741話 待ち伏せクズ その2
サラは再度拒否したが今度も彼らには聞こえなかったようだ。
「具体的には六四でどうだ?もちろん六が俺らだぞ」
そう言ったクズリーダーを含め、クズメンバーの顔はなんか偉そうだった。
これが冒険者ギルドでしか買取していないとか他店の何倍もの価格で買い取ってくれるというのであれば話は別であるが、サラ達が売り払おうとしている素材はそういうものではない。
そもそもサラ達も冒険者なのだ。
彼らに仲介を頼む理由はどこを探してもない。
彼らが素材を冒険者ギルドに売りたがるのはその素材の収集依頼があることを期待してのことであろう。
何もせずに人の稼ぎをぶん取るだけでなく、あわよくば依頼報酬までも手に入れようと考えていたのである。
どう考えても彼らしか得しない話であった。
サラ達が損しかしない話であった。
しかし、彼らだけはそう思わなかったようだ。
「なっ?悪い話じゃねえだろう?」
「話になりませんね」
「「「ざけんな!!」」」
サラの返事を聞き、クズパーティが仲良く叫んだ。
サラは内心では無駄だと思いながらも会話を続ける。
「今の話のどこに私達が得することがあったのですか?」
その言葉でクズパーティの一人があっと叫んだ。
「リーダー!紹介の話が抜けてるぜ!」
「おお、そうだったな」
クズリーダーが「わりいわりい」と適当に謝罪しながらメンバーが口にした紹介とやらの説明する。
「お前らに冒険者ギルド入会の紹介状を書いてやる!」
「すぐに冒険者になれっぞ!!」
「やったな!お前ら!!」
「「「「……」」」」
紹介状が効果を持つのはCランク冒険者以上の者が書いた場合だ。
今の言葉から彼らがCランクらしいことがわかる。(間違ってもそれ以上であることはないだろう)
ただ、彼らは説明不足であった。
その紹介状では入会試験を受ける権利が得られるだけだ。
筆記、実技試験を受けて合格しなければならない。
そのことをわざと言わなかった可能性が高い。
どちらにしても既に冒険者であるサラ達には全く意味のないものであった。
気づくとその店から店員が顔を出し、困惑した表情でそのやりとりを見ていた。
それにクズ冒険者達が気づいた。
彼らはサラ達が紹介状に興味を示めさないことに苛立ちながらも交渉を終わらせるために更に好条件?を追加する。
「安心しろ!金が入ったらお前らを買ってやる!」
「「「「……」」」」
何が安心かはわからないが彼らは(も?)サラ達が体を売っていると思ったようだ。
そう言ったクズリーダーがサラ達を見ながら鼻の下を地面まで伸ばし、下半身の一部をもっこりさせる。
それにメンバーも倣った。
とてもみっともない姿であった。
誇り高き冒険者とはそんなみっともない姿を晒す者達のことを意味する言葉なのであろうか。
それはともかく、
クズリーダーが色々元気になって叫ぶ。
「よしっ決まったな!冒険者ギルドに行くぞ!」
「「おう!!」」
言うまでもないが元気いっぱいに返事したのはこのクズパーティのメンバーだけだ。
「どうぞお先に」
サラ達が道を開けるとクズパーティは交渉が成功したと思い満足げな笑みを浮かべながら歩き出し店の前があいた。
その隙にサラ達はその店に入った。
ちょっとしてからその店にクズパーティが突撃してきた。
と同時にサラ達を見つけると怒鳴りつける。
「お前ら!ざけんなよ!!」
「約束を破る気か!?あんっ!?」
「こんなボロ店に売るより冒険者ギルドに売っぱらう方が得だと散々説明してやっただろうが!」
「お前ら理解力ないのか!?」
「その頭は飾りか!?あんっ!?」
文句を吐きまくるクズ冒険者達とリサヴィとの間に店員が割り込んだ。
「本当にいい加減にしてください!」
「あんだと!?」
クズ冒険者達に睨まれた店員だが怯えながらも勇気を振り絞って注意する。
「い、今まで店の外でやっていた件もそうですが今回のこれはもうどんなに言い訳しようと明らかな営業妨害です!」
どうやら彼らはこれまでも散々この店に迷惑をかけていたようだ。
もちろん、クズ冒険者達が素直に反省や謝罪をするわけがない。
即座に反論する。
「ざけんな!何が営業妨害だ!そっちが俺らの客を奪ったんだろうが!!なあ!」
クズリーダーがサラ達に向かって話を合わせろと目をぱちぱちして合図する。
これがサラ達でなければぽかん、としてしまうところだ。
一般常識を持つ者には彼らの行動は到底理解できないものだからだ。
しかし、サラ達はクズの相手は慣れっこであった。
サラは即答した。
「寝言は寝て言え」
「「「ざけんな!」」」
クズ冒険者達は期待した答えが返ってこなかったので激怒する。
激おこだった。
しかし、リサヴィの誰も気にしなかった。
言うことを聞かないサラ達に我慢の限界を超えたクズ冒険者達は武力で脅してくる。
「俺らが優しいうちに言うことを聞け!さもないと……わかるよな?」
そう言ってクズリーダーが腰の剣に手を伸ばす。
しかし、その行動は間違いであった。
サラ達は意図的に力を抑えているが腕の立つ者ならその強さを感じ取るはずである。
彼らはそれに気づかず自分達のほうが力が上だと思ったようだ。
それを見たリオが言った。
「時間切れだサラ」
「リオ!?」
リオは冷めた笑みを浮かべながらクズリーダーに言った。
「決闘したいんだな。なら受けてやるクズども」
「リオ!!」
「「「誰がクズだ!誰が!?」」」
サラはリオがデッドオアアライブで決闘すると確信していた。
確実にクズ三体の死体ができるとわかっているので決闘をやめさせようとリオを説得する。
しかし、肝心のクズ冒険者達にはサラの意図が正しく伝わらなかった。
彼らはリオが決闘で負けると思って止めていると思ったのだ。
リオの取り柄は顔だけで力は大したことないと思ってしまったのだ。
そこには美形であるリオに対する劣等感補正が加わっていた。
クズリーダーがリオを睨みつけながら叫んだ。
「いいだろう!決闘だ!男娼野郎!」
それでクズリーダーの言葉は終わりではなかった。
「俺達全員で相手してやる!」
クズメンバーも続く。
「正々堂々三対一で勝負だ!!」
「おう!」
彼らは情けないことを威張りながら言ったのだった。
……これが誇り高き冒険者のすることなのだろうか?
絶対違うな。
うん。




