751話 料理対決の行方
料理対決のことはあっという間に街中に広がっていた。
ただ、女料理人の姿がアレなのでリオとタイマンすると勘違いする者達も少なからずいた。
料理対決でリオはその店の二つ隣にある酒場の厨房を借りることになった。
ちなみにそのことでその店に迷惑がかかったかと言えばそんな事はない。
逆にいろんな店から「是非ウチの厨房を使って欲しい!」と話を持ちかけられたくらいだ。
それはリオが料理上手と知っていたのではなく、リサヴィが利用した店という宣伝になるからだ。
リオが他店の厨房を使うことに対して女料理人は条件を出していた。
その店の料理人達がリオが料理しているところを見てはダメだというものだった。
それもリオが料理対決で使用する食材を女料理人が用意して秘密にするという徹底ぶりであった。
それは当然のことかもしれない。
この対決で女料理人の店の名物料理のレシピが他店に知られ、同じ料理を出すライバルを増やすことになるかもしれないからだ。
万が一にもリオの料理の方が美味しかったら彼女の店は大損害を出すことになるだろう。
リオに厨房を貸すことになった店の主人はその条件に不満を口にしたものの、「それじゃあ俺んとこ使えよ!」と立候補が次々と現れたため渋々オッケーしたのだった。
そして料理対決当日。
審査員席には身に覚えのないテーブルが追加されていた。
そこに座していたのはあのクズ冒険者達であった。
その姿に皆が驚く。
文字通り、その姿に驚いた。
クズ冒険者達は皆怪我をしていた。
治療は金がなく最小限で済ませたようで中には顔が変形して最初誰かわからなかった者もいた。
言うまでもないが昨夜、女料理人を襲撃した(しようとした)のは彼らである。
女料理人に怪我させて退場させる作戦が失敗したので審査員として参加してリサヴィを勝たせようと考えたようだ。
あまりに幼稚でとても大の大人が考えつくような作戦ではなかった。
浮かんでも実際に実行しようとは思わないだろう。
それだけ彼らは追い詰められており、そこまでしてリサヴィに寄生したかったということだ。
言うまでもないがその作戦は失敗に終わる。
「あれです!」
衛兵達と共にやって来たどこかの店の店員がクズ冒険者達が座っているところを指差す。
「あのテーブルと椅子はうちの店のものです!」
その言葉を聞いて衛兵達がクズ冒険者達の元へ向かう。
どうやらクズ冒険者達が用意したテーブルと椅子はその店員の店から無断で持ち出したもののようであった。
クズ冒険者達は衛兵達に必死に無罪を主張し、その店員だけでなく周りの者達に「話を合わせて俺達の無実を証明しろ」と目をぱちぱちさせて合図する。
もちろん、彼らに手を貸すものなど一人もいない。
追い詰められた彼らは「リサヴィに頼まれたんだ!」という始末である。
当然、誰も彼らの言うことを信じなかった。
必死に抵抗するクズ冒険者達であったが、既にボロボロの状態であることもあり、抵抗の甲斐なく衛兵達に連行されていった。
女料理人宅への不法侵入及び襲撃?の証拠はないが、窃盗の現行犯である。
とても誇り高き冒険者のすることではない。
先のクズ冒険者達と同じく冒険者ギルドを退会させられることは間違いないだろう。
クズ冒険者達による前座が終わり、料理対決が始まった。
判定は採点制で審査員が下した点数の合計が多い方が勝ちである。
リオのアシスタントにアリスがついていた。
アリスは貴族で実家にいた頃は一度も料理をしたことはなかったが、第三神殿では自分達の食事は自分達で作ることになっていたので無難にこなせる。
それはサラも同様であったが何故か戦力外にされていた。
ヴィヴィも戦力外であったが本人は特に不満を感じてはいないようであった。
サラは二人が忙しそうに動いている姿を見てやはり何もしないわけにはいかないと思い手伝いを申し出る。
「リオ、私も何か手伝いましょうか?」
「じゃあ、アリスが皮をむいたやつを潰してくれ」
「……わかりました」
「ではっこの芋をお願いしますっ」
「ええ」
サラは渡された芋を潰し終わった。
「終わりました。他に何かありますか?」
「じゃあ、これをお願いしますっ」
「……また潰すんですね?」
「はいっ」
それでサラの仕事は終わった。
厨房から出て来たサラをヴィヴィが出迎えた。
「ぐふ、出来ないことを出来るように見せようとするのはお前の数ある欠点の中の一つだぞ」
サラはかっとなり言い返す。
「あなたは文句ばかりで手伝おうとする気はないのですか!?」
「ぐふ、この装備で厨房に入れば邪魔になる。そのくらい気付け」
「魔装具を脱げばいいだけでしょうが!」
サラの言葉にヴィヴィが怒りを露わにする。
「ぐふ!ふざけるな!それでは魔装士としての役割を果たせないだろう!フェランにいた魔装具なしの偽魔装士と同じではないか!!」
「厨房で魔装士が役に立つことなんてないわ!」
「ぐふ、だからここで待機している」
「……」
サラはどっと疲れた。
この料理対決は圧倒的にリオが不利だ。
リオに創意工夫はない。
ただレシピ通りに作るだけだ。
100点のものは100点に。
70点のものは70点になるだけだ。
そもそもリオは味覚音痴なので改良しようがない。
もちろん、サラ達が協力すれば可能かもしれなかったがそこまでして勝ちたいという気持ちがリオにはなかった。
それに女料理人はこの郷土料理のことを知っているだけでなく、勝負相手のリオが使用する食材も全て知っている。
リオが何がなんでも勝つ気なら食材を女料理人が用意すると言った時に拒否しただろう。
さて、料理対決の結果だが点数は同数となり引き分けに終わった。
女料理人もリオに指摘されたホッカの実を隠し味に使ってきていた。
両者の味は全く同じではなかったが双方どちらも甲乙つけ難いとなったのだった。
リオは引き分けただけでも上出来だろう。
試合後、サラがリオに素朴な質問をする。
「何故試合を受けたのですか?」
リオはどうでもいいように答えた。
「俺に変化が起きるかもしれないと思ったからだ」
納得できるようなできないような答えであった。
「結局、なんの変化もなかったが」
リオはそう付け加えた。




