745話 方向性の違いに気づいたパーティ その1
街を出てしばらく経ってアリスが後ろをチラリと振り返ってから言った。
「わたし達のっ後をついて来る人達はいないみたいですねっ」
「ぐふ、あの場には他にも茶番劇を観てほしそうな奴らがいたようだが諦めたみたいだな」
「リオさんの脅しが効いたんですねっ」
「ぐふぐふ」
アリスが本気でそう思っているかはともかく、サラはリオのあれを脅しだとは思っていなかった。
本気で言ったと思っていた。
それはともかく、しばらくはクズ冒険者達に悩まされる事はなさそうであった。
そう、あくまでもしばらくは、である。
街が違えばクズも違う。
リサヴィは新たなクズとの出会いを求めて次の街へ向かうのであった!
いや、違った。
カルハンへの旅を続けるのだった。
ある酒場で四人組のパーティが今後のことについて話していた。
そこで彼らは方向性の違いに気づいたように見える。
意見がまとまらず議論は白熱し酒場の客達の注目を浴びるほどであった。
やがて彼らの間に決定的な亀裂が走った。
四人が同時にテーブルをバン!と叩いて立ち上がった。
そして叫んだ。
「「「「抜けさせてもらう!」」」」
彼らはそのテーブルを中心にして四方へ散っていく。
が、この酒場の出口は四つもない。
バラバラに分かれたところで結局向かう先は同じだ。
実際、彼らは方向変えて一方向にまとまった。
しかし、彼らが向かった先は出口ではなかった。
彼らが向かった先は、……まあ言うまでもないと思うがリサヴィのテーブルだった。
そうなることをサラ達も予測していた。
彼らがこちらに向けるねちっこい視線を何度も感じていたからだ。
先に彼らは方向性について議論していると述べたがその中で何故か所々で自分をアピールする発言が飛び出していた。
指揮能力が高い、盗賊スキルが高い、勇敢だ、全てを平均以上にこなせる、などなど。
実は彼らの目的はパーティの方向性をまとめることではなかった。
そもそも彼らはパーティを解散する気だったのだ。
何故か?
はっきり言おう。
彼らはクズであった。
クズ冒険者であった。
彼らは数々のクズ行為が露見し、この街の冒険者ギルド所属にも拘らず受けられる依頼を制限されていた。
所属ギルドに依頼制限されるのはよっぽどのことであり、自主的に所属解除するよう遠回しに迫られているのと同じだ。
彼らはその処遇に怒り、得意のクズロジックを用いて反論するが言うまでもなく逆効果だった。
その場で所属解除されそうになり、慌ててギルドから逃げて行ったのである。
彼らはこの絶体絶命の状況を打破するにはパーティを解散して各々が別パーティに入った方がいいとの結論に達した。
ちなみに「心を入れ替えて信用を取り戻す努力をしようぜ!」と考える者は一人もいなかった。
彼らは自画自賛し、どこかのパーティが引き抜きに来るのを待っていたがどこからも声がかかることはなかった。
やがて、方向性云々の話はすっかり陰を潜め、アピール合戦になった。
しかし、やはり彼らに声をかける者は一人もいなかった。
そこで彼らは互いに目配せし、最後の手段を取ることを確認し合う。
こちらから売り込みに行こうというのである。
彼らはその酒場にいる冒険者達の品定めが終わり、行動を起こしたのだった。
「おい」
彼らの一人が偉そうな態度で声をかけて来た。
誰も返事しないのでサラが仕方なく対応する。
「なにか?」
「聞こえてたと思うがよ、俺は今のパーティを抜けてきたところでな。どうだ、俺をお前らのパーティに入れてくれないか?」
「必要ありま……」
サラが最後まで言葉を口にする前に彼は言葉を重ねて来た。
「よしっ決まったな!」
「……」
満面の笑みを浮かべる彼に抗議するのはサラではなかった。
同時にやってきた残りの三人だ。
「何勝手なこと言ってんだ!?このパーティは俺が最初に目をつけたんだぞ!」
「それはお前の思い込みだ!俺の方が早かったぞ!」
「俺だ俺!」
リサヴィのテーブルの前で言い争いを始める冒険者達。
「見ての通りメンバーは揃っています。わかったら……」
またもサラの言葉を遮り彼らの一人が言った。
「待て待て!見たところお前らのパーティには盗賊がいないだろ!」
「……」
「図星だな!」
彼は満面の笑みを浮かべる。
「俺はな、自慢だが優れた盗賊だ!Cランクのな!」
「ぐふ、初めて聞いたな。『自慢だが』と言う奴」
思わずヴィヴィが突っ込むが、彼には聞こえなかったようだ。
彼に遅れをとるものかと残りの三人が次々に口を開く。
「俺はクラスは戦士だが盗賊としての腕にも自信がある!」
「俺もな!」
「俺も俺も!」
彼らの言葉を聞き、最初に盗賊だと言った者が叫ぶ。
「おいおい!嘘つくんじゃねえよ!お前らが俺の代わりをやったことなんてないだろう!あ、だがな!俺は戦士としても優秀だぜ!」
クズ盗賊はすかさず戦士としてもやれるとアピールをする。
彼らの言葉を信じるならば全員が戦士兼盗賊のようであった。




