743話 待ち伏せクズ その4
クズ冒険者達は喚きながらも”ク頭脳“をフル回転させていた。
そしてこの場を切り抜ける作戦を思いつく。
「よしっわかったぜ!男娼野郎!決闘してやる!」
クズリーダーがリオに向かってそう叫んだあとでギルド警備員の隊長に目を向ける。
「おいギルド警備員!俺らが勝ったら無実だ!解放しろよ!」
「約束だぞ!?」
「約束はちゃんと守れよ!」
隊長はクズリーダーを冷めた目で見ながら言った。
「決闘とお前らの罪は全く関係ない」
「「「ざけんな!」」」
隊長はクズ達を無視してリオに尋ねる。
「聞けば三対一の不公平な決闘をするところだったそうではないか。やらなくて正解じゃないのか?クズとはいえ相手は冒険者だぞ」
隊長の問いかけにリオより先にクズ冒険者達が反応した。
「「「だから誰がクズだ!誰が!?」」」
クズ冒険者達の抗議に隊長がすかさず言い返す。
「お前達だお前達」
「「「ざけんな!!」」」
隊長はクズ冒険者達を無視して再度リオに尋ねる。
「本当にやる気か?」
リオが不思議そうに首を傾げた。
隊長はそれを見てリオが三対一でも負けるとは思っていないとわかった。
(確かにこの者は強い。このクズ達よりも。だが三人同時だぞ?流石に……)
このやり取りをずっと見ていたギルド警備員の一人が何かに気づいたようではっとした表情になり隊長に声をかける。
「隊長!」
「ん?どうした?」
「もしかしたらこの者達は、彼らはリサヴィではありませんか!?」
「何!?」
隊長は改めてリオ達を見る。
隊長はリサヴィと会ったことがなかった。
このパーティには神官がいない(神官服を着た者がいない)し、そもそもリサヴィはフェラン周辺にいるはずであった。
そのため、その考えに至らなかったのだが言われて見れば確かにそう思えてきた。
「お前達はリサヴィなのか?そしてお前がリオ、なのか?あのブラッディクラッケンを倒したという……」
この会話はヒソヒソ話ではないのでクズ冒険者達にも当然聞こえている。
彼らはまさか死神パーティのリサヴィに、その中でも最悪の“冷笑する狂気”に決闘を申し込んだとは夢にも思っておらず顔が恐怖に歪む。
彼らは恐る恐るリオに尋ねる。
「違うよな!?な!?」
「違うと言え!」
その問いにサラが答えた。
「その通り私達はリサヴィで彼はリオです」
昨日の酒場の騒ぎでサラ達がリサヴィであると知る者達が既にいる。
下手に嘘をついてもすぐバレるのでサラはあっさり認めたのだ。
サラの返事で周りが騒ぎだす。
「やっぱりか!!」「あいつが冷笑する狂気なのか!?」と叫ぶ声が聞こえた。
サラの言葉を聞いたクズ冒険者達の顔が恐怖顔からあほ面に変化した。
リオは騒ぎを気にせず隊長に言った。
「俺が誰だろうが関係ないだろ。決闘はお前達が来る前に決まっていたんだ」
「……わかった。決闘を認めよう」
隊長が決闘を認めたが、今度はさっきまで決闘をやる気満々だったクズ冒険者達が拒否する。
駄々をこねだす。
「ざ、ざけんな!」
「そんなもんやるわけねえだろう!!」
「俺らを殺す気か!?」
「この人殺しどもめ!!」
「だな!」
その言葉を聞き、ヴィヴィが呆れた顔をして言った。
と言ってもその顔は仮面で見えないが。
「ぐふ、相変わらず意味不明なことを言う。勝負方法は元々デッドオアアライブだ。そう決めたのはお前達だぞ」
「ですねっ」
ヴィヴィの正論にクズ冒険者達が威張って反論する。
「ざけんな!よく聞けよ!俺らはな!勝てると思ったから決闘することにしたんだ!デッドオアアライブにしたんだ!!相手があの“冷笑する狂気”だと知ってたら決闘なんかすっかよ!」
「その通りだ!決闘なんか絶対しかけなかったぞ!!」
「だな!!」
クズ冒険者達が威張りながら情けない言葉を吐き出す姿を見て皆呆れた。
一度は決闘に許可を出した隊長だったが考えを変えてリオに中止を持ちかけた。
もちろん、彼らクズ冒険者達に同情したわけではない。
彼らはクズとはいえ冒険者だ。
冒険者ギルドに所属しているのだ。
彼らの醜態は彼ら個人に留まらず冒険者の醜態として世に広まるだろう。
出来るだけ早くこの騒ぎを収拾したかったのだ。
隊長がリオに決闘の中止を持ちかけるとクズ冒険者達が元気いっぱいに隊長を応援する。
隊長のこめかみには怒りマークがいくつも現れ、いつキレてもおかしくない状態であった。
サラが「後はギルドに任せましょう」とリオの説得に協力したこともあり決闘は中止になった。
リオ自身、クズ冒険者達のあまりに情けなさにやる気が失せていたこともある。
クズ冒険者達はギルド警備員達に大人しく連行されていった。
罪を認めたのではなく、この場から早く去りたかったのだ。
ここで下手に抵抗して何かの拍子に決闘が復活したら死が確定するからである。
リオ達は当初の予定通りその店で素材を売り払った。
店主にはクズ冒険者達を追い払ってくれたことをとても感謝され、少し高く買い取ってくれた。




