746話 方向性の違いに気づいたパーティ その2
サラは彼らの態度から自分達がリサヴィだと気づいてやって来たわけではないと察する。
では何故戦士が三人もいる(実際には戦士はリオ一人で残りは神官だが)このパーティを選んだかはその顔を見れば明らかだった。
皆一様に鼻の下を思いっきり伸ばしてサラとアリスを見ていた。
いや、一人リオにも好色そうな目を向けるものがいた。
彼は両刀のようであった。
それはともかく、サラは面倒くさそうなのを顔にも態度にも隠さず言った。
「気になっていることがあるのですが」
「おう!なんでも聞いてくれ!だが、細かいことはパーティに入ってからだぞ!」
「「「だな!」」」
「冗談は置いておいて」
「「「「おいおい」」」」
「先ほどパーティを抜けたと言いましたが」
「「「「おう!」」」」
「今決まったのでしょう。パーティ脱退の手続きは済んでいないはずですが」
サラの問いに彼らの一人が堂々と答えた。
「安心しろ。お前らのパーティに入ることが決まり次第抜けるからよ」
「「「だな!」」」
「……」
彼らはこれまでの者達とは違い計画性があるようだった。
パーティ入りが失敗したときのことも考えていたのである!
例えるなら転職先を決めてから今の職場に辞表を出すようなものだ。
しかし、どうしたことでしょう!?
サラ達の心を全く打ちませんでした。
サラが更に疑問を口にする。
「そもそもあなた達四人ともパーティを抜けると言いましたが、あなた達の中にリーダーはいないのですか?」
「リーダーは俺だ!」
そう返事したクズリーダーの顔は何故かうれしそうだった。
サラは彼が何故嬉しそうなのかわからない。
が、すぐその理由を彼ら自身が説明する。
「ちょっと待てよ!まさかリーダーを選ぶ気かよ!?」
何故か今の質問でこのパーティのリーダーをリサヴィに入れるとサラが考えていると思ったようだ。
「もう決まったことだ。諦めろって」
クズリーダーが勝ち誇った顔でメンバーを諦めさせようとする。
もちろん彼らは納得しない。
サラは彼らが争う姿を冷ややかな目で見ながら言った。
「どうしてそんな勘違いをするのか理解出来ませんが、私はただあなたのパーティなのにあなたが抜けるというのはおかしいと言いたかっただけです」
サラの指摘にクズリーダー以外が大喜びする。
自分達に可能性があると思ってしまったようだ。
ポジティブシンキング過ぎる者達であった。
ただ一人候補から外れた?クズリーダーだが、このポジティブシンキング揃いのメンバーをまとめていたリーダーだけあり、その顔に焦りはない。
「なるほどな」
「『なるほどな』ではありません」
なんか偉そうに頷いたクズリーダーにサラが素早く突っ込んだ。
クズリーダーはサラの突っ込みに気づかず満面の笑みで言った。
「よしっわかった!じゃあお前らが俺のパーティに入れ!」
「は?」
サラがアホを見る目でクズリーダーを見るが彼はそれに気づかなかったようだ。
「問題解決だ!よしっ決まったな!がはは!!」
すかさず他のメンバーがクズリーダーに文句を言う。
「卑怯だぞ!」
「なら俺も残るぜ!」
「俺もだ!」
「もちろん俺もな!」
「おいおい。何今更勝手なこと言ってやがんだ」
そう言ったクズリーダーは勝ち誇った顔をしていた。
クズ冒険者達が言い合いをしている中でサラは少し焦り始めていた。
このクズ冒険者達とあまり長く話しているとまたリオが“肉盾にする“とか言い出すのではないかと思ったのだ。
ちらりとリオの様子を窺うと話には無関心のようで食事に集中しているように見える。
ほっとしたものの何か違和感を覚えているとリオが少し首を傾げた。
そこでサラは違和感の正体に気づいた。
リオは味覚音痴のはずだった。
そのリオが食事を味わっているように見える。
そして今、首を傾げたのは一体何に対してなのか?
サラはそちらが気になった。
それでクズとの無駄話を切り上げることにした。
「もう充分です。全員どっか行ってください」
サラはしっしっ、と羽虫を追い払うような仕草も付け加える。
当然、クズ冒険者達は怒り出す。
激おこだった。
サラは心底面倒臭そうな顔をして言った。
「大体、何故私達のところに来たのですか?他にもパーティはあるでしょう」
サラの言葉に茶番劇をタダで鑑賞していた観客、ではなく冒険者達が慌てだす。
「ちょっと待てよ!俺達にそんなの振ってくるなよ!」
「俺んところはお断りだぞ!」
「俺達のところも戦士だか盗賊だか知らんが間に合ってるぜ!」
彼らは先程までのお気楽な表情から打って変わり真剣な表情になって彼らを拒絶する。
クズ冒険者達がサラ達のところに来た理由は性欲に、本能に従っただけではなかった。
もう一つ理由があったのだ。
それは今の冒険者達の反応を見てわかるようにこの街所属の冒険者達には彼らがクズであると知られていた。
拒絶される可能性が高いとわかっていたのでこの街で見たことのなかったサラ達のところへ来たのだ。
一応補足するとクズ冒険者達本人は自分達がクズだとは思っていない。
勘違いされるだけだと思っていた。
ギルドから依頼制限されて尚、その考えは変わっていなかった。
更に別のパーティも彼らを拒絶した。
「俺らのところも絶対お断りだ!」
クズ冒険者達はそう言ったパーティを睨みつけて叫ぶ。
「俺らもお前らのパーティなんかお断りだ!」
「「「だな!」」」
その言葉を聞いたそのパーティはクズ冒険者達のターゲットから外れているとわかりほっとするかと思いきや怒りだした。
クズ冒険者達に見下されたことが許せなかったようだ。
「お前らの誰一人入れる気はないがお前らごときに馬鹿にされるのは許せん!!」
「黙れ!クズパーティが!」
「ざけんな!それはお前らだ!」
互いに相手がクズだと認識していたが、自分達自身はクズだとは思っておらず醜い言い争いが始まった。
彼らのことを知っているまともな冒険者達からすればどちらもクズで五十歩百歩であった。




