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749話 料理対決は突然に

 女料理人は必死に謝る店主にもう一発ぶち込むつもりであった。

 いや、一発と言わず何発も。

 それに気づいたアリスがサラに言った。

 

「サラさんっ、止めた方がよくないですかっ?あの人はともかくっ、巻き添いで死者が出るかもしれませんよっ」

「そうですね」


 二人の会話を耳にした女料理人の動きがぴたりと止まった。

 

「……サラ?」

「はい?」


 女料理人が返事したサラを改めてマジマジと見た。

 サラは嫌な予感がした。

 女料理人はそのあとサラと同じテーブルに座っているリオ達を見てからサラに尋ねた。


「……あんたら、もしかしてリサヴィかい?」

「はあ、まあ」


 サラはあまり知られたくなかったが嘘もつきたくないので仕方なく正直に答えた。

 サラの言葉に店にいた者達が驚きの声を上げた。

 単純に驚く者達がいる一方、「やっぱりそうじゃないかと思ってたぜ!」とリサヴィであることを薄々勘付いている者達もいた。

 サラ達がリサヴィだと知り、あからさまに気を引こうとする者達が現れた。

 その者達は腕を組んで仁王立ちしてキメ顔でサラ達を見つめる。

 彼らは店主にノックアウトされたクズ冒険者達と醜い言い争いをしていたクズ冒険者達であった。

 残念ながら彼らお得意のクッズポーズは逆効果であった。

 サラ達は彼らに気づかないフリをする。

 これ以上、クズと関わるのは御免であった。

 女料理人は倒れたクズ冒険者達を再度見て納得顔で何度も頷く。


「……そういうことだったのかい。流石、鉄拳制裁の二つ名は伊達じゃないってわけだね」

「は?」


 どうやら女料理人はサラがクズ冒険者全員をのしたと勘違いしたようだ。


「あのちょっと何か勘違……」

「流石だったよ!マイハニー!」


 店主は女料理人の勘違いに飛び乗った。


「噂通りクズを放っておけなかったみたいなんだ!」

「おいこ……」


 店主が女料理人から見えないようにして泣きそうな顔で「話を合わせて下さい」と目をパチパチしてサラだけでなく客達にも合図する。

 相当女料理人が怖いらしい。

 いや、怖いのではなく嫌われたくないようだ。


「悪かったね。早とちりでぶっ飛ばしちまってさ」

「全然だよ!愛を感じたからさ!」


 サラは全く納得がいかないが、サラの気持ちとは裏腹にサラがやったことで話が収束していく。

 ヴィヴィとアリスも店主の筋書きに乗ってきたからだ。

 アリスは店主に同情したからだがヴィヴィは面白そうだからである。

 そして、店の客達も店主に同情したのか話を合わせてきた。

 こうしてサラがクズ冒険者達をぶっ飛ばしたことになったのである!


「おいこら」


 ちなみにリオは我関せずと一人黙々と食事を続けていた。



 冒険者ギルドからギルド警備員がやって来た。

 食い逃げ現行犯達の変形したあほ面を見てギルド警備員達はちょっと驚いたものの既に事情を知っているようで何も質問することなく彼らを引きずって行った。

 彼らは既に数々のクズ行為を行ったことがバレているクズ冒険者である。

 今回の食い逃げ、ツケの踏み倒し、脅迫及び暴行(未遂)を起こして流石に所属解除や降格だけで済むはずがなく冒険者ギルドを退会することになるだろう。



 話は万事解決(サラを除く)したかに思えた。

 その時だった。

 黙々と食事を続けていたリオが口を開いた。


「おい、この料理はお前が作ったのか?」


 女料理人がリオに笑顔を向ける。


「ああ、そうだよ。うまいだろ。うちの郷土料理さ」


 そう言った女料理人の顔は誇らしげだった。

 しかし、次にリオが発した言葉は彼女の期待したものではなかった。


「これ失敗作だろ」

「……なんだって?」


 ムッとする女料理人だがそれ以上に腹を立てた者がいた。

 ガッチリした体格の店主だ。


「マイハニーを馬鹿にするんじゃねえ!」


 殴りかかって来た店主の拳をリオは「クズとは違うのだよクズとは!」とでもいうかのようにすっとかわした。

 それだけで終わらず、カウンター気味に店主の顎下あたりに肘打ちする。

 店主は脳を揺らされ平行感覚を失い、その場にがくっと片膝をつく。

 それを見て女料理人が叫んだ言葉は夫を気遣うものではなかった。


「あんたやるじゃないか!」


 女料理人が好戦的な目をリオに向ける。

 夫の敵討ちをしたいというのではなく、好敵手に出会えて喜んでいる顔であった。

 ヴィヴィがぼそりと呟く。


「ぐふ、好戦的な夫婦だな」

「どこが傭兵復帰無理なのでしょう」

「ですねっ」


 女料理人は無意識にファイティングポーズをとりながらリオに尋ねる。


「今のは狙ったのかい?」

「さあな」

「ふふっ。安易に手の内は明かさないってわけかい」

「そんなことよりこっちだ」


 リオはそう言ってスープを指差す。


「これ、隠し味が入ってないだろ」

「……なんだって?」


 女料理人はファイティングポーズを解くとリオが指差したスープ皿を手にとり、スプーンを使わず直接皿に口をつけて豪快に飲む。

 その野生味溢れる姿はとても似合っていた。


「あれっスープを介した間接キスっ!?」


 ちょっとズレたことを叫んだアリスをみんなスルーした。

 スープを飲み終えた女料理人がリオを見た。


「何が足りないって言うんだい?言ってみな」

「ホッカの実だ」


 リオが即答した食材の名に女料理人は心底驚いた表情をする。


「……なんでそう思ったんだい?」

「昔食べたことがある」

「……そうかい」


 そこで女料理人がニヤリと笑った。


「あんたは確か、リオ、だったね」

「ああ」


 女料理人はリサヴィのメンバーの名前全員知っているようだった。

 傭兵に復帰した際の肩慣らし相手の候補と考えていたのかもしれない。


「そこまで料理に自信があるんなら料理対決と行こうじゃないか!」

「ん?」


 リオは首を傾げる。

 リオでなくても首を傾げただろう。


「なんでそうなるのですか?」


 リオの代わりに尋ねたサラを女料理人はスルー。


「あんた、その料理を作ってみせな!あんたのほうがうまかったら認めてやるよ!そんでサラがぶち壊したテーブルその他諸々もチャラにしてあげるよ!」

「おいこら!それはあなた達が……」


 やり取りを見ていた客達が「やれやれ!」叫び、サラの言葉を打ち消した。

 その中で冷静に疑問を口にする者がいた。


「でもよ、リオって料理できんのか?」

「リオさんはっ料理もうまいんですよっ!」


 そう言ったアリスの顔は自分のことのように誇らしげであった。

 こうして突如料理対決が行われることになったのである!


「なにこれ……」

「ぐふ、『なにこれ』ではないだろう。お前の尻拭いをリオがするんだ。感謝したらどうだ」

「どこがよ!?」



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