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733話 あるパーティのガドターク討伐

 ある三人組のパーティが森の中でガドタークと交戦していた。

 パーティ構成はリーダーの戦士、盗賊、そして女魔術士だ。

 彼らは冒険者養成学校の同期で順調に依頼をこなしてDランクに上がったばかりだった。

 今回、Dランクにカテゴライズされる魔物、ガドターク討伐の依頼を受けてこの森へやって来たのだ。

 彼らがガドタークと戦うのは今回が初めてではなかったが苦戦していた。

 とんとん拍子にDランクに上がったため過信があったのも否めないだろう。

 だが、彼らが苦戦している理由はそれだけではなかった。


「何やってんだ下手くそ!」

「たった二体のガドタークに苦戦すんじゃねえ!Dランクっていうのは嘘じゃねえのか!?」

「しっかりしなよっ!」


 ヤジを飛ばしているのは別の三人組のパーティだ。

 一応このパーティの構成も説明するとリーダーの戦士、女戦士、そして盗賊だ。

 彼らは戦いに参加せず少し離れたところで見物を決め込み、先ほどのようなヤジや役に立たない指示を出して戦っている者達の気を散らしていた。

 彼らに邪魔している自覚は全くない。

 それどころか適切な指示を出しているのにその通り動かないから苦戦していると思っていた。

 本気でそう思っていた。



 依頼を受けたパーティの盗賊が新たな魔物の気配に気づいた。

 すぐ近くで感じるが自身も戦闘中のためうまく場所を特定できない。

 このときになって彼はガドタークが本来の習性(一体が囮役でもう一体が姿を隠して隙を狙って襲いかかる)を思い出す。

 二体同時に現れたのに驚きはしたものの、それでもう奇襲はないと思い込んでしまったのだ。

 自分の迂闊さを呪いながら仲間に警告する。


「気をつけろ!もう一体近くにいる!」


 その声に素早く反応したのは彼のパーティではなかった。


「馬鹿野郎!近くとはどこだ!?はっきりしやがれ!」


 見学パーティは口々にその盗賊に文句を言った。

 ちなみに見学パーティの盗賊のほうがその盗賊より冒険者年数は長い。

 その豊富な経験から今は自分が盗賊としての役割を全うするより罵声を浴びせる方が優先だと判断したようで魔物の位置を調べる素振りすら見せなかった。

 女魔術士は背後に殺気を感じた。

 背後にある木を見上げると今まさにガドタークが飛びかかってくるところだった。


「きゃあ!!」


 彼女はなんとか致命傷は避けたものの、凶悪な爪の一撃を右腕に受け深い傷を負った。

 その痛みで杖を手放した。

 それを見て見学パーティが怒声を上げる。


「馬鹿野郎!なんでもっと早く気づかねえ!」

「ほんとだよ!」

「俺なら難なく回避して返り討ちにしてるとこだぞ!」


 最後に叫んだのは見学パーティの盗賊である。

 彼も隠れていたガドタークに全く気づいていなかったが、そのことを恥じる事なく堂々とした態度で怒鳴ったのである。

 先輩冒険者の鏡といえよう?



 彼らは文句を言うものの手助けする気は全くなかった。

 それどころか、形勢不利とみて逃走する準備をし始める始末であった。

 女魔術士に止めを刺すべくガドタークが迫る。

 彼女のパーティメンバーはそれに気づいたが目の前のガドタークの相手をするので精一杯で彼女を助けに行く余裕はない。

 彼らが出来ることは彼女の名を叫ぶことだけだった。



 女魔術士絶対絶命のその時、

 彼女を襲うガドタークの動きがぴたりと止まった。

 振り上げた腕が力なくだらんと下がり、その巨体がゆっくりと彼女の方へ倒れてくる。

 彼女は腕の痛みに耐えながら押し潰されないよう急いでその場から離れた。

 彼女は倒れたガドタークと目が合った。

 ガドタークの瞳孔は開いており死んでいるとわかった。

 何故?という疑問はすぐ解けた。

 ガドタークの後頭部に短剣が深々と刺さっていたのだ。



 何が起きたのかと思考停止しそうだった依頼を受けたパーティに聞き覚えのない女性の喝が飛ぶ。


「まだ戦いは終わっていません!」


 その声で我に返り、パーティメンバーは目の前の敵に集中する。

 声をかけた者は新たにこの場に現れたパーティの一人で見た目は戦士だ。

 その女は女魔術士に駆け寄ると無詠唱で魔法を発動する。

 女魔術士の怪我は一瞬で完治した。

 それだけでなく、すぐに今まで通り動く。

 彼女はその者が無詠唱で魔法を使ったことで戦士ではないと気付いた。


「あなた神官なの!?」

「ええ」

「落とし物ですよっ」

 

 別の女戦士が彼女が落とした杖を拾ってきて手渡した。


「あ、ありがとう!」


 女魔術士は倒れたガドタークの後頭部から短剣を引き抜く男戦士に礼を言う。


「あなたも助けてくれてありがとう!」


 その男戦士が女魔術士に顔を向ける。

 女魔術士はその美しさに一瞬見惚れるが、無表情で冷たい印象を受けた。

 彼はつまらなそうに言った。


「そんなのんびりしていいのか?お前の仲間死ぬぞ」

「え!?」


 その男戦士の指摘通り、彼女の依頼を受けたパーティは苦戦していた。

 女魔術士はてっきり自分を助けてくれた彼らが加勢してくれるものと思っていた。

 しかし、その思いに反して彼らは全く動く様子はなかった。

 彼女は慌ててパーティの加勢に入った。

 突然現れたそのパーティのメンバー構成だが、男戦士、戦士の格好をした女神官、女戦士、そして魔装士のようであった。

 先の女神官のこともあり、魔装士以外は見た目と違う可能性がある。

 彼らはガドタークとの戦いに参戦しなかったが、依頼を受けたパーティは彼らがいることで戦いを有利に進めることができた。

 何故か。

 それはこれまでヤジやトンチンカンな指示、そして不用意な移動をして戦いの邪魔をしていた見学パーティが彼らをナンパするのに夢中で邪魔をしなくなったからだ。

 新たに現れたパーティの容姿だが、魔装士は仮面で顔が見えないので不明だが、あとの三人は皆美形であった。

 見学パーティのリーダーと盗賊が戦士の格好をした女神官と女戦士にキメ顔やカッコいいと思っているポーズを向けて気を引こうとしていた。

 残る女戦士も無表情の男戦士に色目を使ったり甘い言葉をかけていた。

 とても戦いの最中にやるようなことではないはずだがその者達はそう思わなかったようだ。

 ともかく、依頼を受けたパーティは戦いに専念できた。

 それにいざとなったら彼らが助けてくれるという確信もあった。

 そうでなければ女魔術士を助けたりはしないはずなのだから。



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