736話 草むらのクズ
ガドターク退治の依頼を受けたパーティと出会う少し前。
リオ達はナナルの隠しダンジョンにあった転送陣を使ってその森に現れた。
「ここはどこだ?」
尋ねたリオだけでなく皆の視線がサラに集まる。
「知りません」
「ぐふ、やはりこの方向音痴に頼るのは間違いだったか」
ヴィヴィの言葉にサラはムッとして反論する。
「何を言っているんですか!?私は“あの”転送陣は使ったことがないと言ったでしょう!それにも拘らずリオが使うと言ったんです!」
「そうか」
「『そうか』ではありません!」
稀に目的と手段が入れ替わる時がある、
はずだ。
たぶん。
実際、かつてサラが特訓の場としていたナナルの隠しダンジョンに挑んだときのリサヴィがそうだった。
当初の目的はダンジョン攻略ではなく地下十階にある転送陣を利用することだった。
その転送陣を使えばエル聖王国の神殿都市ムルトに近い森へ転送されるはずだった。
リサヴィは危なげなくダンジョンを突き進み、地下十階に到達した。
しかし、地下十階はそのダンジョンの最下層ではなかった。
サラはこのダンジョンまでの道のりだけでなく、ダンジョン内でも方向音痴を発揮した。
本人曰く、
「久しぶりなので道を忘れていただけです!」
と方向音痴を否定したが誰も信じていなかった。
それはともかく、転送陣のある部屋を探しているうちに下へと続く階段が見つかった。
「せっかくだから行ってみるか」
目的と手段が入れ替わった瞬間であった。
更に地下へと進み、地下十三階で転送陣が見つかった。
サラはこの転送陣を使用したことがないので転送先を知らない。
しかし、リオは躊躇なくこの転送陣の使用を決断した。
「ぐふ、言い訳と情けない」
「どこがよ!どこが!?」
「ぐふ、冗談も通じないか。大人気ない奴だ」
「嘘つけ!反論しなければ私のせいのままにしたでしょうが!」
「ぐふ、失敬な」
「大人気ないのはあなたの方よ!いちいち絡んできて!」
アリスが仲裁に入る。
「落ち着いてくださいっ二人ともっ!」
そして余計な一言を付け加える。
「どっちもどっちですよっ……痛いですっ」
アリスは二人にどつかれ頭を押さえる。
リオはそのやりとりに全く無関心だった。
辺りを見回した後で呟く。
「まあ適当に歩けば何とかなるか」
楽観的な感想を述べると一人すたすたと歩き始めた。
それに気づき皆が従う。
「ちなみにこちらに向かったのには何か理由があるのですか?」
サラの問いにリオはどうでもいいように答えた。
「特にない」
「そうですか」
「もし、サラもこの方向がいいと思うなら変えるが」
「な……」
皆、サラが方向音痴であることを疑っていなかった。
もう十分証明していたからだ。
本人だけは認めていないが。
「ぐふ、それがいいな」
「ですねっ」
「あなた達ね……」
「それでどうなんだ?」
「知りません」
サラは不機嫌なのを隠さず答えた。
「ならこのまま真っ直ぐだな」
「……」
しばらく歩いていると前方から騒ぎ声が聞こえた。
その中に人の声も混じっていた。
「ぐふ、誰かが魔物と戦っているようだな」
「じゃあそいつらに道を聞こう」
リオがそう言って走り出し、皆が後に続いた。
こうしてガドターク退治の依頼を受けたパーティと(クズパーティに)出会ったのであった。
そして現在。
先の冒険者が言った通り森を抜けると街道があった。
街道に降りて右を向く。
「この先に街があるんだったな」
「ですねっ」
リオ達は街道を歩き出した。
「あっ、あれですねっ」
前方に街を囲う城壁が見えて来た。
先の冒険者達が言っていた街で間違いないだろう。
リオ達は前方の街道脇の草むらから姿は見えないが人の気配を感じた。
それも数人からなる集団を複数だ。
彼らから殺気は感じないがそんなところに隠れている連中である。
油断は出来ない。
ヴィヴィが彼らの行動の推測をする。
「ぐふ、さっきサラがぶっ飛ばしたクズの同類だな」
このクズとは依頼を受けた冒険者にくっついて来たクズ冒険者達のことだ。
このクズ冒険者達は顔だけはいいクズ女冒険者一人だけ街に潜ませ、依頼を受けたパーティに上手く言い寄って仲間に加わり、街を出たところでそのクズ女冒険者が属するクズパーティと合流してなし崩しにクズパーティごと共同依頼に持っていくものであった。
草むらに隠れている彼らもそのクズ冒険者達と同じくクズ仲間がカモパーティを連れてやって来るのを待っているのだとヴィヴィは推測したのだ。
草むらに隠れる必要があるのかは疑問が残るところであるが考えたら負けである。
「ぶっ飛ばしたのはあなたとリオです。ですが、彼らの正体については同意見です」
「ですねっ。でもっそこまでしてっ自分達だけで依頼をこなしたくないんですかねっ?」
「ぐふ、その実力がないのだろう」
「冒険者をやめればいいのですが」
「ぐふ、奴らはプライドだけは高いからな。冒険者を辞めるという選択はないのだろう」
「ですねっ」




