744話 劇場型コバンザメ
素材を売り払ったリオ達はその足でこの街を出る予定であった。
サラはリサヴィだと多くの者達に知られてしまったのでこれ以上ゴタゴタに巻き込まれないうちにさっさと街を出たかった。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「待ちやがれ!!」
突然、リオ達の前に一組のパーティが立ち塞がった。
「お前ら!よくも俺らの可愛い後輩達をボコってくれたな!」
彼らの後輩とやらだが、先程ギルドに連行されていったクズ達はボコっていないので彼らのことではないだろう。
サラが代表して疑問を口にする。
「ちょっと何を言ってるのか分かりません」
「しらばっくれるな!」
ヴィヴィが面倒臭そうな顔をして、と言ってもその顔は仮面で見えないが、彼らに言った。
「ぐふ、どれのことを言っているのかわからないがクズだったのだろう」
「「「ざけんな!」」」
リーダーがきっとリサヴィを指差して宣言する。
「ここでその罪を償わせてやるぞ!」
リーダーが剣を抜くのに呼応してメンバーも武器を手にした。
その時である。
「待て待てーっ!!」
見知らぬ一組のパーティが間に割って入ってきた。
そのパーティのリーダーがサラにキメ顔をして言った。
「大丈夫かリサヴィ!!」
「「「「……」」」」
「ここはお前らの大親友である俺らに任せてくれ!」
「「「「……」」」」
彼らはリサヴィの大親友らしいのだが、サラ達は彼らのことを誰一人として知らない。
サラ達を置き去りにして話は勝手に進む。
「リサヴィに手を出すって言うならまずは俺らが相手に……!?」
そこで自称リサヴィの大親友パーティのリーダーの言葉が止まり驚きの表情になる。
それは相手のいちゃもんパーティも同様だった。
どうやらこの二組は知り合いだったようだ。
「なんでお前らが俺らの大親友のリサヴィに喧嘩なんか売るんだ!?」
「そいつらはお前らの知り合いなのか!?」
「そうだ!俺らの大親友のリサヴィだ!」
自称リサヴィの大親友パーティのリーダーは何度も“大親友”を連呼する。
大事なことなのでもう一度言うがサラ達は自称リサヴィの大親友パーティのことを知らない。
もしかしたらどこかで出会っており、記憶にも残らないどうでもいい話をしていたかもしれないがそんな者達のことなど大親友どころか知り合いとも呼ばないだろう。
ヴィヴィがため息をついて言った。
「ぐふ。また私達は茶番劇に巻き込まれたのか」
そう、ヴィヴィの言う通り彼らのやり取りは演劇をちょっとかじっただけのど素人のような出来で見ているほうが恥ずかしくなる代物であった。
しかし、彼ら自身はそう思っていないようで下手くそな演技をノリノリで続ける。
いちゃもんパーティは自称リサヴィの大親友パーティの説得であっさり納得し武器を納めた。
「お前らがそこまで言うなら後輩達に問題があったんだろう」
「わかってくれてよかったぜ」
自称リサヴィの大親友パーティのリーダーはそう言った後で「どんなもんだ!事態を収めてやったぞ!」とでも言うような誇らしげな表情を向ける。
言うまでもなくサラ達はスルー。
いちゃもんパーティがリサヴィに頭を下げた。
「俺らの勘違いだったようだ。すまなかったな。お詫びといっちゃなんだがよ、俺らにできることがあったらなんでも言ってくれ!」
「ぐふ、ならさっさと去れ」
ヴィヴィの言葉は彼らには届かなかったようだ。
自称リサヴィの大親友パーティが素晴らしい提案をする。
「なあサラ。こいつら“も”一緒に連れて行かないか?」
いつの間にかリサヴィは自称リサヴィの大親友パーティと一緒に行動することになっており、そこにいちゃもんパーティも加えようと言う。
「は?」
サラの呆れた声を聞き、自称リサヴィの大親友パーティのリーダーはその意味を自分に都合のいいように捉えた。
「ああ、腕が心配ってか。安心しろ。こいつらも俺らと同じで腕は確かだ。俺らが保証する!!」
そう言うとそのパーティの面々が一斉に腕を組んで仁王立ちしてキメ顔をサラ達に向けた。
いわゆるクッズポーズである。
サラはそのポーズについてはコメントせず事実だけを口にする。
「知らない人達に知らない人達の保証をされてもなんの意味もありません」
サラの言葉にいちゃもんパーティのリーダーが反応した。
「安心しろ!そいつらの腕なら俺らが保証する!!」
そう言うとそのパーティの面々も一斉に腕を組んで仁王立ちしてキメ顔をサラ達に向けた。
いわゆるクッズポーズである。
「「「「……」」」」
自称リサヴィの大親友パーティのリーダーが満足げな笑みを浮かべて言った。
「これで問題ないな!?よしっ決まったな!」
サラは言うだけ無駄な気はしたが一応口にする。
「私の話が理解できなかったようですね。私達はあなた達全員知りませんので互いを保証してもなんの意味もありません。あと、あなた達と一緒に行動することもありません」
その言葉を聞いて自称リサヴィの大親友パーティのリーダーが笑いながら言った。
「おいおい。そいつらの事は俺らが保証するって言っただろ!」
「「「「……」」」」
またもサラの言った事が理解出来なかったようだ。
いや、違う。
相手が自分達の望む回答をするまで同じ会話を繰り返すクズスキル、クズループが発動したのであった。
「あのですね……」
サラが話している途中でそれまで沈黙を保っていたリオが口を開いた。
「いいじゃないか」
「リオ!?」
サラが困惑するのと裏腹に二組のパーティが「しゃー!!」とガッツポーズをきめる。
だが、それはまだ早すぎた。
リオの言葉には続きがあったのだ。
「使い捨ての肉盾が六個手に入ったってことだろ」
「肉盾って……」
補足するといちゃもんパーティと自称リサヴィの大親友パーティのメンバーを合計すると六人である。
リオの言葉に二組のパーティが激怒する。
「てめえ!誰が肉た……」
リオを怒鳴りつけようとした自称リサヴィの大親友パーティのリーダーはリオの顔を見てそれ以上言葉を発することが出来なかった。
リオは笑っていた。
冷酷な、冷たい笑みだった。
彼らはこの時になってやっとリオの二つ名、“冷笑する狂気”を思い出した。
今、目の前に立っているリオはまさにその二つ名が示す通りの存在であった。
彼らの心は一気に恐怖で支配され、彼らの一人が「ひっ、殺されるっ!」と叫びながらその場から逃げ出した。
その言葉に反応して残りの者達も次々と逃げ出し、おもしろ半分にこのやり取りを見ていた者達も逃げ出した。
結果、その場にはリサヴィだけが取り残されることとなった。
「なんだつまらん」
リオがボソリ呟いた。




