747話 ツケを払うな、とク頭脳が言っている
言い争いをする二組のクズパーティ。
もはや武力で解決するしかないところまで行きそうな雰囲気であったがガッチリした体格の男がリサヴィのテーブルにやってきたことによって醜い争いは中断される。
クズリーダーがその男を睨みつけながら言った。
「なんだてめえ!?貴様もこのパーティに入りたいってか!?ダメだダメだ!打ち止めだ!」
「そうだぞ!」
「他を当たりやがれ!」
その男は見かけによらず小心者のようで体格に似合わぬ小声で否定する。
「いえ、私はこの店の主人です」
「あん!?ここのだと!?」
「はい」
言われてみれば彼はそのような服装をしていた。
だが、服のサイズが合っておらずピチピチで違和感ありまくりだったので初見では気づかなかった。
それにクズ冒険者達はこの店の主人をよく知っていた。
というか飲み食いを強引にツケにしていた。
事実上タダ飯である。
つまり、カモにしていたのだ。
「嘘つけ!前のジジイはどうした!?」
「はあ。それが腰を痛めましてね。もう歳でもありましたので店を畳むというので、じゃあという事で私ども夫婦にこの店を譲って頂いたのです」
クズ冒険者達は強気に出ていたものの、内心ではこのガッチリした体格の新店主にビビっていた。
しかし、彼の腰があまりに低いため見掛け倒しだと判断しでかい態度に出る。
「自己紹介はもう済んだだろ。どっか行け!」
「こっちは忙しいんだ!」
「いえいえ。用件はこれからです」
そう言った後で彼らのパーティ名を確認する。
「間違いないですよね?」
「ああ、そうだ」
クズリーダーが偉そうに頷く。
「で用件はなんだ?さっさと言え!こっちは忙しいんだ!」
「はい。盗み聞きするつもりはなかったんですが声が大きくて聞こえてしまったんですけど、皆さんはパーティを解散するそうですね?」
「それがどうした!?」
「はい。そうしますと皆さんバラバラになるかもってことなので今までのツケをまとめて払って頂こうと思いまして」
「「「「……」」」」
クズリーダーは店主が代わったことこれ幸いと「今までのツケを踏み倒せ!」と瞬時に“ク頭脳”が叩き出し、それに喜んで従う。
「そんなものはねえ!」
「はい?」
困惑する店主をよそに他のメンバーもリーダーに倣い「ツケなどない!」と言い張る。
その様子を見てガッチリした体格の割に気が弱そうな店主が困惑した表情で言った。
「では取り敢えず今日の代金だけでも頂きましょうか」
「「「「……」」」」
「いやあ、皆さんが同時に席を立った時は食い逃げするんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ」
「そんなわけあるか!」
「俺達は誇り高き冒険者だぞ!」
「「「だな!」」」
「それを聞いて安心しました」
ガッチリした体格の店主が彼らに向かって手を差し出し代金を要求する。
クズリーダーがその手をちらりと見てからとんでもない言葉を口にする。
「俺はこのパーティに入るから俺が食った分はこいつらから貰え」
「……は?」
店主が首を傾げている間に他のメンバーも続く。
「俺もだ。俺もこのパーティに入るからな」
「俺もな」
「俺もだ」
店主がサラの顔を見る。
サラは迷うことなく即答した。
「そんなわけないでしょ」
「ですよねえ」
店主が何度も頷く。
店主の態度に彼らは腹を立てる。
「何が『ですよねえ』だ!?」
「納得してんじゃねーよ!」
「そんなことよりお代をお願いします」
クズリーダーは店主に文句を言おうとしたが、いい考えが浮かびニヤリと笑って言った。
「お前頑張れよ」
「……はい?」
店主はクズリーダーの言っている意味がわからず首を傾げる。
「払って欲しいんだろ?ならお前がこいつらを説得しろ。俺をパーティに入れるようにな。安心しろ。俺の力はホンモンだ!」
そう言ったクズリーダーだけでなく残り三人も腕を組んで仁王立ちしてキメ顔を店主に向ける。
しかし、どうしたことでしょう!?
店主は全く安心しませんでした!
「……もしかして本当に食い逃げする気ですか?」
「「「「ざけんな!!」」」」
「俺ら誇り高き冒険者を馬鹿にすんのか!?あんっ!?」
脅しとも取れる態度を見せるクズ冒険者達だが店主は全く動じなかった。
少しずつ店主の反応が変化していることにクズ冒険者達は気づかない。
「では払って頂けるのですね?」
店主の問いにクズ冒険者達は揃って叫んだ。
「「「「こいつらがな!」」」」
そう言ってリサヴィを指差した。
それを見てサラが思わず呟く。
「……ダメだこりゃ」
「ですねっ」
アリスが同意した。
ガッチリした体格の店主が彼らの態度を見て頷く。
「……なるほど」
店主の発した言葉をクズ冒険者達は自分達の都合の良い方へ考える。
「やっとわかったか!」
「頭弱すぎんぞ!」
クズは調子に乗ると際限がない。
もうツケを踏み倒した気でいるクズ冒険者達は気分が良く店主の悪口を言いまくる。
彼らは人を貶めるのが大好きである。
夢中になりすぎて店主の変化に相変わらず気づかない。
店主は彼らの暴言を聞き流して確認する。
「つまり、今日の分も食い逃げするってことですね」
「「「「ざけんな!!」」」」
「俺らは誇り高き冒険者だぞ!」
そう言うものの誰も金を出そうとしなかった。




