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752話 荷馬車の暴走

 以前であれば護衛依頼は冒険者ランクさえクリアしていれば誰でも受けることができた。

 しかし、依頼を真面目にこなさない、いわゆるクズ冒険者の悪行が目立つようになり、冒険者ギルドは信用を失い始めていることを深刻に捉え、護衛依頼を受注する者達を厳しくチェックするようになった。

 もっとも厳しいところではクズかどうかに関係なく自分のギルド所属以外には護衛依頼を受けさせないところも現れた。



 その商人は直接護衛交渉に来たその冒険者達のことを覚えていた。

 以前に冒険者ギルドに護衛の依頼をしたときやって来たのが彼らだった。

 その時の彼らはとても親切で頼りになる良い印象しかなかった。

 彼らが商人に直接交渉に来た理由を説明する。


「実はな、俺達、この街の冒険者ギルド所属ではないから護衛依頼が受けられないんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。クズ冒険者達の悪さが問題になってな」

「俺達誇り高き冒険者はその煽りを喰ってんだ!」


 そう言って彼らはクズ冒険者達に怒りをぶつける。

 商人は彼らの説明に全く疑問を持たなかった。

 彼らに同情すら覚えた。


「わかりました。では私の護衛お願いします」


 商人の言葉に彼らは「任せろ!」と元気よく叫び、意気込みを態度で示した。

 腕を組んで仁王立ちしたのだ。


(……あれ?彼らはこんなに態度がでかい人達だったかな?)


 商人は一抹の不安を覚えながらも出発した。



 商人達がキャンプスペースで休憩していると森からガルザヘッサが現れた。

 その数は五。

 商人はここへ来るまでの間、彼らから魔物討伐の自慢話を聞かされていた。

 その中にはガルザヘッサ討伐も含まれていた。

 今回の数はその時より少ない。

 だから商人は今回も彼らなら余裕で倒せると思った。

 ただ、自分を守りながらでは難しいかもしれないと思った。

 幸い彼は範囲結界を張る魔道具を手に入れていたのでそれで身を守ることが出来る。

 彼の心配はガルザヘッサの出現に驚いて逃げていった馬とその馬が引いていた荷馬車のことだけであった。

 本当ならここまで魔物に接近される前に冒険者達が気づくべきである。

 そうすれば馬を落ち着かせ、彼の持つ結界の魔道具で一緒に守ることができたはずだ。

 だが、それを今言ったところで状況が変わるわけではない。

 商人は馬共々積荷が無事であることを祈りつつ、彼らに結界の魔道具を使うことを告げた。



 リオ達は街道を歩いていた。

 すると前方から荷馬車が猛スピードで走ってくるのが見えた。

 それを魔装具の望遠機能で見ていたヴィヴィが首を傾げた。


「……ぐふ?御者がいないな」


 その呟きにアリスが驚く。


「えっ!?暴走しているってことですかっ!?」

「ぐふ、そういうことになるな」


 荷馬車が皆にも御者がいないとわかる距離まで迫る。

 リオが道の真ん中で立ち止まった。


「リオ!?」


 リオはすっと右腕を前に出し止まれの合図をする。

 これが人間相手ならその意味を理解しただろう。

 しかし、その荷馬車には御者が乗っていない。

 リオの行動は無謀以外のなにものでもなかった。


「リオ!逃げな……え?」


 しかし、その荷馬車を引く馬はリオの行動の意味に気づいたのかスピードを落とした。

 そしてゆっくりとリオの前まで来て止まった。


「なかなか賢いな」


 全力で走った後で激しい息をする馬にリオはそう話しかけながら頭を撫でる。


「リオさんはっ馬の扱いがうまいんですねっ」

「そうみたいだな」


 アリスの問いにリオはどこか他人事のように答えた。

 この発言に誰も疑問を持たない。

 リオが昔の記憶を失っていることを知っているからだ。


「しかし、一体何が起きたのでしょう」


 街道はこの先右に曲カーブしており、その先は森が邪魔して見えない。

 サラの問いに答えたのはリムーバルバインダーを飛ばして上空から様子を探っていたヴィヴィだった。


「……ぐふ、道を曲がった先で襲われているようだ」

「魔物ですか!?」


 サラの問いにヴィヴィが頷く。


「ぐふ、ガルザヘッサのようだ」

「状況は!?」

「ぐふ、よくはないな。皆結界の魔道具で守られているがいつまで持つか」

「えっとっ、それってっ戦ってないってことですねっ?護衛は既に全滅したんですかねっ?」

「ぐふ、見える範囲にはないな。代わりに結界の中にそれらしい者達がいる」

「なるほど。怪我して戦えない状態というわけですか」

「……ぐふ、だといいな」

「ヴィヴィ、いいとは不謹……!!」


 サラはヴィヴィを注意しかけて自分が勘違いしているかもしれないことに気づく。

 勘違いであって欲しいと思いながらヴィヴィに確認する。


「もしかして、ピンピンしているのですか?」

「ぐふ、遠いから断言は出来ないがな」


 そこでアリスも二人が何を考えているのかわかった。


「あのっ、もしかしてっ、それっ、クズ冒険者ってことですかっ?」

「ぐふ、アリス、それは違うぞ」

「えっ?あっ、そうですよねっ。流石にクズ……」

「ぐふ、冒険者とは限らないぞ」

「あっ……そっちですかっ……」

「ここで話していても仕方ありません!いつ結界が切れるかわからないのでしょう!?相手が魔物なのですから倒すべきです!」


 サラがリオに言った。


「リオ、助けに行きましょう!」

「任せた」

「え?」

「この馬は休憩が必要だ。俺がここで番をしてるから戦いが終わったら知らせてくれ」


 ちょっと驚いたサラではあるが今はリオと口論するよりも人助けが優先だ。


「わかりました。ヴィヴィ、アリス手伝ってください」

「わかりましたっ」

「ぐふ」


 サラとアリスが走る。

 ヴィヴィはリムーバルバインダーの片方は引き続き戦況を見ながらもう片方を連絡用にリオの元に残し、自身は歩きながらサラ達の後を追った。


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