない。手を貸してやろうか」

「お、おう急げ……」


 リオが再びクズ冒険者の言葉を遮り、先ほどの言葉を訂正する。


「いや、この場合、“足”と言うべきか」


 リオが冷めた笑みを浮かべながら足で地面をとんとん叩くのを見てクズ冒険者達はその言葉の意味を理解した。

 自分達をクズリーダーが姿を消したあたりへ蹴り飛ばすつもりだということに。

 更にヴィヴィもクズ冒険者達に助け舟?を出す。


「ぐふ、では私はこの盾を貸してやるか」


 クズ冒険者達は先程その盾でぶん殴られたことが脳裏を過ぎる。


「「ひっ……」」


 クズ冒険者達が走り出した。

 クズリーダーを助けに行った、

 のではなく、リオ達から逃げ出したのだ。

 まあ、助けに行ったところで最初の攻撃が致命傷だったのでできても死体の回収くらいだっただろう。


「ぐふ、リオ、見事だった」

「何のことだ?」


 リオは冷めた笑みをヴィヴィに向ける。


「……ぐふ、なんでもない」


 

 商人は荷馬車が無事で大喜びだった。

 リオ達に何度も感謝の言葉を述べる。

 商人の荷馬車の護衛は総入れ替えとなり、非常に頼りになる護衛に代わった。

 リオ達が商人を護衛をする義理も義務もないのだが、向かう方向が同じであり、更にクズとはいえ同じ冒険者がしでかしたことなので放っても置けなかったのだ。

 主にサラが、であるが。



 この荷馬車の積荷は多く護衛が全員座る余裕はない。

 そのため移動速度は徒歩の護衛に合わせてゆっくりだ。

 荷馬車の後を先程逃げ出したクズ冒険者達が付かず離れず追いかけて来た。

 彼らはリオ達に恐怖を感じていたが街道を二人だけで進むのも怖かったのである。

 究極の選択を迫られ渋々リオ達の後をついていくことにしたのであった。

 当然、いざとなったらリオ達に助けを求める気満々であった。



 この後、襲撃はなく無事目的の街に着いた。



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