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756話 クズ盗賊の孤独な戦い

 ヴィヴィが尻餅ついたクズ盗賊に言った。


「ぐふ、何故お前だけ”まだ“ぶっ飛ばさないかわかるな」


 ヴィヴィの問いかけにクズ盗賊は一瞬考え込むが、ヴィヴィ達のパーティ構成を見て確信した。

 クズ盗賊は尻をさすりながら立ち上がって言った。


「へっ、へへっ。俺が盗賊だからだろう?」

「ぐふ、その通りだ」

「よしっわかった!俺がお前らのパーティに入ってやる!ちょうど今のパーティには愛想が尽きてたんだ!クズばっかりでよ!」


 彼の言う“クズばっかり”に本人は含まれていないようだった。

 クズ盗賊がサラとアリスにキメ顔をして近づこうとする。

 その鼻先をリムーバルバインダーが通り過ぎる。


「うわっ!?てめえ!仲間に何しやがる!?」


 怒り露わのクズ盗賊にヴィヴィは冷めた声で言った。

 

「ぐふ、寝言は寝て言え」

「ざけんな!」

「ぐふ、お前のようなクズをパーティに入れるわけないだろう」

「ざけんな!それ以外にこのスッゲー腕の立つ盗賊にどんな用があるってんだ!?あん!?」

「ぐふ、魔物の接近に気づかなかったお前のどこが“スッゲー腕の立つ”なのだ?無能なクズ盗賊だろう」

「ざけんな!」


 クズ盗賊は本当のことを言われて激怒する。


「ぐふ、それはもういい。私が“その通り“と言ったのはお前は言葉通りの盗賊、盗人だからだ。さあ、商人から盗んだ魔道具を返せ」

「な……」


 クズ盗賊は心底驚いたような表情を見せる。

 ヴィヴィの言葉に商人ははっとする。

 最初に使用した結界の魔道具のことはヴィヴィに指摘されるまですっかり忘れていたのだ。


「言われてみれば……確かにありませんね!」


 皆の責める視線に晒されたクズ盗賊の顔が卑屈な笑みに変わった。


「そ、そんなもん持ってねーぜ!へへっ。お前の勘違いだ棺桶持ち!」

「ぐふ、何度も言わせるな。私はお前達クズのクズ行為をずっと見ていたと言っただろう」

「誰がク……がっ!?」


 リムーバルバインダーがクズ盗賊の鼻にぶつかった。

 手元が狂ったのではない。

 わざとぶつけたのだ。

 クズ盗賊が両手で鼻を押さえる。

 その手を見ると鼻血がついていた。


「て、てめ……」

「ぐふ、早くリュックから出せ」

「ざ、ざけんな!そ、そんなもん持ってねえって言ってんだろ!」


 クズ盗賊は“俺の物は俺の物、他人の物も俺の物”の精神で手にしたお宝を渡してなるものかとリュックを抱き抱えて抵抗の構えを見せる。


「そ、そうだ!お前がぶっ飛ばした奴らのどっちかが持ってるかも知れねえぞ!探してここへ連れて来い!急げよ!!」

「……」


 クズ盗賊は自分の立場を全く理解していないようであった。

 そんなやりとりに飽きた者がいた。

 アリスである。


「ヴィヴィさんっ、いつまで遊んでるんですっ?リオさんが待ってるんですよっ」

「ぐふ」

「もうここはっわたしに任せてくださいっ」


 そう言ったアリスの手にはまだガルザヘッサを仕留め血に染まったメイスが握られていた。

 そのメイスを構えてクズ盗賊に近づく。

 クズ盗賊は身の危険を感じた。


「ちょ、ちょ待てよ!お前っ、まさかそれで俺を殴る気じゃねえだろうな!?」

「大丈夫ですっ。一応手加減はしますからっ。二、三発ぶん殴れば盗んだことを思い出すと思いますよっ」


 にっこり笑顔で答えるアリス。

 サラが呆れた顔で言った。


「アリス、そんなことすればたぶん、一生思い出せなくなりますよ」

「そうなったらそうなったらですよっ」

「ぐふ、そうだな。その後でゆっくりリュックの中を調べればいい。他にも盗品が見つかるかもしれんしな」

「う……」


 クズ盗賊はやっと自分の立場を思い知る。


「わ、わかった!ちょっと調べてみるから待てって!なっ!」

「「「「……」」」」


 皆が監視する中でクズ盗賊はリュックの中身を確認する。


「……あ、あれれー?おかしいぞー」


 どこかの子供探偵並みの白々しさでそう言うと中から結界の魔道具を取り出した。

 クズ盗賊は引き攣った笑みをサラ達に向ける。


「へ、へへっ。なぜか入ってやがったぜ」

「ぐふ、お前達クズは一歩歩けば全て忘れるのだろう」

「ざけんな!」


 クズ盗賊は脊髄反射で怒鳴り、すぐに今の状況を思い出す。


「へ、へへっ。悪い悪い。ついな。ほら、貧乏商人取りに来い」


 名指しされた商人が取りに行くのをサラが止めた。


「私が行きます」


 それにクズ盗賊が慌てて抗議する。


「ちょ、ちょ待てよ!なんでお前が取りに来んだ!?あっ!さては奪う気だな!?」

「ぐふ、お前達クズとは違うぞクズとはな」

「ざけんな!誰がクズだ誰が!?」


 商人はサラ達に遅れてクズ盗賊が何か企んでいるのを察した。


「ではお願いします」

「ちょ待てよ!俺はちょっとお前に話があんだよ!なっ?」


 クズ盗賊は話を合わせろと目をぱちぱちさせるが商人は無視した。


「なっ!?てめえ!……あっ」


 サラはもうクズと遊んでいる暇はないとばかりにクズ盗賊の手から強引に結界の魔道具を奪った。


「あっ!泥棒!」

「ぐふ、それはお前だ」

「ですねっ」


 サラはぎゃーぎゃー喚くクズ盗賊を無視して結界の魔道具を商人に渡す。


「それで間違いないかしっかり確認してください」

「はい」


 商人が魔道具をしばらく確認してから言った。


「間違いなく私のものです。プリミティブが抜き取られていますがあれはもう魔力を使い果たしているのでなくても問題ありません。それ以外は大丈夫です」


 アリスが感心した表情で言った。


「流石っクズですねっ。そういうことだけは素早いっ」

「ぐふ、確かにな」

「ざけんなー!」


 クズ盗賊の叫びが虚しくあたりに響いた。

 彼はクズとして最後まで立派に抵抗したが圧倒的な力の前に屈したのだった。



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