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739話 リサヴィの遺産 その2

 ギルド職員が冷めた口調で言った。


「それはもういいですから冒険者カードを提示してください。拒否するのでしたら強硬手段に出るしかありません」

「ざけんな!そんなことしてみろ!俺らの大親友リサヴィがぜってい許さんぞ!」

「「だな!!」」


 ギルド職員が首を傾げる。


「あなた達は何を言っているのです?リサヴィの皆さんは亡くなったのでしょう?」

「「「あ……」」」

「もういいです。時間がもったいないのでお願いします」


 ギルド職員の命を受けギルド警備員達がクズ冒険者達を捕らえにかかる。


「「「ちょ、ちょ待てよ!?」」」


 もちろん、ギルド警備員達が止まる事はなく、彼らはあっさり捕まり武装を解除され冒険者カードも取り上げられた。


「ど、泥棒が!」

「返しやがれ!!」

「こんなことしてタダで済むと思ってんのか!?あん!?」

「タダで済まないのはあなた方です。リサヴィの財産を騙し取ろうとしたことに加えてこれまでの冒険者らしからぬ恥晒しな言動。冒険者ギルド退会を覚悟してください」


 その言葉にクズ冒険者達が悲鳴を上げる。


「ちょ、ちょ待てよ!」

「じょ、冗談だったんだ!」

「冗談では済みません」


 しかし、クズ冒険者達は諦めが悪かった。

 「まだ終わらんよ!」と“ク頭脳”をフル回転させる。


「テ、テスト……そう!テストだったんだ!」

「なんのですか?」

「最近クズ冒険者が増えてるって言うだろっ?だからよっ、受付嬢がよ、クズ冒険者の嘘に引っかからないか俺らがクズ冒険者の“フリして”テストしてやったんだ!」

「そうでしたか」

「「「おう!」」」

「なら合格ですね。見事本物のクズ冒険者達の嘘に引っかかりませんでしたから」

「「「誰が本物のクズだ!誰が!?」」」

「それはもういいです」


 ギルド警備員達に連行されるクズ冒険者達だが、「俺らクズの力はこんなものではない!!」とでも言うように必死に抵抗する。


「信じてくれよ!確かに証拠は持ってねえがリサヴィはホントによ!死んだんだ!!」

「これは変えようのねえ事実なんだぞ!!」


 クズ冒険者達が卑屈な笑みをギルド職員に向ける。

 ギルド警備員はその情けない姿を見ながら淡々と言った。


「どこでその噂を耳にしたかは知りませんがリサヴィの皆さんの生存は確認できております」

「「「へ……?」」」


 ギルド職員のその言葉を聞いてクズ冒険者達が訳のわからないことを喚き出す。


「あいつら!死んだように見せかけて俺らを騙しやがった!」

「奴らこそ嘘つきだ!」

「奴らが罰を受けるべきだ!そう思うだろ!?」

「「「おう!!」」」


 最後の問いかけに「おう!!」と答えた者達だが、問いかけた者も含めて彼ら自身が叫んだものだ。

 

「よしっ!俺らもリサヴィの野郎を捕まえるのに手を貸してやるぜ!」

「だから装備と冒険者カード返せ!」

「急げよ!」


 彼らは今すぐ出かける気満々であったが残念ながら誰も彼らの話を聞いていなかった。

 ギルド警備員達は必死に抵抗するクズ冒険者達をギルドの地下にある牢屋へ連行していくのであった。



 ところで、何故彼らはリサヴィが全滅したなどという話を持ち出したのか?

 それについて語るにはリサヴィがハイト山脈に入ったときまで遡る必要がある。

 リサヴィがハイト山脈越えをすることはヴィヴィの予想通りクズ冒険者達の知るところとなり、山道の出口で待ち伏せする者達がいた。

 四組ものパーティがである。

 彼らはローテーションを組んで出口を見張っていた。

 とは言ってもパーティ毎に交代するわけではない。

 パーティをバラけさせ、どのタイミングでリサヴィが現れても全パーティがわかるようにしたのだ。

 こうしたのは言うまでもなく抜け駆け防止である。

 彼らは話し合いをせずとも自然とそのような組分けにしたのである。

 しかし、リサヴィは現れなかった。

 十日過ぎてもリサヴィは現れなかった。

 徒歩とはいえ強パーティなら八日もあればハイト山脈越えできる。

 数々の強敵を撃破してきたリサヴィであればもっと早くてもおかしくない。

 そのうち彼らの一人がある考えに至る。

 リサヴィは力を過信し、ハイト山脈に棲息する凶悪な魔物達の前に敗れ去ったのだと。

 油断は大敵である。

 Bランクパーティが油断して格下のウォルーに敗れて全滅という話もあるのだ。

 その者はその考えを自分のパーティメンバーにのみこっそり伝えた。

 彼らはリサヴィが全滅したことを確認しに行くことは考えなかった。

 彼らの実力では生きて戻って来ることは出来ないとわかっていたのだ。

 そのクズパーティのクズリーダーはリサヴィが冒険者ギルドに預けているであろう財産を奪うことを思いついた。 

 そのことをメンバーに口止めさせ、他のパーティには「もう飽きたぜ」と偽の口実でその場から去った。

 それからまもなく他のパーティもリサヴィ全滅の考えに至り次々と去っていく。

 もちろん他のパーティに真の理由は言わない。

 そして残るは一組のパーティだけとなった。

 彼らも遅ればせながらその考えに辿り着きリサヴィの悪口を吐き始める。


「全滅するとは何事だ!!」

「ブラッディクラッケンを倒したからって調子に乗っからだ!」

「俺らの時間を無駄にしやがって!」

「危険を冒して待ってやっていたんだぞ!」

「サラの奴!趣味を優先せず実力で判断して俺を勇者に選んどけばこんなとこで死なずに済んだのによ!」

「アリエッタもそうだ!俺はお前でも勇者になってやったんだぞ!」


 彼らはリサヴィのおこぼれに与ろうとしていただけなのに言いたい放題であった。


「金だってどんだけ無駄にしたと……!!」


 クズ冒険者の一人がそこまで言ってはっ、とした顔をしたかと思うとクズフェイスへシフトする。

 すぐ様他のメンバーにも彼の考えが伝わった。

 と同時に彼らはリサヴィの大親友になった。

 全滅したリサヴィの財産は大親友である自分達が手にするべきだとの考えに至る。

 彼らは急いで荷物をまとめると走り出した。

 リサヴィの財宝を掠め取るために近くの冒険者ギルドに向かったのだ。



 そのクズ冒険者達は牢屋に先客がいることに気づく。

 相手も彼らに気づくと「お前ら!?」と互いに驚いた声を上げた。

 牢屋にいたのは彼らより先に去って行った三組のクズパーティであった。

 再び四組のクズパーティが集合し、その日は牢屋で仲良く喧嘩して過ごした。

 そして次の朝。

 彼らクズ冒険者達は揃って冒険者ギルドを強制退会させられた後、街からも追放されたのであった。



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