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748話 実はこう見えて

 クズ冒険者達の愚行に見かねたサラが店主に提案する。


「もう衛兵を呼んだほうがいいですよ……いえ、相手は冒険者ですから冒険者ギルドの方がいいですかね」

「そうですね」


 この言葉を聞き、かっとしたクズ冒険者が言ってはいけない事を口にする。


「ざけんな!大体あんなクソまずい飯で金取るってか!?あん!?」

「逆にこっちが金貰いてえくれえだ!」

「だな!」


 クズ冒険者達が「がははは!」と笑っている間、店主は下を向き、ガッチリした体を震わせていた。

 それをクズ冒険者達は泣いていると思い、性格の歪んでいる彼らは笑顔でその顔を覗き込もうとするがその前に彼の震えが止まり顔を上げた。

 その顔は悪鬼の如き表情をしていた。

 今までのオドオドした表情よりよほど似合っていた。


「クズ冒険者ども、言いたい放題言ってくれたなあ、おい」


 その体格に相応しいドスの利いた声と言葉使いだった。


「「「「ざけんな!誰がクズ冒険者だ!?誰が!?」」」」

「お前らだお前ら!俺の愛するマイハニーが作った料理を馬鹿にするとは許せん!特にてめえらのようなクズがな!!」

「「「「ざけんな!!」」」」


 クズ冒険者達はクズクズ言われ、怒りに我を忘れて店内だというのに武器を手にする。


「俺ら誇り高き冒険者を馬鹿にしてどうなるかわかってんだろうな!あん!?」

「このボロ店をぶっ壊してもいいんだぞ!」


 もはや冒険者ではなく、ごろつきの類であった。

 彼らの言葉に店主が完全に切れた。


「そんなことさせるかクズどもーっ!!」

「「「「ざけんなーっ!!」」」」


 クズ冒険者達がガッチリした体格の店主に襲いかかる。

 しかし、


「ぐへっ!?」


 ガッチリした体格の店主はクズリーダー渾身の一撃をあっさり、本当にあっさりとかわすとカウンター気味の鉄拳をクズリーダーの顎に叩き込んだ。

 その顎を容易に砕きそのまま吹き飛ばす。

 顔を(不可逆に)変形させたクズリーダーの体が豪快にぶっ飛ぶ。

 その先にあったテーブルや椅子をぶち壊し料理を散乱させる。

 被害を受けたのは物だけではない。

 そのテーブルにいた客も巻き添いを食い悲鳴を上げる。


「うおおおおおお!!」


 店主は何かのスイッチが入ったかのように雄叫びを上げながら次々とクズ冒険者達に鉄拳を喰らわせる。


「なばっ!?」

「ちょ、ちょばっ!?」

「待てまばっ!?」


 数秒でクズ冒険者達は全員地に伏した。

 ついでにいくつものテーブルや椅子が壊れ、料理も派手に飛び散った。

 大惨事であった。

 幸い、この店にいたのは冒険者ばかりで巻き添いになった者達は怪我をしたものの重傷者はいなかった。


「これだけ痛い目を見れば二度と食い逃げしようなんて思わねえだろ!あん!?」


 あほ面晒して気絶したクズ冒険者達を見ながらヴィヴィが呟く。


「……ぐふ。思うも何もあれでは何も食えんだろう」


 ヴィヴィの言う通りクズ冒険者達は全員店主の鉄拳で顎を砕かれ物を食べられる状態ではなかった。

 店主はまだ殴り足りないのか肩を回しながら笑顔をサラ達に向けて言った。


「クズどもが迷惑かけて悪かったな!」

「いえ、私達は大丈夫ですが店が酷いことになりましたね」


「主にあなたがやったんですが」とサラは心の中で付け加える。


「ったくあのクズどもひでえことしやがるぜ!」

「そーですねー」


 サラの言葉はクズ冒険者達の茶番劇並みに下手くそな棒読みだったが店主は気づかなかったようだ。


「ワハハっしゃあねえ!クズどもからツケ共々ぶんどるだけだ!」

「そーですかー」

「実は俺よ、こう見えて昔、冒険者だったんだ」

「いえ、見た目通りです」


 サラは真顔で即答した。



「一体何事だい!?」


 騒ぎを聞きつけて厨房からこれまた店主に負けず劣らずのガッチリした体格の女性が現れた。

 あほ面晒して気絶した冒険者達や派手に壊れたテーブルに椅子、更には床にぶちまけられた料理を見て驚いた表情をする。

 彼女の様子を見た店主がはっとなり、正気に戻る。

 その女性、女料理人が店主を睨みつける。


「あんたまさか私との約束破って暴れたんじゃないだろうね!?」

「ち、違うんだマイハニー!」


 ガッチリした体格の男が体を丸めて怯える姿はシュールであった。

 先程大暴れした者と同一人物とはとても思えない。


「お黙り!!」


 女料理人が店主との距離を一瞬で詰め、店主をブン殴った。

 店主がぶっ飛びまたもテーブルが派手に壊れ、料理が散らばる。

 幸いそこのテーブルにいた客達は避難していたので人的被害は店主のみであった。

 女料理人はハッと我に返り、済まなそうな顔をサラ達に向けて言った。


「脅かして済まないね。実は私、こう見えて元傭兵なんだよ」

「いえ、見た目通りです」


 サラは真顔で即答した。

 しかし、女料理人はサラの言葉を何故か冗談だと思ったようだ。


「話を合わせなくていいんだよ。傭兵やめてしばらく経つからね。ほらっ三キロほど痩せちまってさ」

「そう言われても以前のあなたを知りませんので」

「あははっ確かにねっ」

「その体でそれは誤差……いえっ、なんでもないですっ」


 アリスは女料理人に睨まれ慌てて言葉を取り消す。

 女料理人はまだか弱い女性を演じたいようだった。


「これじゃあ流石に現役復帰は無理だと思うのよね」

「いえ、全然まだまだ行けますよ。今からでも」


 サラは真顔で即答した。

 しかし、今回もサラの真意は伝わらなかった。


「優しいねあんた。そんなお世辞言ってくれてさ。本気にしちゃうじゃないの」

「本気で言ってますが」


 サラは真顔で即答した。

 だが、女料理人は今回も冗談だと思ったようだった。



 二人が会話しているところに店主が近づいてきた。

 ぶっ飛ばされた割にダメージはほとんど残っていないようだった。

 女料理人が彼に気付き睨みつけると彼はガッチリした体を縮めて謝罪する。


「ごめんよマイハニー」

「謝りゃ済むってもんじゃないんだよ!どうすんだいこんなに店を滅茶苦茶にして!!」


 その言葉に店内がしん、となる。


「あなたもその一人ですよ」


 と指摘する者は誰もいない。

 夫婦喧嘩の巻き添えを食って死にたくないと思ったからである。

 その中にはサラ達も含まれていた。

 流石に死ぬとは思っていなかったがこれ以上余計なことに巻き込まれたくなかったのだ。


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